1. トップ
  2. 【決勝直前】二度と見られない甲子園“延長17回の死闘” 1998年「横浜×PL学園」をプレイバック

【決勝直前】二度と見られない甲子園“延長17回の死闘” 1998年「横浜×PL学園」をプレイバック

  • 2023.8.23
undefined
出典:beeboys/shutterstock.com

今年も甲子園球場で行われている「第105回 全国高等学校野球選手権記念大会」。通称、「夏の甲子園」。高校球児たちが日本一の座を目指し、灼熱のグラウンドで汗を流す姿は、“高校の部活動”の域を超えた国民的行事となっています。

甲子園が、ここまで多くの人に愛される理由。それは、フィクションでも描けないような“奇跡”や“ドラマ”が起こるから。

105回もの長い歴史の中では、そんな試合がいくつもありました。今回は筆者が甲子園の歴史の中から、「激闘」をテーマにした伝説の試合をTRILL読者の方にお伝えしたいと思います。

“超高校級ピッチャー”だった横浜のエース・松坂大輔投手

undefined
ボストン・レッドソックス時代の松坂投手(写真:AP/アフロ)

今から25年前の1998年――。

第80回記念大会として行われた夏の甲子園の主役は、のちにプロ野球、メジャーリーグで活躍し、WBCでも2大会連続MVPを受賞することになる松坂大輔投手でした。

横浜高校(神奈川)のエースだった松坂投手はこの年、春のセンバツ甲子園で優勝。夏は“春夏連覇”の偉業を目指し、神奈川大会を突破して甲子園の舞台に乗り込んできました。

1998年・伝説の準々決勝「横浜vsPL学園」

松坂投手擁する横浜高校は初戦から順当に勝ち上がり、迎えた準々決勝。相手は大阪の強豪・PL学園。両校は春のセンバツでも対戦した過去があり、横浜が3-2で勝利していました。

当時、最速150キロを誇る“超高校級ピッチャー”だった松坂投手。PL学園ナインはそんな松坂投手を攻略するために大会前から入念な準備を行い、この試合に臨んでいました。

先制したのはPL学園でした。2回裏に松坂投手の連続無失点記録を25で止め、一挙3点を先制。試合を優位に進めます。実はこの試合、PL学園は松坂投手とバッテリーを組む小山良男捕手のクセを見抜いていたと言います。

“クセ”といえば普通はピッチャーにあるものですが、PL学園は松坂投手にクセがないことを察知すると、ターゲットを小山選手にチェンジ。それだけでも高校野球のレベルを超越した駆け引きがあったことがわかります。

激闘の延長戦の末…

undefined
出典:mTaira/shutterstock.com

試合は横浜高校がPL学園を追いかけながら得点を奪い合う展開になり、9回を終えた時点で5-5の同点。延長戦に突入します。この時点ですでに白熱した試合になっていましたが、ドラマはこの後に起こります。

延長11回、横浜は松坂投手のヒットを足掛かりに1点を勝ち越し。この試合、はじめてリードを奪います。誰もが「これで横浜の勝ちだ」と思ったはずです。しかしPL学園は驚異の粘りを見せます。その裏、2アウトまで追い込まれながらタイムリーヒットで同点に。試合は振り出しに戻ります。

それでも横浜は延長16回に再び勝ち越し。「今度こそ」と思ったその裏、またしてもPL学園は驚異的な粘りを見せて同点に追いつきます。このころには、「もう、どちらが勝つか誰にもわからない……」甲子園球場はそんな異様な空気に包まれていました。

そして迎えた延長17回。横浜は2アウトから常盤選手に2点ホームランが飛び出して三度めの勝ち越し。この2点が、結果として決勝点になりました。

17回の裏も松坂投手はマウンドに上がり、最後の打者を三振に打ち取ったのはこの試合250球目。松坂投手にはガッツポーズをする気力すらなく、マウンド上で「やっと終わった……」と安堵の表情を見せました。

試合時間、3時間37分――、横浜が9対7でPL学園を破りました

試合終了後、勝った横浜ナインは涙を流し、負けたPL学園ナインには笑顔がありました

横浜高校はこのあと、準決勝、決勝も制して史上5校目の“春夏連覇”を達成します。すべての試合が“劇的”でしたが、中でもこの準々決勝・延長17回の死闘は今なお、高校野球の歴史で語り継がれる伝説の試合になっています。

現在は「タイブレーク」を採用

undefined
出典:mTaira/shutterstock.com

ちなみに。現在の高校野球では延長戦に入るとノーアウト一、二塁から攻撃が開始される「タイブレーク制」を導入しています。

得点が入りやすく、早めに決着がつくように決められたルールですが、おそらく、現行のルールの下では25年前の横浜対PL学園のような試合は、二度と起こらないでしょう。


花田雪(Kiyomu Hanada)
1983年、神奈川県生まれ。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行い、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆。著書に『あのプロ野球選手の少年時代』(宝島社)『オリックス・バファローズはいかに強くなったのか』(日本文芸社)がある。

※記事内の画像はイメージです

の記事をもっとみる