暮らす人:熊谷隆志(クリエイティブディレクター、スタイリスト)
ライフスタイルに合わせてしなやかに住まいを変えていく
優しい色合いの白~ベージュと、ペールグレーで構成した、モノの数を絞った住まい。窓からの光が、大ぶりの家具に美しい影を投げ、空間のところどころで、みずみずしい花木が控えめに色を差す。
「ここが“あの”熊谷さんの家⁉」
かつてのこの空間を知る人ならば、そんなふうに心底驚くのではないか。葉山の高台のてっぺん、遠くに海を望む傾斜地に、熊谷隆志さんが家を建てたのは16年前のこと。本誌でも2008年、2013年と暮らしぶりを伝えてきたその家は、飴色の木や鉄からなるブルックリンスタイルの空間に、熊谷さんが各地への旅の途上で手に入れてきた家具やモノがひしめいていた。
北欧系アイテムが増える時期もあれば、クラフトものが多い時期もある。折々の好きなモノがたっぷりと詰め込まれているのに、肩の力が抜けていて居心地がいい。“マキシマリスト”の住まいそのものだったからだ。
「新築から15年くらいって、ライフスタイルや好みが変わったりして、少し家に手を入れたくなる頃なんじゃないかな?ここまで極端な例は珍しいかもしれないけれど」と熊谷さん。実は今回手を入れたのは大谷石を敷き詰めた玄関から階段を経て2階部分のみ。1階は元のままに残していて、階段を挟んで全く正反対のインテリアが現れるのだ。2階はミニマルが好きだという妻の美沙子さんと話し合いながら作った「協調の賜物です」と熊谷さんは笑う。
「自分たちだけのホテルのような空間にしたかったんです。ある程度の生活感は残しつつ、でも無駄はない場所。夫婦で好みは正反対だけど、一緒に家具を選びに行ったりすると、選ぶものは不思議とぴたっと一致するんですよ。だからさほど衝突はなかった(笑)。出来上がったのは今年の初めですが、自分でも驚くほどに、2階で長い時間を過ごしていますね」
熊谷さんの新しい一面を覗くようでもあるリノベーション。身を置くだけで心がほぐれるようなリラックスした空気に満ちているのは、どんな空間でも変わらない。
profile
熊谷隆志(クリエイティブディレクター、スタイリスト)
くまがい・たかし/1970年生まれ。渡仏後、94年からスタイリストとして活動開始し、98年よりフォトグラファーとしても活動する。ファッションブランドのブランディングや空間、ショップ、化粧品のディレクションなど幅広く活躍を続けている。
HP:https://takashikumagai.com/
Instagram:@takashikumagai_official