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意識的にシングルを選択し、幸福な人生を送る…世界中に急増「シン・独身者」に共通する5つの価値観

  • 2023.7.27

自ら独身を選び、伸び伸びと生きている人の共通点は何か。イスラエルの社会学者であるエルヤキム・キスレフさんは「社会に横たわる独身差別に屈せず幸福に生きているシングルは、ポジティブな自己認識をもっている。そのような自己認識は、自信、楽観主義、自分には価値があると思えることの3点によって構成される」という――。

※本稿は、エルヤキム・キスレフ(著)、舩山むつみ(訳)『「選択的シングル」の時代 30カ国以上のデータが示す「結婚神話」の真実と「新しい生き方」』(文響社)の一部を再編集したものです。

若い女性は川岸で瞑想を楽しんでいます
※写真はイメージです
独身差別に屈せず幸福な「新しいシングル」の正体

シングルの人たちに対するあからさまな文化的嫌悪が存在し、また、結婚していない人たちを差別する政策まで定められているにもかかわらず(※1)、シングルでいることを選択し、充実した人生を送っている人が増えている(※2)。

シングルの人たちは、ネガティブな自己認識に慣れてしまっている。しかし最近では、人口統計上の変化もあり、独身差別やスティグマ化の影響に簡単には傷つかない、むしろ、まったく屈しない「新しいシングル」が次々と誕生している(※3)。

そして、最新の調査結果によれば、この新しく生まれたシングルの人たちは、以前のままのシングルの人たちより、幸福だということがわかっている(※4)。

彼ら、新しいシングルを助けている戦略がどんなものなのかこれから詳しくみていこう。

社会的プレッシャーと差別に立ち向かうための5つの戦略

戦略①独身差別に対する意識を高める

最初に明らかになった戦略は、シングルを取り巻く差別と社会的プレッシャーを認識することだ。この戦略を理解すること自体は容易だが、実行するのはそう簡単ではない。

差別を受けたという意識が、シングルの人たちの自己肯定感に与える影響を探った研究によると、シングルの人たち自身でさえも、独身差別についてまったく無知であることがわかった(※5)。

シングルの人たちのうち、「シングルの人たち」という項目を、差別されているグループとして自発的に選んだのは、たった4%だった。

そして、シングルの人たちはスティグマ化されているかと、はっきり質問されたときに、「イエス」と答えた人は、シングルの人たちの30%、カップルになっている人たちの23%だった。

これとは対照的に、ゲイの男性の100%、肥満の人たちの90%、アフリカ系アメリカ人の86%、女性の72%が、自分たちのグループは差別されていると答えている。

LGBTのレインボーフラッグを屋外で開催して楽しんでいる若い多様な人々
※写真はイメージです

これらの結果からは、独身差別という習慣は容認できるものだと考えられていることがわかる。

それ以上に重要なのは、独身差別についての認識を高めた回答者たちは、同時に、自尊心と幸福感をも増大させているということである。

つまり、差別を認識することこそが、独身差別の影響を回避するための重要な第一歩なのだ。

この点について、ロリという人物は次のような投稿をしていた。

世界には独身差別と結婚至上主義が満ちていると気づいた自分は頭がおかしいわけではないとわかって、私はかえって、自分のことでも気分がよくなったし、物事を以前より明確にとらえることができるようになった。今ではそれに気づけてよかったと思っている。

もちろん、ときどき、ムカつくこともある。でも、ムカついてたのはずっと前からだったのに、私は自分の怒りには理由があるということに気づいていなかった(※6)。

差別に気づいて、「これは差別だ」と認識したことで、ロリの気分は以前よりよくなった。シングルの人たちが差別を認識し、その効果が彼らの心の健康にあらわれるということは、一見すると理解しにくいことかもしれない。

しかし、そのほかの疎外されたグループのことを考えてみれば、彼らもまた、さまざまな社会運動をとおして、自分たちの置かれている状況に対する意識を高め、差別の問題を公共の課題とすることによって、自分たちの心の健康を増進させてきたのだ。

実際、シングルの人たちが自分たちに向けられたネガティブな社会的態度を認識できていないことを考えると、こんにち、社会運動はとりわけ必要になっているのかもしれない。

ロリはまた、こういう投稿もしている。

独身差別を「差別だ」と認識していない人たちがどれほどたくさんいるだろう。私も働き始めたばかりの20代のころには、自分をそういうふうに扱うことは「正しい」ことだと思っていた(※7)。

「私はシングルとしての人生に満足している」

戦略②ポジティブな自己認識をもつ

第二の戦略は、ポジティブな自己認識の構築だ。

たとえば、664人の若い成人が参加したある研究によると、ポジティブな人間関係と自己認識は、希望的な見通しとウェルビーイングの増大につながっている(※8)。

研究からは、ポジティブな自己認識は高レベルの幸福感と相関関係があることがわかった。個人主義の傾向の強い文化にあっては特にそうだが、それ以外の国でもやはり同様である(※9)。

60歳で、離婚の経験のあるパトリシアは、こう話した。

結局、自分にどれだけ自信をもつかだと思うの。自分自身が、「ああ、シングルだなんて本当に情けない」なんて言っていたら、まわりの人たちももちろん、いろいろ言ってくるわけ。だけど、シングルでいることは、私の人生にとっては問題でもなんでもないの。私は自分で選択したんだし、私はシングルでいることが上手にできているの。

パトリシアはインタビューのあいだ、ずっと機嫌がよかった。自分の状況をポジティブにとらえているし、自信をもっている。

彼女の話を聞いていると、シングルでいるという自分の選択についての自信が、全体的な自己認識につながっており、自分自身、そして、シングルの女性であるという現実に対しても、満足していることがわかる。

ドイツのフランクフルトに住む37歳のリナは、パトリシア以上に、ポジティブな自己イメージと自己受容の重要性を強調する。

私の考えでは、(自己イメージと自己受容の)多くはあなた自身のかもし出すイメージに左右されるんだと思う。あなたが自分を受け入れれば、ほかの人たちも多分、あなたを受け入れるようになる。

おかしな話なんだけど、ドイツに来たとき、私は結婚してないのに、教会にいた人たちが、もっと子どもをもつ気があるのかって何度も聞くの。

「次の子どもはいつ産むつもり?」って。

私は、「ちょっと待ってよ。その前に結婚しなきゃ」って言ったわ。しばらくしたら、その人たちにもわかってもらえた。

つまり、こういうことなのよ。自分で自分を受け入れることができれば、まわりの人たちも、そのままのあなたを受け入れるようになる。そのままのあなたであることを、彼らも問題にしなくなる。

私の統計的な分析でも、ポジティブな自己認識は、離婚した人たち、配偶者に先立たれた人たち、結婚したことのない人たちの幸福感と同様の関係があることがわかっている。

結婚していない人たちの場合、ポジティブな自己認識のレベルがほんの少しでも上昇すれば、そのたびに、結婚している人たちの場合よりも大きな効果があらわれる。

見方を変えて、年齢、教育、収入、性別、子どものあるなしなどのほかのあらゆる変数を考慮に入れるなら、ポジティブな自己認識をもつシングルの人の幸福感は、ポジティブな自己認識をもたないシングルの人に比べて、30%近く高まっている。

ニューヨークに生まれ、現在はロンドンに住む、31歳のマヤはこう話している。

これはみんなにいうべきことだと思うし、見ていればおもしろいと思うんだけど、人は誰でも自分自身の人生の旅をしているの。誰でも、自分自身をもっとよく把握することができれば、ありのままの自分に対してもっと居心地がよく感じられるようになっていく。

楽観主義も、同様の役割を果たしている。楽観的な態度でいることは、私のインタビューでも、重要なテーマになった。楽観的な考え方こそが、自己認識と主観的なウェルビーイングをつないでいることは、ほかの研究結果からもすでに判明していたことだが、私の調査の結果もそれと一致している(※10)。

スウェーデンに住む54歳のヨルゲンはこう言う。

自分がシングルだっていう気はしないんだ。うれしいことに、自分は守られてるって気がしてるし、あんまり心配することはない。いい人生を生きていると思ってるし、それで十分だ。

私が統計を分析した結果でも、楽観的な見方をするシングルの人たちは、そうでない人たちに比べて、35%多く幸福を感じている。人は楽観的でいたほうが気分がいいことは明らかだ。

自分は教養を備えた、価値のある存在だと感じられるか

ここで疑問となるのは、シングルの人たちのポジティブで前向きな自己認識のために、結婚している人たちの場合と比べて、楽観主義がより重要な役割を果たしているかどうかだ。

私はその答えを、自分のおこなった別の統計分析のなかから、見つけることができた。それによると、楽観主義は、結婚していない人たちにとって、特に重要な役割を果たしていることがわかった。

この理由として考えられるのは、ポジティブで前向きでいるという内的な傾向は、子どもや配偶者という外的な「セーフティー・ネット」をもたないシングルの人たちにとってはプラスになっているということだ。このような内的な傾向が、人が逆境と闘うための自信と自立の意識を育ててくれる(※11)。

ポジティブな自己認識のもうひとつの側面は、自分は価値ある存在であり、教養を備えていると感じられることであり、それは仕事や趣味、あるいは友人たちをつうじて得ることができる。

シングルの人たちは、よりフレンドリーで、物質的なことにはあまり執着せず、ほかの人たちより多くの意味を仕事から見出す傾向がある(このことについては本書で詳しく述べている)。

オフィスで様々な人が生き生きと働いている
※写真はイメージです

たとえば、シングルの人たちは、結婚している人たちと比べて、よりおもしろく、挑戦しがいがあり、達成感のある仕事を探すこと、また、仕事をつうじて結婚している人たちより多くを内在的に得ていることが、研究によってわかっている(※12)。

私の分析もこの研究を支持している。自分は価値ある存在であり、教養を備えているという感覚をもっていれば、結婚したことのない人たち、離婚を経験した人たち、そして配偶者に先立たれた人たちの幸福感のレベルは、結婚している人たちと比べて高くなっている。

これは、自分は教養を備えた、価値のある存在だと感じるだけで、シングルの人たちは結婚している人たちとのギャップを埋めることができるという意味だ。その理由は簡単だ。シングルの人たちは、核家族の外に意味を見出し、それによって自尊心を高めることができているのだ。

ここで説明しているポジティブな自己認識を構成する要素は、自信、楽観主義、自分には価値があると思えることの3点であり、これらの要素がシングルの人たちの自己認識を高めうる道筋を示している。

確かに、ポジティブな自己認識を育てるのは、簡単なことではけっしてない。また、シングルの人たちの自己認識は、ほかの複数の要素によって決まる。

それらの要素とはつまり、収入(※13)、教育レベル(※14)、家族のサポート(※15)、それに宗教への信心(※16)だ(これらの要素はどんな人の場合でも、自己肯定感を左右している)。

ある研究によれば、教育レベルが高いほど、家族のサポートが多いほど、そして宗教心が弱いほど、シングルの人たちの自己受容は高い傾向がある(※17)。

別の複数の研究によれば、文化的な要因、特に、個人主義が人々の自己肯定感を左右していることがわかっている(※18)。

したがって、シングルのポジティブな自己認識は、これらの多様な要素と関連しつつ、彼らを内側からも、外側からも支えているといえるだろう。

シングルの人たちを支援する共同住居や、集団生活のプランも

戦略③ネガティブ思考をやめ、シングルにやさしい環境を選ぶ

第三の戦略は、シングルの人たちを取り巻いているプレッシャーと差別を避けることだ。

ロサンゼルス、ロンドン、東京などの大都市では、シングルにやさしい環境が数多く発展している。こうした地域では、年齢に関係なく、ひとりで生きることが「クール」で「かっこいい」と思われている。

52歳のジャスティンは、自分の住んでいるロサンゼルスを絶賛している。

ロサンゼルスのようなところでは、まわりにいる自分と年齢の近い人たちのほとんどがシングルなんだよ。大都市は、特にロサンゼルスは、「身をかためて子どもを作ろう」なんていうよりは、もっと遊び好きな都市なんだ。こういう都市に住むのは、本当に楽しいね。

ロサンゼルスのような大都市はプライバシーを大切にする。そこではシングルの人たちは消極的になることなく、ほかの人たちとつながり、多くの活動を楽しむチャンスを得ることができる。だからこそ、空前の数のシングルの人たちが大都市に集まってきたのも不思議なことではない。

しかし、現代のシングルのニーズに応えることができる場所は、大都市だけではない。地方のもっと宗教心の強い地域でも、シングルにやさしい環境が生まれつつあるし、アメリカの多様な教会で、シングルの生活は熱い話題になってもいる(※19)。

2013年には、カトリックの伝統の文化のなかでもシングルの人数が増えたことを考慮して、シングルの人生を認め、祝福するようカトリック教会に対して働きかける異例の記事も発表された(※20)。

この記事は、カトリックのコミュニティー全体で反響を呼び、非常に多くの賛同を得た。

このようなシングルにやさしい環境においては、シングルのコミュニティーの描写のされ方や社会的構成が、ポジティブな自己認識を促進する条件を生み出すものとなっている。

こうした環境は、シングルのライフスタイルを正常なものととらえているので、自己肯定感の低下につながる独身差別や結婚至上主義を弱める助けになっている(※21)。

さらに、シングルの人たちを支援する共同住居や、集団生活のプランも誕生している(※22)。

近年では、さまざまなソリューションが展開されており、そのなかには、一日計算でオフィス空間を貸し出すWeWorkの系列企業で、シングルをターゲットにした市場志向型のWeLiveがある。

WeLiveは今、ワシントンDCとニューヨークのマンハッタンで、以下のようなコンセプトで営業しているという。

WeLiveは、コミュニティー、柔軟性、そして、私たちはみな、自分を取り巻く人たちと同じ人間なのだという信念にもとづいて発展した新しい生き方だ。メールルーム(郵便物の仕分けのための部屋)から、バーやイベント・スペースの役割も果たす洗濯室、共同キッチン、ルーフデッキ、浴室にいたるまで、WeLiveは有意義な関係を育てる実際の空間を作ることで、伝統的なアパートメントの生活以外のあり方を模索していく(※23)。

このようなコミュニティー・スペースは、衣食住の面で似たような考え方の人々を集めるだけでなく、帰属意識をもつことのできる柔軟な社会的ネットワークを提供することによって、人々を結びつけている。

アウトサイダー同士が一緒に暮らす多大なメリット

私たちはWeLiveの声明に内在している非常に慎重な言い方に注意を払うべきだろう。「有意義な関係を育てる実際の空間」というとき、「長続きする」ではなく、「有意義な」という言葉を選んでいるし、関係(relationships)は「s」を付けて複数形にしているから、一対一の献身的な関係を意味しているわけではない。

このような背景で、LGBTQ[レズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、両性愛(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)、クィア(Queer)またはクエスチョニング(Questioning)の人たち]のコミュニティーのことを考えてみるのは興味深い。

性的少数者の人たちは実際、「性的少数者であること」と「シングルであること」の二重のスティグマに対処しなくてはならない。

しかし、このような二重の重荷を背負っているにもかかわらず、LGBTQの人たちの住居形態と社会的習慣を調査してみると、彼ら、特に高齢の人たちは、LGBTQ以外の人たちに比べて、共同の住居で暮らしている人が多く、性的少数者にやさしい環境で暮らすことの恩恵を受けている(※24)。

つまり、社会的なスティグマに慣れているLGBTQのコミュニティーの人たちは、現実には、ほかのシングルの人たちが直面する、「結婚しなければならない」という社会からのプレッシャーを受けることも少なく、その結果、友人と一緒に暮らす人たちが異性愛者のシングルの人たちよりも多いのだ。

彼らはもとより、自分はアウトサイダーだと感じている。だからこそ、少なくとも、考えを同じくする人たちと一緒に暮らすことから得られる多くの利点を享受することを選んでいるのだ。

また、アイデンティティーを共有し、同じ困難に直面し、自分の社会的状況について全面的に共感できる人たちと一緒にいることで、幸福感を増大させ、気分が落ち込むリスクを軽減させることができる。

研究からも、自分と同様の友人たちと一緒にいる性的少数者の人たちは、より多くのものを享受し、快適な生活をしていることがわかっている(※25)。

実際、民族的にもマイノリティーのLGBTQの高齢者は、三重、四重の社会的スティグマを受ける可能性もあるわけだが、彼らは自分と同じアイデンティティーをもつ人たちと一緒にいることから、とりわけ恩恵に与(あずか)っている(※26)。

そう考えると、シングルにやさしい環境を見つけることができたシングルの人たちは、社会関係資本による利益だけでなく、ほかの人たちと分かちあい、共感を得られるという付加価値をも手に入れることができる。

「ああ、まだ結婚してるんですか?」

戦略④差別的な習慣を真正面から拒絶する

第四の戦略は、差別的な習慣を真正面から拒絶することだ。

このようなアプローチは、これまで自分たちの権利と社会のなかでの居場所を求めて闘い、すでに各国の政府や組織から認められるに至った多くの民族的、性的な少数者のグループにとっては、けっして新しいものではない(※27)。

しかし、このような戦略はまだ、シングルの人たちには受け入れられていないし、当たり前のことにもなっていない。シングルの人たちは、差別的な習慣に対して、独創的な方法で、個人的に闘わなくてはならない。

2人の日本の若いカップルが結婚しました
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「アイリッシュ・タイムズ」紙に掲載されたロスの発言によれば、典型的な差別的習慣とはこういうものだ。

首を傾けて、いかにも同情してるような声で、「ああ、まだ独身なんですか」って言われる。お返しに、いかにも同情してるような声で言ってやりたくなるよ。「ああ、まだ結婚してるんですか? 自分でなんとかできないんですか?」ってね。ああいう言い方は、「シングルの人間である自分は無価値なものだ」って言われてるのと同じだ(※28)。

ロスには結婚生活を攻撃する考えはなく、彼がこう返答したいと思った言葉は、自衛的な意図で思いついたものだと強調する。そう返すことで、人の生き方はさまざまだということを指摘して、ほかの人たちのものの見方を変えることができるかもしれないと彼は思ったのだ。

そのような返答をすることで、もしかしたら、シングルの人たちが受け入れられるようになり、「結婚しなければならない」という社会からのプレッシャーをもっとはね返すことができるかもしれない。

49歳の離婚経験者レイチェルは、ロスよりもっと率直だ。彼女は自分のブログに、「シングル・アクションの呼びかけ」というタイトルの闘争的な記事を書いている。

最も基本的なサポートを結婚と家族に頼る現在のシステムを受け入れてしまうと、私たちは「自分たちはシステムのなかの悪なのだ」と罪の意識を感じなければならなくなってしまう。

私たちを思いやりのある社会から遠くへ遠くへと押しやる勢力に立ち向かうときがきたのではないか?

シングル・アクションを開始するときがきたのではないか?

シングル・アクションとはすなわち、シングルの人間として、社会構造のなかに組み込まれているはずの社会的サポートのために闘い、おたがいを支えあう責任を真剣に果たしていくことだ。

シングルの人間として、真の独立とは相互に支えあうことなのだと、私たちは誰よりもよく理解している。私たちは、もっと思いやりのある社会にするために、この知恵を使おう。

少しでも多くのシングルの人たちが、どんな仕事で生計を立てているか、年齢はいくつかなどに関係なく、たとえ、一生シングルでいることを選んだとしても、必ず、大事にされるようにしよう(※29)。

彼女が心から望むのは、スティグマを軽減するとともに、シングルの人たちを排除したり、シングルの利益に反対したりすることのない社会を築くことだ。こう考えているのは、レイチェルひとりではない。

このような呼びかけの声は日に日に高まっているが、本当の変化はほんの少ししか起きていない(※30)。それでも、こうした動きは実際に社会の変化を起こすだけでなく、ほかの種類の社会運動の場合と同様に、参加する人たちに恩恵とエネルギーを与えていることが研究からわかっている(※31)。

こうして、私たちは差別的な習慣を積極的に拒絶することによって、社会的アイデンティティーを構築し、差別的な習慣によって引き起こされる困難を軽減することができる。そういう意味では、抗議することこそが、シングルの人たちが権限(パワー)と自信を勝ち取るための第一歩なのだ。

シングルを選択している人は哀れで、孤独とみられる

戦略⑤自らの権限を強化する

第五の戦略は、自分がシングルであることについて、無視されているとか、魅力的でないなどと考えるのはやめて、もっとポジティブな見方をすることにより、自分の権限を強化することだ。

この戦略は、ポジティブな自己認識を育てることとは異なる。個人のことに焦点を合わせることとは違い、シングルである自分の状況に関わることだからだ。

この場合、幸福なシングルの人たちは、結婚していないという自分の状況をポジティブなものととらえ、シングルであることが自分の幸福に不当に影響を与えることを許さない。

近年、研究者たちは、シングルの生活や人生、ステレオタイプについて研究する際、シングルの人たちをひとつの同質的なグループではなく、二つのタイプとして基本的に区別しなければならないと考えている。

第一のグループは、「自分の選択でシングルでいる人たち」で、彼らはシングルであることを幸福に思っており、パートナーを求めてはいない。第二のグループは、「状況によってシングルになった人たち」で、結婚を希望している人たちや、現在も結婚しようと思っている人たちが含まれる。

もちろん、それぞれの個人は現在属しているグループから、もうひとつのグループに移行することもできるが、二つのグループは、自分がシングルであることをどう感じているか、シングルであることをどの程度まで受け入れているかという点で異なる(※32)。

永続的にシングルである、あるいは一時的にシングルであることを幸福に感じている人たちに権限を付与することは特に重要だ。なぜなら、こういう人たちは、最も厳しい社会的な問題に直面しがちだからだ。

意外にもこういうシングルの人たちは、できればカップルになりたいと思っているシングルの人たちに比べて、もっとネガティブに受け止められている(※33)。

なかでも、自分の選択によってシングルであることを選んでいる人たちは、なりゆきによってシングルになっている人たちに比べて、特に哀れで、孤独な存在だとみられている。後者のシングルの人たちのほうが、成熟していて、社交的だと思われているのだ。

このような結果になった理由を考えてみると、自分の選択でシングルでいる人たちは、結婚至上主義という社会的規範に反抗しているとみられて、他者の怒りを引き起こすが、状況によってシングルになってしまった人たちのほうは共感を得ることができるからだ(※34)。

シングルの人たちの権限を強化するためには、当事者たちがシングルでいることを心地よく感じるだけでは十分ではない。社会と、そして、周囲の人々がより親切になるように、シングルの人たちに対する解釈の仕方を再定義しなければならないのだ。

ポジティブなものの見方を身につけるためには、いろいろな方法がある。シングルの権限を強化することを目的として最近書かれた本や記事は、変化をもたらす迅速で、簡単な方法の一部とみることができるだろう。

懐疑的な立場をとる人たちもいるかもしれないが、ポジティブな考え方を奨励する本は、読者のウェルビーイングに持続的なよい効果を残すことが、各種の研究からわかっている(※35)。

また、なんらかの講座を受講する、ワークショップに参加する、コンサルティングを受けるなど、権限を与える介入をおこなえば、シングルの人たちの幸福を増大させ、彼らが社会的緊張や、差別に立ち向かえるようにすることができるという分析結果もある(※36)。

本当の意味で幸せなシングルライフへの道を切り開く

このことは、ある意味で、私が参加してみたシングルのための匿名のワークショップを思い起こさせる。

シングルの人たちのなかには、自分にふさわしい相手を見つけたい、結婚という道を歩んでみたいと望む人たちもいた。だが、そうではなくて、自分のシングルという状況に不安を感じないようになりたいと切望する人たちもいた。

結婚していない自分の状態を安らかに感じられるようにサポートしてくれるワークショップは、めったに開催されていないが、そのニーズは確かにある。

エルヤキム・キスレフ『「選択的シングル」の時代? 30カ国以上のデータが示す「結婚神話」の真実と「新しい生き方」』(文響社)
エルヤキム・キスレフ『「選択的シングル」の時代 30カ国以上のデータが示す「結婚神話」の真実と「新しい生き方」』(文響社)

そういうワークショップは、どんな内容であるべきだろう? 世の中にごまんとある、結婚生活を向上させ、長続きさせるためのセミナーのことを考えてみよう。それらのセミナーと同じように、心理学者や教育者たちは、シングルのライフスタイルに役立つワークショップや講座を開発することができるはずだ。

実際、離婚した人たちや、配偶者に先立たれた人たちが感じる喪失と別れを克服するサポートをおこなう支援グループはすでに数多くある。だが、過去を乗り越えるだけでなく、さらに必要なことがある。

結婚していない人たちも、自分の新しい状況を楽しむことができるのだから、離婚したばかりの人たちや、配偶者に先立たれたばかりの人たちのためのセミナーも、それを目標にして計画するべきだ。

同様に、学校も、その教育カリキュラムのなかで、シングルのライフスタイルについての情報を提供するべきだ。

今の子どもたちの一部は一生結婚しないだろうし、誰もが長い人生のいつかの時点で、必ずシングルとして生きていくことになる。シングルとしての生活の仕方、結婚至上主義への対処の仕方は、私たち全員の社会生活の道具箱に用意されていなければならない。

本書では、幸福なシングルの生き方の多くの側面を紹介している。今回は、幸福なシングル生活を送るための最も重要なステップを紹介した。

今までに説明した5つの戦略――①独身差別に対する意識を高める、②ポジティブな自己認識をもつ、③自分に適した環境を選ぶ、④差別的な習慣に屈しない、⑤自らの権限を強化する――は、どれも、必ずしも個人のニーズや意志と結びついていない社会的連鎖を破るためには不可欠なことだ。

社会的な重荷から自己を解放することができさえすれば、シングルの人たちは必ず、力強く生きるすべを見出し、本当の意味で幸せなシングルライフへの道を切り開くことができるだろう。

※1. Bella M. DePaulo and Wendy L. Morris, “The Unrecognized Stereotyping and Discrimination against Singles,”Current Directions in Psychological Science 15, no. 5 (2006): 251-54.
※2. Eric Klinenberg, Going Solo: The Extraordinary Rise and Surprising Appeal of Living Alone (New York:Penguin, 2012)[ 『シングルトン ひとりで生きる!』エリック・クライネンバーグ著, 白川貴子訳, 鳥影社, 2014年];Bella M. DePaulo, Singled Out: How Singles are Stereotyped, Stigmatized, and Ignored, and Still Live Happily Ever After (New York: St. Martin’s Griffin, 2007)[ 『シングルド・アウト アメリカ社会のシングリズムとマトリマニア 第I巻』『シングルド・アウト アメリカ社会のシングリズムとマトリマニア 第II巻: 結婚神話1~4』ベラ・デパウロ著, 旬馬ゆきの編訳, Kindle版].
※3. Bella DePaulo, How We Live Now: Redefining Home and Family in the 21st Century (Hillsboro, OR: Atria Books, 2015); Kinneret Lahad, A Table for One: A Critical Reading of Singlehood, Gender and Time(Manchester, UK: University of Manchester, 2017).
※4. Pieter A. Gautier, Michael Svarer, and Coen N. Teulings, “Marriage and the City: Search Frictions and Sorting of Singles,” Journal of Urban Economics 67, no. 2 (2010): 206-18.
※5. Wendy L. Morris, “The Effect of Stigma Awareness on the Self-Esteem of Singles,” Online Archive of University of Virginia Scholarship, 2005.
※6. Lauri, response to Bella DePaulo, “Is It Bad to Notice Discrimination?” Psychology Today , on June 16, 2008,www.psychologytoday.com/blog/living-single/200805/is-it-bad-notice-discrimination.
※7. Ibid.
※8. Gian Vittorio Caprara, Patrizia Steca, Maria Gerbino, Marinella Paciello, and Giovanni Maria Vecchio, “Looking for Adolescents’ Well-Being: Self-Efficacy Beliefs as Determinants of Positive Thinking and Happiness,” Epidemiologia e psichiatria sociale 15, no. 1 (2006): 30-43.
※9. Ulrich Schimmack and Ed Diener, “Predictive Validity of Explicit and Implicit Self-Esteem for Subjective Well-Being,” Journal of Research in Personality 37, no. 2 (2003): 100-106.
※10. Evangelos C. Karademas, “Self-Efficacy, Social Support and WellBeing: The Mediating Role of Optimism,”Personality and Individual Differences 40, no. 6 (2006): 1281-90.
※11. Charles S. Carver, Michael F. Scheier, and Suzanne C. Segerstrom, “Optimism,” Clinical Psychology Review 30, no. 7 (2010): 879-89.
※12. Bella M. DePaulo, Singled Out: How Singles are Stereotyped, Stigmatized, and Ignored, and Still Live Happily Ever After (New York: St. Martin’s Griffin, 2007)[ 『シングルド・アウト アメリカ社会のシングリズムとマトリマニア 第I巻』『シングルド・アウト アメリカ社会のシングリズムとマトリマニア 第II巻: 結婚神話1~4』ベラ・デパウロ著, 旬馬ゆきの編訳, Kindle版]; Monica Kirkpatrick Johnson, “Family Roles and Work Values: Processes of Selection and Change,” Journal of Marriage and Family 67, no. 2 (2005): 352-69.
※13. Sally Macintyre, Anne Ellaway, Geoff Der, Graeme Ford, and Kate Hunt, “Do Housing Tenure and Car Access Predict Health Because They Are Simply Markers of Income or Self Esteem? A Scottish Study,” Journal of Epidemiology and Community Health 52, no. 10 (1998): 657-64.
※14. Richard J. Riding and Stephen Rayner, Self Perception (London: Greenwood, 2001).
※15. Lois M. Tamir and Toni C. Antonucci, “Self-Perception, Motivation, and Social Support through the Family Life Course,” Journal of Marriage and Family 43, no. 1 (1981): 151-60.
※16.Christopher G. Ellison, “Religious Involvement and Self-Perception among Black Americans,” Social Forces 71,no. 4 (1993): 1027-55.
※17. Najah Mahmoud Manasra, “The Effect of Remaining Unmarried on Self-Perception and Mental Health Status:A Study of Palestinian Single Women” (PhD diss., De Montfort University, 2003).
※18. Ed Diener and Marissa Diener, “Cross-cultural Correlates of Life Satisfaction and Self-Esteem,” in Culture and Well-Being: The Collected Works of Ed Diener , ed. Ed Diener (Dordrecht, Netherlands: Springer, 2009),71-91.
※19. Lauren F. Winner, “Real Sex: The Naked Truth about Chastity,” Theology & Sexuality 26, no. 1 (2015).
※20. Christena Cleveland, “Singled Out: How Churches Can Embrace Unmarried Adults,” Christena Cleveland(blog), December 2, 2013, www.christenacleveland.com/blogarchive/2013/12/singled-out.
※21. Bella M. DePaulo, Singled Out: How Singles are Stereotyped, Stigmatized, and Ignored, and Still Live Happily Ever After (New York: St. Martin’s Griffin, 2007)[ 『シングルド・アウト アメリカ社会のシングリズムとマトリマニア 第I巻』『シングルド・アウト アメリカ社会のシングリズムとマトリマニア 第II巻: 結婚神話1~4』ベラ・デパウロ著, 旬馬ゆきの編訳, Kindle版]; Kinneret Lahad, “‘Am I Asking for Too Much?’ The Selective Single Woman as a New Social Problem,” Women’s Studies International Forum 40, no. 5 (2013): 23-32.
※22. Jenny Gierveld, Pearl A. Dykstra, and Niels Schenk, “Living Arrangements, Intergenerational Support Types and Older Adult Loneliness in Eastern and Western Europe,” Demographic Research 27, no. 2 (2012): 167.
※23. WeLive, “We Live: Love Your Life,” 2017, www.welive.com/.
※24. Lisette Kuyper and Tineke Fokkema, “Loneliness among Older Lesbian, Gay, and Bisexual Adults: The Role of Minority Stress,” Archives of Sexual Behavior 39, no. 5 (2010): 1171-80.
※25. Hyun-Jun Kim and Karen I. Fredriksen-Goldsen, “Living Arrangement and Loneliness among Lesbian, Gay,and Bisexual Older Adults,” The Gerontologist 56, no. 3 (2016): 548-58.
※26. Jesus Ramirez-Valles, Jessica Dirkes, and Hope A. Barrett, “Gayby Boomers’ Social Support: Exploring the Connection between Health and Emotional and Instrumental Support in Older Gay Men,” Journal of Gerontological Social Work 57, no. 2-4 (2014): 218-34.
※27. Elyakim Kislev, “Deciphering the ‘Ethnic Penalty’ of Immigrants in Western Europe: A Cross-classified Multilevel Analysis,” Social Indicators Research (2016); Elyakim Kislev, “The Effect of Education Policies on HigherEducation Attainment of Immigrants in Western Europe: A Cross-classified Multilevel Analysis,”Journal of European Social Policy 26, no. 2 (2016): 183-99.
※28. Jennifer O’Connell, “Being on Your Own on Valentine’s Day: Four Singletons Speak,” Irish Times , February 11, 2017, www.irishtimes.com/life-andstyle/people/being-on-your-own-on-valentine-s-day-four-singletonsspeak1.2964287.
※29.Rachel, “A Call for Single Action,” Rachel’s Musings , September 16, 2013, www.rabe.org/a-call-for-singleaction/.
※30. Bella M. DePaulo, Singled Out: How Singles are Stereotyped, Stigmatized, and Ignored, and Still Live Happily Ever After (New York: St. Martin’s Griffin, 2007)[ 『シングルド・アウト アメリカ社会のシングリズムとマトリマニア 第I巻』『シングルド・アウト アメリカ社会のシングリズムとマトリマニア 第II巻: 結婚神話1~4』ベラ・デパウロ著, 旬馬ゆきの編訳, Kindle版]; Bella DePaulo, Marriage vs. Single Life: How Science and the Media Got It So Wrong (Charleston, SC: DoubleDoor Books, 2015); Bella DePaulo, “Single in a Society Preoccupied with Couples,” in Handbook of Solitude: Psychological Perspectives on Social Isolation, Social Withdrawal, and Being Alone , ed. Robert J. Coplan and Julie C. Bowker (New York: John Wiley & Sons, 2014), 302-16.
※31. Alice Poma and Tommaso Gravante, “‘This Struggle Bound Us’: An Analysis of the Emotional Dimension of Protest Based on the Study of Four Grassroots Resistances in Spain and Mexico,” Qualitative Sociology Review12, no. 1 (2016).
※32. Wendy L. Morris and Brittany K. Osburn, “Do You Take This Marriage? Perceived Choice over Marital Status Affects the Stereotypes of Single and Married People,” Singlehood from Individual and Social Perspectives(2016): 145-62; Gal Slonim, Nurit Gur-Yaish, and Ruth Katz, “By Choice or by Circumstance?: Stereotypes of and Feelings about Single People,” Studia Psychologica 57, no. 1 (2015): 35-48.
※33. Wendy L. Morris and Brittany K. Osburn, “Do You Take This Marriage? Perceived Choice over Marital Status Affects the Stereotypes of Single and Married People,” Singlehood from Individual and Social Perspectives(2016): 145-62; Gal Slonim, Nurit Gur-Yaish, and Ruth Katz, “By Choice or by Circumstance?: Stereotypes of and Feelings about Single People,” Studia Psychologica 57, no. 1 (2015): 35-48.
※34. Gal Slonim, Nurit Gur-Yaish, and Ruth Katz, “By Choice or by Circumstance?: Stereotypes of and Feelings about Single People,” Studia Psychologica 57, no. 1 (2015): 35-48.
※35. Ad Bergsma, “Do Self-Help Books Help?” Journal of Happiness Studies 9, no. 3 (2008): 341-60.
※36. Linda Bolier, Merel Haverman, Gerben J. Westerhof, Heleen Riper, Filip Smit, and Ernst Bohlmeijer, “Positive Psychology Interventions: A Meta-analysis of Randomized Controlled Studies,” BMC Public Health 13, no. 1(2013): 119.

エルヤキム・キスレフ
社会学者
イスラエル・ヘブライ大学の公共政策・政府学部で教鞭を執る。マイノリティー、社会政策、シングル研究が専門。米国・コロンビア大学で社会学の博士号を取得したほか、カウンセリング、公共政策、社会学の3つの修士号を有する。リーダーシップ、移住、社会・教育政策、エスニック・マイノリティー、グループ・セラピー、シングルなどのテーマで、多くの記事・書籍を執筆・編纂している。

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