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くどうれいんの友人用盛岡案内 〜スポット編〜 #3材木町「よ市」

  • 2023.7.15

岩手県盛岡市在住の作家のくどうれいんさんが、プライベートで友人を案内したい盛岡のお気に入りスポットと、手土産を交互に紹介します。

土曜日はいつもそわそわしている。

材木町で「よ市」があるからだ。

盛岡市の材木町商店街は、盛岡駅から歩いて10分程度。旭橋を渡ると、石畳の特徴的な通りがある。そこには宮沢賢治のモニュメントが並び、“いーはとーぶアベニュー”と呼ばれている。全長430メートル。土曜にはその路上がすべて、歩行者天国の「よ市」という空間になる。新鮮な野菜や果物、漬物はもちろん、近隣のお店が販売するお惣菜や、ベアレンビールや地酒、地ワインなども楽しめる。買い物をするのもよし、おいしいものとお酒を楽しむのもよし。そういうお祭りのような空間が、なんと、毎年4月から11月まで、毎週土曜日に現れるのだ。

「よ市」のすばらしさを説明しようとすると、「……それって産直ってこと?マルシェ的な?お祭りの露店みたいな?」と言われるのだが、「よ市」はそういう言葉ではくくりきれない。だからためしに、「よ市」で手に入るものをとにかく羅列してみようと思う。

注ぎたてのビール、新鮮な野菜、珍しいキノコや山菜、町中華のしゅうまいと餃子、醸造所のシードル、焼きたてのみたらしだんご、とんかつ屋さんのメンチカツ、枝ぶりのいい花、魅惑の骨董品、こだわりの燻製ナッツと鴨ロースト、目の前で焼かれる焼き鳥、すばらしい地ワイン、豆腐屋さんの惣菜、ぷるっぷるの蒸し牡蠣、ふわふわのパン、染みわたるコーヒーと、洋酒の効いたちいさいシュークリーム、だし醤油で食べるぽてぽてのたこ焼き、かぶりつきたくなる巻きずし、レアな鉄道グッズ、丁寧に作られたキムチ、子供に人気のわたあめ、ジューシーな唐揚げ、恍惚のもつ煮込み、たまらない日本酒……

海の幸も山の幸もお酒も「よ市」ですべて手に入る。何度も行っているはずなのに、何度来ても興奮が抑えられない。こんなに気になるお店ばかりあるなんて、夢なんじゃないかって思いながら、ビールののど越しに(夢じゃなかった……!)と感動する。

まだ、まだまだまだ、書ききれないほどいろんな出店があるうえ、お振舞やイベントも開催されたりするので、毎週本当に見逃せない。何度来てもわたしはまだ「よ市」のすべてを楽しみつくせていない。わたしはこの「よ市」の大ファンなので、愛を伝えようとするとどうしても重くなる。とにかく来てほしい。できるだけ多くの人にこのすばらしさを体験してほしいと思っているので、「盛岡に行こうと思っているんだけど」と友人に言われると、まず「土曜の夕方はぜったいあけといて!」と強めに言う。

ビールを片手に、つぎは何を買おうか、何を食べようか悩みながら歩く時間は本当に幸せなのだ。ぎゅっと並んだお店をゆっくり回る沢山のお客さん。買い物袋をぱんぱんにしていたり、顔を赤くしながらすれ違いざまに知り合いと乾杯したり。土曜日のまだ明るいうちから、地元の人と観光客がごちゃまぜになって「よ市」を楽しむ、そのやわらかな時間にとても大きな幸せを感じる。

「よ市」にはじめて来た友人たちは、ゆっくりと一通り歩き終えてから、おいしいものをたらふく食べ、お酒をおかわりして、静かに興奮して必ずこう言う。
「……これ、本当に毎週やってるの? ずるすぎるよ。絶対また来る」

しめしめ。そうでしょう。こんなに素敵な時間って、そうないもの。盛岡では本当に毎週こんな素敵なことが起きているんだよ。

そうしてわたしの友人は、たいてい土曜日に盛岡に来る。「よ市」のために。

よ市

開催地:盛岡市材木町商店街
主催:材木町よ市実行委員会
TEL:019-623-3845
ホームページ:https://www.zaimokucho-yoichi.com

15:10~18:30開催 ※小雨決行
期間2023年11月25日まで(例年、4月〜11月に開催)

くどうれいん

作家。1994年生まれ。著書にエッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD)、『虎のたましい人魚の涙』(講談社)、絵本『あんまりすてきだったから』(ほるぷ出版)など。初の中編小説『氷柱の声』で第165回芥川賞候補に。現在講談社「群像」にてエッセイ「日日是目分量」連載中。最新刊に『桃を煮るひと』(ミシマ社)がある。

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