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「母から父へ親権を変更」浪費夫と喧嘩が絶えなかった元妻が「離婚して家族が幸せになった」と断言するワケ

  • 2023.7.20

離婚の際、大きな焦点となるのが親権だ。一度決定した親権者は後で変更することができる。家庭裁判所の家事調停委員として活躍した鮎川潤さんが柔軟な親権の在り方を紹介する――。

※本稿は、鮎川潤『幸福な離婚 家庭裁判所の調停現場から』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

学校に駆けつける小学生の男の子
※写真はイメージです
母親から父親へ親権者変更

本稿では、離婚に伴う親権の在り方について3つの事例を検討していきます。

ケース1
〈年齢〉父親:40歳代前半 母親:30歳代後半
〈職業〉父親:自営業 母親:会社員
〈子ども〉長男:12歳 次男:8歳
〈背景〉母親が2人の子どもの親権を持って監護
〈経緯〉母親からの長男の親権者変更の申立

離婚時、2人の男子の親権は母親が取得しましたが、今回長男の親権者を父親にすることは、母親のほうから提案しました。父親の了承を得て、母親が家庭裁判所へ申立を行いました。

母親が子どもたちを連れて家を出て実家で暮らしていましたが、長男は父親と暮らしたいと言って父親のもとへ戻って行ってしまいました。母親としてはショックでしたが、自分と暮らしているときに長男は不登校ぎみでしたが、父親のところからは元気に通学し、担任の先生からも生き生きと学校生活を送っているとの報告が来ています。母親としても、長男が学校生活に適応している様子を見たり聞いたりしており、長男が父親と生活するようになってよかったと思っています。

兄弟が異なる場所で生活することになり、そのことをかわいそうとみなす人もいます。家庭裁判所調査官は、これを「兄弟分離」と呼んで、子どもたちの親権について検討する際には、選択肢としては除外します。

しかし、このケースでは、母親によれば、次男は連休や長期の休みには父親の家へ行き、連泊を伴う滞在もして兄弟で遊んで交流の機会を持つようにしているとのことです。

離婚して家族が幸福になった

母親は今振り返って考えてみて、離婚によって家族がより幸福になれたと実感しています。夫と結婚しているとき、夫の浪費をはじめとして絶えず衝突し、非常に激しい夫婦喧嘩をしばしばして、それを子どもたちに見せてしまっていました。しかし、離婚後はそうしたことがなくなり、自分も精神的に安定し、子どもたちにも穏やかな日常生活を提供することができるようになり、離婚したことは子どもたちにとってもよかった、と母親は述懐しています。

親権の変更について、母親から子どもに伝えましたが、変更に反対するという反応はありませんでした。なお、長男は12歳のため、家庭裁判所が同意書を送って同意の意思を確認するということは行われませんでした。

子どもの意向が決め手に

ケース2
〈年齢〉父親:40歳代後半 母親:40歳代前半
〈職業〉父親:自営業 母親:会社員
〈子ども〉長女:14歳
〈背景〉父親が親権者として監護
〈経緯〉母親からの親権者変更の申立

両親が離婚したとき、子ども本人が父親と暮らすことを希望しました。そのため父親が親権者となって一緒に暮らしてきました。しかし、母親はかねてから子と一緒に暮らして監護するとともに、親権も得ることを希望していました。その目標を達成するため、母親は子どもと父親が生活している住居の近所に引っ越し、子どもが気安く母親宅に来られるように工夫しました。また、弁当なども作って持たせたり、学校からの帰宅先を母親宅となるようにし、夕食を提供するなどして母親宅に宿泊するように子どもを導いていきました(なお、父母ともに再婚していません)。

15歳以上であれば、親権者の決定や、親権者の変更にあたって子どもの意思を確認することが必須になります。子どもは14歳のため、まだ親権者を自分で選択できる年齢に達してはいません。しかし、親権者である父親の了承が得られたことと、申立人である母親から子どもに聞いてもらったところ、父母のどちらと一緒に暮らしたいかなどについて子どもから家庭裁判所調査官に話をしてもかまわないという返事が得られました。それを受けて家庭裁判所調査官によって「意向調査」が行われました。

「意向調査」では何を聞くのか

「意向調査」は裁判官の命令によって行われるもので、子どもがどちらの親を親権者とするのを望んでいるのかを調査することです。意向調査の際には、父母のどちらを選択するのかについて直接的に質問するのではなく、子どもの心が傷つかないように配慮して、周辺的な質問をしたり、行動観察したりすることによって、子どもの気持ちや考えを確認します。

父親については、自分のことを大切にしてくれ、進学などにあたって自分を一人の人間として扱ってくれ、自分の意見を尊重してくれてうれしいと長女は考えます。しかし、当初は中学の進学に関して母親とは考えが異なっていましたが、進学準備を具体的にする段階になると、母親が塾からの帰宅の際の迎えをしてくれたり、勉強で分からないところを教えてくれたり、夜食を準備してくれたりしてサポートしていました。

親と娘、ラップトップコンピュータ
※写真はイメージです

中学への進学後も部活動をはじめとしてさまざまな相談に乗ってくれたり、宿題について教えてくれたり、弁当を作ってくれたりするにつれて、いつの間にか母親の自宅に泊まることが多くなり、生活の中心が父親宅から母親宅へ移ってきています。以上のようなことから、長女は、父親へは従来通り会いに行くことを前提として、現在の母親との生活を継続したいと考えていることが判明しました。

子どもの意向が父親に伝えられると、現在の子どもの生活形態から予測していたことでもあり、親権者の変更が受け入れられることとなりました。

不登校の問題を解決するために

ケース3
〈年齢〉父親:40歳代前半 母親:30歳代後半
〈職業〉父親:自営業 母親:会社員
〈子ども〉長女:18歳 次女:15歳 長男:13歳
〈背景〉父親が親権者として監護
〈経緯〉母親から長男の親権者変更の申立

夫婦は3年前に離婚し、父親が親権者となって子ども3人を監護してきました。父親は自営業ですが、朝早く外出して仕事をし、その後自宅へ戻ってきても働くという職業生活のため、3人の子どもは放任気味で育てられてきました。その過程で、長男が不登校になりました。

母親は月に1回ほど子どもたちと会っていましたが、今後の高校進学のこともあり長男のことが心配になり、長男の親権を取得して自分と一緒に生活することを父親に提案しました。父親としても不登校のことが気になっていましたが、効果のある方策が見つからないままきたため、この案に賛成しました。長男自身からも同意が得られ、すでに母親と同居を開始しています。

兄弟分離になりますが、2人の姉はむしろ賛成しているとのことです。というのは、2人ともそれぞれ大学と高校への進学のための受験勉強の時期と重なっており、長男が不登校で昼夜逆転した生活をしていて、夜間に音響機器から大きな音を出したり、楽器を演奏したり、食事をしたり、その他の活発な行動をして非常に騒がしいため、生活のサイクルを乱されて勉学に集中できず困っていました。

図書館で勉強する男子中学生
※写真はイメージです
親権を持っていない親の家に脱出するケースも

離婚した夫婦が話し合った結果、当事者間の合意にもとづいて、親権者の変更が家庭裁判所へ申し立てられることがあります。夫婦の別れは、親子の別れを意味するものではありません。子どもが社会的不適応になったり、(特に女子が)思春期の一定の年齢段階になったり、子ども自身の考えや志向が変わったときに、離婚した夫婦が相談し、協力して居住環境を変えたり親権者を変更したりすることによって問題解決を図ろうとすることがなされています。ただ、もし単独親権でなかったならば、もっと早い時点で互いに連絡を取り合い、早期により適切な対応を取ることが可能になったのではないかとも推測されます。

また、子どもが自分を監護している親権者と一緒に生活することを好まず、拒否して、親権を持っていない親の家へ脱出するケースも見られます。これらのケースからは、親権を一方に定めるというのは親の勝手な取り決めであって、子どもたちは両方の親について、ともに親という認識を持っていることを読み取ることができます。

監護親だけが親ではない

子どもを監護養育している親が、子どもと同居していない親の悪口を言ったり、知らず知らずのうちに表情や身振りで、否定的評価や悪感情を持っていること、侮蔑や嫌悪していること、さらには子どもに別れて生活している親とは会ってほしくないと思っていることなどの考えやメッセージを伝達したりしてしまわない配慮が必要と言えるでしょう。

鮎川潤『幸福な離婚 家庭裁判所の調停現場から』(中公新書ラクレ)
鮎川潤『幸福な離婚 家庭裁判所の調停現場から』(中公新書ラクレ)

とりわけ子どもと同居していたり、近くに住んでいて子どもの世話の一端を担ったり、子育ての手伝いをしている祖父母が、これらの点を守ることが重要です。

こうした配慮をすることによって、監護親やその周囲の大人たちの、子どもと別れて住んでいる親に対する悪感情が子どもに刷り込まれて、子どもが別居している親についての悪いイメージを形成して忌避するようになるのを防止することができます。さらに、子どもが、意図的、非意図的あるいは意識しないままに、同居している親への忠誠を示そうとしたり、同居親の意を汲んだり、同居親の意向を先取りした意思の表明や過同調的な行動をすることも防ぐことができます。子どもは別居親に対する正直な感情や考えの表明と、それにもとづいた素直な行為をすることができるようになると考えられます。

離婚した夫婦の協働によって、子どもの幸福実現のために親権者を変更することも可能なのですから、上述のような配慮を行って子どもの利益のために協力し合うことによって、面会交流などもスムーズに実現することになると思われます。

鮎川 潤(あゆかわ・じゅん)
関西学院大学名誉教授
1952年愛知県生まれ。東京大学文学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科後期博士課程中途退学。博士(人間科学)。専門は、逸脱行動論、社会問題、少年非行、家族問題研究。金城学院大学現代文化学部教授、関西学院大学法学部教授のほか、家庭裁判所家事調停委員などを務めた。現在は、関西学院大学名誉教授。保護司、更生保護施設評議員、学校法人評議員、少年院視察委員会委員なども務める。主な著書に、『犯罪学入門』(講談社現代新書)、『新版 少年非行 社会はどう処遇しているか』(放送大学叢書、左右社)、『新版 少年犯罪――18歳、19歳をどう扱うべきか』(平凡社新書)など。

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