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悩める人の「周り」にいるあなたへ (後編) /外国人店員への高圧的な客の態度にモヤモヤ

  • 2023.7.26
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職場に悩みを抱えたり困っている人がいるとき、そこには「力になりたい」と考える人がいるはず。そんな、悩んでいる人の「周り」にいる人のためのお悩み相談企画です。SNSで募集したお悩みに、社会学者の森山至貴先生がお答えします。

森山至貴 社会学者

もりやま・のりたか/1982年神奈川県生まれ。早稲田大学文学学術院准教授。専門は、社会学 、クィア・スタディーズ 。 著書に『LGBTを読みとく―クィア・スタディーズ入門』(ちくま新書)、『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』『10代から知っておきたい女性を閉じこめる「ずるい言葉」』(いずれもWAVE出版)など。

外国人店員に高圧的な態度を取る客、どうしたらいい?

今回のお悩み

コンビニでアルバイトするAです。同僚にバングラデシュ出身のBさんがいます。時々お客さんとの会話がうまく噛み合わなくなる時もありますが、Bさんは日本語でコミュニケーションがとれます。

それなのに、Bさんが外国人という理由だけで高圧的な態度を取るお客さんを多く見かけます。そのたびにBさんは申し訳なさそうな態度を取っています。コンビニに来るお客さんは急いでいる人が多いとはいえ、理不尽な態度に腹が立ちます。お客さんに対して怒ることもできないので、どう問題を解決したらいいかわかりません。どうしたらいいでしょうか?

森山先生の回答:「『解決』とは誰にとってのなにか考える」

同僚Bさんが大変ひどい外国人差別の被害に遭っていること、そのことに相談者Aさんがとても心を痛めていらっしゃることが伝わってきました。Aさんへの回答の前にどうしても言っておきたいのですが、多くの外国人アルバイト店員によって支えられている日本のコンビニエンスストア業界は、外国人従業員を差別から守るためのしくみやルールをしっかりと作ってほしいと切に思います。そもそも、Aさんが心を痛めなければならない、そして何よりもBさんがこのようなつらい経験をしなければならない状況がおかしいのです。

ということで、このような差別に対応すべきなのはまず企業であるのは当然として、同僚としてAさんにできることは何かあるでしょうか。考えてみましょう。
ここでAさんにぜひお願いしたいことがあります。「どうやって解決したらいいかわかりません」とありますが、そもそもAさんにとってこの問題が「解決した」とは、どのような状態のことを指すのでしょうか?ぜひ考えてみてほしいのです。おそらく答えはひとつではないはずですから、それらのあいだに優先順位をつけてみてください。上から順番にできる範囲でその解決に向けて具体的に努力できるかを検討できるようになるはずです。

たとえば「差別的な客の応対を外国人同僚ができるだけしなくて済む」が「解決」だったら、Bさんと同じ時間帯のシフトに入っているときは、「困っているときは私が代わりに客対応をするから目配せしてほしい」などとBさんに言っておくことが可能です。「傷つけられたBさんが見捨てられずに、心理的なサポートを受けられる」であれば、「あなたは理不尽な目に遭っていると私は考えている、だから嫌なことがあったら私に吐き出してくれてもよいのだ」と言うことも可能でしょう。「この店舗を外国人にとっても働きやすい職場にする」であれば、店長や本部に勇気を出して掛け合う必要があるはずです。

ただし、Aさんが誠実に「解決」について考えていくと、遠からずぶつかる問いがあると思います。「この『解決』って、じつは私にとっての『解決』でしかなくて、同僚にとっての解決にはなっていないのでは?」、という問いです。そう考えてみると、必要なのはまずBさんに「あなたが受けているひどい仕打ちに関して、私にできる手助けはあるか」と尋ねることではないでしょうか。Bさんにとっての「解決」のイメージを誠実に聞き出し、その実現のためにできることを考えるべきだと思います。

それはしたくない、できないというのであれば、きつい言葉になりますが、その「解決」は、「他人への心ない言動に心を痛める自分」に陶酔しての自己満足にすぎないかもしれません。それは言い過ぎにしても、こちらとしては善意から客への応対を代わったつもりが、Bさんは「この人も客と同じで私には任せておけないと思ったのだ」と感じて傷つく、ということはありえます。一人よがりな「解決」はかえって困っている人を傷つけることに注意すべきでしょう。実際、このような(時に善意に基づきすらする)日常の言動が、マイノリティを非常に強く傷つける行為であることはよく知られていて、現在ではそれらの言動は「マイクロアグレッション」と呼ばれ、研究の対象にもなっています。

コンビニ客への働きかけは「怒る」だけじゃない

ということで、私からアドバイスできることがあるとしたら、まずは、じっさいに理不尽な目に遭っているBさんが望むことが何かを知るべきだ、というものです。具体的な方法は、Bさんにとっての「解決」のイメージに沿って考えられるべきでしょう。

「解決」の中身を困っているBさんに決めてもらって行動に移す際に気にしてみてほしいことがあります。「お客さんに対して怒ることもできない」という表現に関連するのですが、コンビニの利用客へできる働きかけは、「怒る」だけではありません。「気をそらす」「相手にしない」「罪悪感を抱かせる」など、さまざまありえます。また、厄介な客へのよい働きかけ方を、店長やベテランの店員が知っている可能性もあります。理不尽を少ない人数で抱え込まないためにも、「厄介な客にどう対応したらよいですか」と他の人に尋ねることでさまざまな方法を職場全体で共有していく、そういう地道なやり方もあるはずです。行き詰まったと焦って思い込まず、ぜひできる範囲でさまざまな方法を試してみてください。

text: Noritaka Moriyama, illustration: ery, edit: Chika Hasebe

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