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金原ひとみが鮮やかに描く、ぶつかり合う母娘の日常。

  • 2023.7.15
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理解してほしいけどほっといて。されど愛しい、中学生ども。

『腹を空かせた勇者ども』

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金原ひとみ著河出書房新社刊¥1,760

我が家に生息するJC(女子中学生)娘は、思春期ど真ん中。テンションマックスとゼロを秒で行き来し正義感は鬼強く、よく食べよく寝る。推しの歌い手(歌手)や絵師(イラストレーター)の話なら永遠に語れる熱量を持つが、親との会話は「おけ」(分かった)と「りょ」(了解)で済ませる。要するに、何もかもが偏った圧倒的生命力の塊だ。そして本書の主人公玲奈、愛称レナレナとほぼ同年齢であり、よく似たところがある。

描かれているのは、レナレナが中2の春からコロナ禍に突入し高1になるまでの3年間。マスクはデフォルト、祖父母との交流も絶たれ校内外の行事も部活の試合も推しのライブも中止と自分が〈仮死状態〉になる中、それでも続く家族や友達との4つの物語だ。どんな家庭にもきっとある、よそには決して見せない〈ハードモードな日常〉に、密な環境だからこそ、嫌でも向き合うようになったコロナ禍。思えばなんと、過酷な日々だったことか。そこから生まれたもやった感情を持て余すティーンの有り様が、物語に起伏を生む。そういえば、かつてはティーンでもあった私。いつしかレナレナ達の怒りや困惑、焦りや安堵に共鳴し、レナレナの毎日を全力で応援しつつも、彼女の親にもまた深く共感した(いっそ語り合いたいぐらいだ)。まるで我が家かこれは的会話シーンなど、既視感が半端ない彼女達の日々。親子で、友達同士で、理解したいと理解してほしいがぶつかり合い、その身に覚えのある不器用な関わりが愛おしい。

白眉はラスト2ページ。レナレナが初めて経験する、一生忘れないであろう胸熱な出来事への興奮と感情の高まりが、爆速のドライブ感で描かれる。青春という名の甘酸っぱい爽快さの極みだ。私は古のティーンの心持ちと見守る親の心境のふたつで祈るように読み終えた。

そしてレナレナ、あなたの思うとおり、〈大人って意外と大人じゃない〉のだよ。まじですまぬ!

文:馬田草織/ライター、編集者、ポルトガル料理研究家食と旅を軸に執筆しつつ、最近は思春期真っ盛りの女子中学生の娘との日常をオレンジページnetで連載中。著書に『ムイト・ボン! ポルトガルを食べる旅』(産業編集センター刊)などがある。

*「フィガロジャポン」2023年8月号より抜粋

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