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世界からお届け!SDGs通信 シンガポール編。人間と自然の関係性を問うアーティスト

  • 2023.7.16
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世界からお届け!SDGs通信 シンガポール編。人間と自然の関係性を問うアーティスト〈ロバート・ザオ〉

自然に対し、アートだからこそ貢献できることを探求

「17歳のとき、埋立地を訪れたのだけど、砂漠にでも足を踏み入れたかのような強烈な違和感があったんだ。それは完全に人間の手によって作り出された場所だったから」。そう語るのは、アーティストのロバート・ザオ。土砂を埋め、新たに誕生したこの湿地に、餌を補給するため渡り鳥がやってくる姿も見られたという。

「その様子に大きな衝撃を受けた。人間が土地を広げるために成す行為が、そこにいた生物の死を招いたと同時に、新たな生物の生を助けてもいる。生物の暮らしは、自然や環境に結びついているんだということを痛感したよ」

人間と自然の関係性に興味を抱いたザオは、「Critical Zoologists」という名でアーティスト活動をスタートさせた。写真や映像を中心に、自然・環境破壊への気づきを与える作品を発表している。

プロジェクト「The New Forest」
シンガポール国際写真展とタッグを組んだプロジェクト「The New Forest」より。
廃棄物に溜まった水を飲むワシ
駐留英国軍が森に残した廃棄物に溜まった水を飲むワシを定点カメラで捉えた「An Eagle Returns, Day 322, 2020」。自然と外部からもたらされたモノが交わり、新たな環境が生み出されていることを示す。
第14回韓国・光州ビエンナーレに出展された「Trying to remember a river」の展示風景。
韓国・光州ビエンナーレに「Trying to remember a river」を出展。動画を中心としたインスタレーションで、1900年代初頭に英国軍駐屯地に敷設されたコンクリート管にフォーカスしている。
コンクリート管の周辺にできた“川”に生息するオオトカゲ。
「Trying to remember a river」より。コンクリート管の周辺にできた“川”にはオオトカゲも生息する。「人間の営みによってつくり出された環境下で、もともとこの土地にいた生物や、新たに棲みついた生物が混じる様子を、僕は“エコロジカル・ポケット”と表現しています」とザオ。

近年は、国内の二次林に着目した作品を制作。建築や工業製品の資材となるようつくられた人口林には、本来、当地には存在しないはずの外来種が生息している。また、林に捨てられた古い瓶に溜まった水を飲みにワシがやって来る様子も。ザオはこの二次林を「人間が自然との関係性について再考する新たなきっかけとなる場所」と考えたのだそう。二次林に100台以上の無人カメラを設置し、その様子を記録した同作は、ドキュメンタリーのような手法でありながら、アート作品であると感じられるから不思議だ。

「制作を行う際、題材に関して、集めうる限りの研究論文を読むようにしているよ。でも、研究者と僕が同じテーマについて深掘りしたとしても、同じ結論には至らないと思うんだ。なぜって、僕の理論は構造を持たないから」とザオ。森を歩き回って、転んで……。もしかしたら10年くらい、森にいてしまうかもしれないと笑う。

「研究者は森の研究をする前に、構築すべきシステムとか、着目すべきトピックを先に決めてしまうと思う。でも僕は、例えば、たまたま服にくっついていた木の実に興味を持って、どんな虫が齧ったのかについて思考をめぐらせていく、といったように、森の方から僕に話しかけてきたと感じられるような、エモーショナルな部分を大事にしているんだ。科学にはできないけれど、アートならできるアプローチとは何かを、常に考えているよ」

カメラを構えただけでは、自然界の全てを捉えることはできないし、伝えることもできない。だからこそザオは、そこにイマジネーションというフィクションを加えて補足し、アートへと昇華させているという。彼の写真を通し、わたしたちは自分たちが暮らす世界に起きている不可思議な真実を窺い知ることができる。

ンクリート管の中に巣を作った巨大フクロウ
「Trying to remember a river」より。コンクリート管の中に巣を作った巨大フクロウ。
ロバート・ザオ
ロバート・ザオ

Information

ロバート・ザオ

1983年、シンガポール生まれ。多分野で活躍するアーティスト、「Critical Zoologists」創設者。人間と自然の関係をテーマにした芸術活動に従事する。2010年、シンガポール・ナショナル・アーツ・カウンシルのヤング・アーティスト賞を受賞。釜山ビエンナーレ2020、アジア・パシフィック・トリエンナーレ2018、第7回モスクワ・ビエンナーレ、第20回シドニー・ビエンナーレ、アルル国際写真フェスティバルなど、海外での展示実績も多数。

profile

多田亜矢子

ただ・あやこ/ライター。2006年、マガジンハウス入社。雑誌『Hanako』『GINZA』編集部に属し、ビューティ、ファッション、グルメを担当。2016年よりシンガポールへ移住、フリーランスに。「GINZA.mag」「Hanako.tokyo」等で活動中。

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