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2つの白壁空間を行き来する、陶芸家・鹿児島睦のアトリエハウス

  • 2023.7.26
陶芸家・鹿児島睦の自宅と工房

暮らす人:鹿児島睦(陶芸家、アーティスト)

美しい白壁に囲まれて、美しい仕事に没頭する

「僕の創作の原点は、お菓子の包装紙や祖母の着物の柄。つまり文様や図案です。だから器を作る時も、好きな絵を自由に描くのではなく、皿というスペースの中に図案をどう配置し、余白をどう残すのかに神経を注ぐ。余白が大事なんです」

愛らしい動物や植物をモチーフにした器で人気の陶芸家、鹿児島睦さんは、昨年、福岡市内の住居をアトリエ兼セカンドハウスに建て替えた。家の主役は、建築の美しい余白でもある白い壁。毎日その大きな余白を眺め、器の上に余白を生み出している。

陶芸家・鹿児島睦の自宅リビング
正方形のハコを、対角線で生活空間と工房(左の壁の向こう側)に分けたプラン。天井は複雑な屋根形状を表したもの。半透明の木枠板を開閉して採光・通気・排熱をコントロールする。
陶芸家・鹿児島睦の自宅ベッドルーム
ゲストルームにもなる屋根裏の寝室。朝の光で自然に室内が明るくなるよう設計されていて、目覚めが快適。ベッドにかけた綿ブランケットは〈Barker Textile〉製。
陶芸家・鹿児島睦の自宅 外観
延べ床81.5mの木造戸建て。屋根は、中央の換気扇を軸に、温室のような三角柱の空間を卍形に配置。光を室内へ通しつつ、通気と排熱を促すハブの役目も果たす。
陶芸家・鹿児島睦
鹿児島 睦さん。

「初めは、ものを作る時間と穏やかな生活を守る、要塞のような小屋が欲しいと思っていたんです」と鹿児島さん。設計を依頼された建築家の片田友樹は、窓のない正方形のハコの対角線上に壁を立て、三角形の工房と三角形の生活空間にスパッと分けるプランを考えた。生活空間には、土地の形状に合わせたスキップフロアのリビングダイニングや、創作の合間に仮眠できる屋根裏の寝室もある。

「三角形?と最初は戸惑いましたが、とても楽しいし、鋭角部分を水回りやキッチンにすることで、メインの空間が広く感じられる。何より、潔く分かれているから、もの作りとそれ以外の気持ちの切り替えがしやすくて、常にクリアな感覚で仕事に向かえるんです」

陶芸家・鹿児島睦の工房の可動式轆轤
工房には可動式の轆轤(左下。使ったら片づける)や、大きな作品も焼成できる電気窯。器を乾かすための棚板も白。建物の四隅にだけ縦長の開口部があり、開けることで室内の熱を逃がす。
陶芸家・鹿児島睦の工房内
工房の机やスツールはアルヴァ・アアルト。創作のモチーフでもある植物が随所に飾られている。白い陶器は、鹿児島さんが2015年に手がけたレアなアートピース「花と鳥のタワー」。
チェコの人形、リス形ヘーゼルナッツクラッカー、宮崎・高千穂の藁細工の亀
寝室の一角。愛らしいチェコの人形やリス形ヘーゼルナッツクラッカー、壁には宮崎・高千穂の藁(わら)細工の亀。右端は「枯れ枝の造形がきれいだったので蜜蠟を塗って飾っています」。

とにかく壁に囲まれて仕事に没頭したいし、囲まれるなら美しい壁がいい。ちなみに白壁は美術館で使われているのと同じ仕様。北欧製リネンの壁紙の上に白いペンキを塗って仕上げたものだ。

外から見ると白いオブジェみたいな建物だが、室内は真っ白な紙を複雑に折って組み立てたハコの中のよう。壁に窓はないけれど、複雑な形をした天井からは、穏やかな光が降ってくる。「俯瞰すると風車の形になっている」という屋根と天井が採光や換気の要になっていて、朝も昼も夕方も、心地よい光をもたらすのだという。

「この白壁と光が、空間の形を美しく見せているんですよね。しばらくはあまりものを飾らず、とびきりの余白を楽しもうと思います」

陶芸家・鹿児島睦の自宅ダイニング
市内の自宅から車で10分。工房での作陶と、制作中の食事などに使う一戸建て。採光は天窓から。床はオーク、家具はウェグナー。壁には個展時のライブペイント。
陶芸家・鹿児島睦の工房
器の絵付け、轆轤、焼成の仕事に没頭できる白壁&土間のミニマムな空間。左奥は鹿児島さんデザインの生地を張った《カイト ラウンジチェア》。右の壁の向こうが生活空間。

profile

鹿児島睦(陶芸家、アーティスト)

かごしま・まこと/1967年福岡県生まれ。陶器のほか立体作品や版画、壁画、テキスタイル制作など幅広く活躍。国内外のブランドとの協業も多数。23年6月30日から、兵庫県〈市立伊丹ミュージアム〉で初の大規模展覧会『鹿児島睦 まいにち』展を開催。

HP:https://www.makotokagoshima.net/
Instagarm:@makoto_kagoshima

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