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夏に涼を得る緑陰の美しい和の庭

  • 2023.7.15
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年々、暑さが厳しくなる日本の夏。みずみずしい緑の安らぎを身近に感じられる自然風の和の庭に、今、注目が集まっています。そのわけは、日本に自生する植物をふんだんに取り入れることで、ローメンテナンスでありながら、一年中緑のある風景を両立している点にあります。フラワーショップとして知られる日比谷花壇のガーデンデザイナー、保坂悠平さんが作る個人邸の造園実例をご紹介します。

自然を切り取ったような緑豊かな和の庭

日比谷花壇施工の和の庭

日常からしばし離れて、緑豊かな自然のなかでのんびり過ごしたいと思うことは誰しもあるでしょう。別荘地や避暑地はまさにそんな願いを叶えてくれる場所であり、近年はそうした場所へ住まいを移す人も少なくありません。しかし、気候の厳しさや病院、スーパー、交通手段など社会インフラの問題がハードルとなり、自然の近くへ住まいを移すのが難しいケースも多々あります。千葉県習志野市に住むSさんも、そんな1人でした。

「森の中で静かに暮らしてみたいなぁなんて考えていたんですが、我が家の場合は引っ越すのは現実的ではありませんでしたし、たびたび私1人で避暑へ出かけるわけにもいきません。だったら家の側にそういう庭をつくって緑を楽しみたいと、日比谷花壇に庭を依頼しました」(Sさん)

日比谷花壇施工の和の庭
室内から眺めた庭。

日比谷花壇のガーデンデザイナー、保坂悠平さんは自然を感じて暮らしたいというSさんの思いを聞き、日本に古くからある植物をふんだんに取り入れて庭をつくりました。庭は和室に面しているため、窓から眺めて最も美しい位置にイロハモミジやエゴノキ、マユミなど、花や紅葉が美しく、季節感を感じられる木々を配しました。足元に敷き詰めたタマリュウは常緑多年草で、一年中庭に緑を提供し、緑の量感を高める大事な要素です。

季節の変化が感じられる植物と常緑をバランスよく配置

日比谷花壇施工の和の庭
下草にはベニシダなど葉姿の美しい植物を組み合わせている。

このように、この庭では季節によって姿を変える落葉樹や草花と、姿を変えない常緑の植物がバランスよく配置されています。例えば、シラカシやソヨゴ、ヤブツバキなどの常緑樹は庭の輪郭に沿って配置。近隣の家や電線といった要素を庭景色の中に入れないという目隠しの役目を担います。ただし、常緑樹は一年中緑の葉を茂らせて庭が暗くなりがちなので、株立ちの樹形を選んで軽やかな雰囲気が出るようにしています。

日比谷花壇施工の和の庭
公道に面した箇所には落ち葉が落ちない常緑樹を配した。

常緑樹を庭の外周に沿って配置するメリットは、目隠し効果と同時に、道路側や隣家へ落ち葉を落とさないという効果もあります。じつは、落ち葉はよくあるご近所トラブルの一つ。ですから、住宅街の庭づくりでは近隣へ配慮したデザインや植物選びをすることも、デザイナーの大事な仕事です。さらに、常緑の植物はメンテナンスの労力が少なく済むというメリットもあります。

日比谷花壇施工の和の庭
イロハモミジを愛でる施主のSさん(右)とデザイナーの保坂さん(左)。

「きれいな景色を作るということはもちろんですが、四季の変化やそれに伴うメンテナンスを考慮しながらデザインすることも、施主様に庭を本当に楽しんでいただくうえでとても大事なことです。そうした意味でも、日本の気候風土に馴染んだ常緑の植物はとても重宝します」(保坂さん)

緑の葉で見頃の長い美しい景色を実現

日比谷花壇施工の和の庭
飛び石にイロハモミジの葉が美しい葉陰を落とす。

常緑の木々の緑を背景に、イロハモミジやマユミ、ドウダンツツジといった紅葉の美しい落葉樹を主景木とし、枝先が前後左右触れ合うように配置。庭に奥行きが感じられ、窓からの眺めは深い緑にすっぽり包まれるような万緑の風景です。

日比谷花壇施工の和の庭
敷石が植栽の間に程よい空間を作り、植物の美しさを際立たせる。

庭の中を歩けば、緑陰の心地よさを感じながら敷石の上に描き出された葉陰模様が目を楽しませてくれます。下草の草花にもツワブキやヤブランといった常緑で葉の美しい植物がたくさん取り入れられており、花のない季節でも庭景色は美しく設計されています。常緑の植物は変化があまりなく景色が単調になりがちですが、この庭のように葉の色合いや形の組み合わせを吟味した植物選びで、見飽きない景色を実現することができます。

ツツジの花とナルコユリ、ギボウシ
ツツジの赤い花と斑入りナルコユリの葉、ギボウシの競演。

花は季節のアクセントとして少量。春はニホンスイセン、初夏はヒメシャガ、夏はユリ、秋から冬はツワブキというように、四季を通じて庭のどこかに花が咲きます。

「ヒメシャガってとても小さく可愛いくて、素朴な風情があるんですよ。山の岩場などに咲く山野草ですが、どこか遠くへ出かけなくても、家から一歩出たらそういう自然の植物を見られるのが嬉しいですよね。季節ごとに何か咲き出すのを発見するのも楽しいんです」とSさん。木漏れ日、葉擦れ、季節の花の色。巡る季節に心を躍らせながら、穏やかな暮らしが紡がれていきます。

日比谷花壇施工の和の庭
美しい庭があることで建物の品格も増す。

街中に住む人ほど、緑への希求は強いもの。自然の一部を切り取ったかのような和の庭は、その思いを満たしてくれる庭デザインの一つとして人気が高まっています。ただし、人の暮らす街中に自然風の庭を作るうえでは、この事例のような配慮も大事です。庭のある豊かな暮らしを実現するために、植物を知り尽くしたプロの力を借りるのも有意義な選択の一つです。

保坂悠平/日比谷花壇 ガーデンデザイナー

作庭:保坂悠平/日比谷花壇 ガーデンデザイナー。大学で環境デザインを専攻した後に造園会社の勤務を経て、株式会社日比谷花壇に2016年入社。個人邸の植栽計画から集合住宅・商業施設まで、デザイン・施工・管理まで一括した提案によりこれまで数多くの実績を残している。また緑地管理分野では、地域の多世代交流を目的としたコミュニティデザインプログラム“めぐりかだん”の監修業務を行っている。1級造園施工管理技士、樹木医、自然再生士。

日比谷花壇の個人向けお庭サービスサイト「Wellne(ウェルネ)」

https://www.wellne.jp

Credit
撮影・取材・まとめ / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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