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【黒柳徹子】いちいちユーモアが奮っている、女優・野際陽子さん

  • 2023.7.21
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黒柳徹子さん
©Kazuyoshi Shimomura

私が出会った美しい人

【第15回】女優 野際陽子さん

「君はいつか必ず外国に行くことになると思う。フランス語を習いましょう」

遡ること60年前、NHK放送劇団でテレビ女優第一号として活動していた私は、恩師である飯沢匡先生から、そう勧められたことがあります。女学校時代、英国人の先生から、イギリス仕込みの英語を習ったことはありましたが、フランス語を習おうなんて考えたこともなかった私は、当時、NHKのアナウンス部にいた野際陽子さんと何人かでNHKの国際局にいたフランス人の先生に、週に1回、フランス語を習うことになりました。

野際さんとの出会いは、その少し前のこと。NHK放送劇団の部屋があるフロアにはアナウンス室もあって、私があるとき劇団の部屋で本を読んでいると、廊下にコツコツと、颯爽とした足音が響きわたりました。音だけで素敵な人だってわかるような、とっても気になる音で、私は思わず顔を上げて廊下を見たんです。そうしたら、スラッとしていて、目元がキリッとしていて、知的な雰囲気のする女性が歩いていて、それがNHKの名古屋放送局から東京に赴任してきたばかりの野際さんでした。

私たちは言葉を交わすようになって、すぐに意気投合。まだ既成服が流通していない時代に、当時の防衛庁、今でいう東京ミッドタウンの向かい側にある洋服屋さんで、一緒に洋服をオーダーしたりする仲になりました。歳も近くて、まさに親友!という感じ。

でも、野際さんは何年か後にNHKを辞めて、その後女性フリーアナウンサーとして活躍してから、今度は女優業にも進出します。でも、仕事が絶好調だったときにスパッと、かねてからの夢だったフランスに留学してしまうのでした。

野際さんが帰国したときに話題になったのが、ミニスカート! 1960年代当時、ツイッギーさんというすごくスレンダーなモデルさんが流行っていて、その人が身につけたミニスカートが、世界的に流行していたんです。もともとあか抜けていた野際さんが颯爽と飛行機のタラップを下りてくる写真は、大袈裟でなく、日本の新しい幕開けを感じさせてくれました。

せっかく勉強したフランス語でしたが、私の場合は全然ものにならず、野際さんが「キイハンター」というドラマで大注目されている最中、私は演劇の勉強のためにニューヨークに留学します。帰国してから「13時ショー」というニュースショーの司会を経て、「徹子の部屋」が始まってからは、野際さんが亡くなる2017年まで、女性では最多登場のゲストでした。昔馴染みってすごいの。久しぶりに会ったはずなのに、まるで昨日会っていたような気がして、すぐ話が続くんです。

「舞台で、2人でコンビを組むスパイものがやりたいわ」と野際さんから提案されたこともあります。私が太っている役で、野際さんが痩せている役だって言うから、「太っている役なんて嫌だ」って言ったんだけど、しょっちゅう「やりたい」って。あとは、野際さんが飼っていた子犬が、私のアルマーニのオーバーにおしっこをひっかけてしまったこともあったんです。そうしたら野際さん、その子犬のことを「アルマーニ」って呼ぶようになって。いちいちユーモアが振るっているんです。

「徹子の部屋」に出るたびに、私が「ねえ、またあのお話、してくださる?」とリクエストしていたのが、野際さんが最初に赴任した名古屋のNHKの寮で、強盗に遭ったときの話です。ある給料日の晩に、マスクで顔を隠した男に「金を出せ」と包丁を突きつけられ、「キャーッ」ってすごく大きな声で叫んだ後、すぐ「騒ぐと殺されるかもしれない」と思い直して、「何が欲しいの?」と尋ねたんですって。そうしたら「金だ」って言うから、今度は「いくら欲しいの?」と質問すると、強盗は「200円」って。ずいぶん控えめ。今の5000円ぐらいの額です。野際さんは、「200円なら助かった!」と思って給料袋の中を見たら千円札しか入っていないので、「千円しかないから、お釣りくれる?」って言ったという……!

娘の真瀬樹里さんは、「母はおっちょこちょいなんです」と言うけれど、度胸があるというか、真っ直ぐというか。とにかくおかしいの(笑)。で、泥棒が「800円あるなら、200円よこせなんて言うもんか!」と至極もっともな返答をしたそうです。このお話、たぶん4回ぐらい、「徹子の部屋」で伺いました。野際さんは嫌な顔ひとつせずに、毎回そのときの話をしてくださって、強盗との掛け合いは、なぜか回を重ねるごとに、面白くなっていったのでした。

野際陽子さん

女優

野際陽子さん

1936年生まれ。立教大学文学部卒業後、58年にアナウンサーとしてNHKに入局。退局後、日本の女性フリーアナ第一号に。66年から1年間パリに留学。帰国後ドラマ「キイハンター」で千葉真一と出会い、73年に結婚。75年長女誕生。92年、ドラマ「ずっとあなたが好きだった」の怪演が話題になり、以降TBSドラマの常連に。数多くのドラマや映画で活躍し、2017年逝去。黒柳徹子の半生をドラマ化した帯ドラマ「トットちゃん!」では、黒柳たっての希望で、娘の真瀬樹里が野際陽子役を演じた。

─ 今月の審美言 ─

「昔馴染みってすごいの。久しぶりに会ったはずなのに、まるで昨日会っていたような気がして、すぐ話が続くんです。」

写真提供/時事通信フォト 取材・文/菊地陽子

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