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年収1000万円以上の中高年男性が最もキレやすい…全体の45%が「カスハラ」した経験があるという衝撃の調査

  • 2023.7.9

店舗の従業員や病院や役所の受付に悪質なクレームをつけるカスタマーハラスメント(カスハラ)。加害者の心理について研究する桐生正幸さんは「心理学的に見ると、カスハラをする人の攻撃性には4つのパターンがある。さらに、アンケート調査をして年齢や性別、職業や年収でカスハラしがちな属性がわかってきた」という――。

※本稿は、桐生正幸『カスハラの犯罪心理学』(インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。

他人を攻撃する人には4つの行動パターンがある

攻撃性の4タイプについて、それぞれの特徴を見てみよう。

「回避・防衛」としての攻撃

この攻撃行動をとる人は、「自分が危害を加えられている」という被害意識を持つ傾向が強い。心理的側面としては「猜疑心さいぎしん」や「被差別感」といった人格特性があり、負の情動などを持ちやすいことが指摘されている。

「私が危ない目に遭ったのは、あいつの悪意のせいだ」「私が損をしたのは、あいつの敵意のせいだ」というように、自分が危害や損失を受けた原因を相手の悪意や敵意のせいにすることで、このタイプの攻撃行動は高まる。

怒りや恐怖といった強い情動が、行動の表出を加速させるのだ。

「影響・強制」としての攻撃

この手の攻撃で典型的なのは、自分の意見を通すために戦略的に攻撃行動を使う人だ。

心理的側面としては「自己主張」「競争心」「支配性」などが強いことが指摘される。自分の利益にこだわる人、妥協などを嫌う人が、他人と対立した際、自分の要求を押し通すためにこの攻撃行動を使うことが多いと考えられている。

また、人間関係で自分が相手よりも優位に立てるときにも、このタイプの攻撃行動は起こりやすい。たとえば、相手よりも地位が高かったり、権力や財力があったりするケースだ。ただし、もともと感情表現や言葉選びが苦手な人の場合は注意が必要だ。悪気はないけれど言葉足らずなせいでぶっきらぼうな言動になってしまっているだけで、相手を攻撃していないことがあるからだ。

指を突き出す人
※写真はイメージです
「自分は正義」「やられたらやり返す」と考える人たち
「制裁・報復」としての攻撃

「自分が正義」「責任は相手にある」と信じる傾向の強い人がとる攻撃タイプだ。心理的側面としては「偏った信念」「融通性に欠ける」「やられたらやり返す」「執拗しつように思いつづける」といったことが指摘される。法律や社会的ルールとその人個人のルールがごっちゃになっていて、違反する人を制裁し復讐したいという思いから攻撃行動をとる。

「同一性・自己呈示」としての攻撃

文字どおり、体面やプライドへのこだわりが強い人、たくさん注目されたい人がとる攻撃タイプだ。心理的側面としては「名誉や信用を守る」「自分のイメージをよくする」といったことが指摘される。たとえば、「男らしさ」をもって周りからかっこいいと思われていたい人が、「男らしくない」と思われた際、その敬意やイメージが揺らいでしまう。それに敏感に反応して、勇敢さや優越性を示すために攻撃する。あるいは、他人が自分をどんなふうに見ているのか想像し、そのイメージをよくしたいと思ってこの攻撃行動を使う。

どんな属性の人がカスハラしやすいのか

この4タイプを知ると、カスハラ事例の加害者たちの心がうっすら見えてくるのではないだろうか。土下座強要カスハラ、知人女性のためにわざわざ首を突っ込む男性のカスハラ、マスク警察……その心理が読めてくるはずだ。

このような攻撃性のパーソナリティ分析に加えて、「どんな人がカスハラをしやすいのか」も調べる必要がある。

性格の特性とクレームの態度の関係を調べた社会心理学の研究結果によれば、自尊感情が高い人ほど、また、自分の情動を自分で調整できると思っている人ほど、クレームしやすい(肯定的な態度を持つ)傾向があった。こうした研究をさらに積み重ねる必要がある。

そこで私は、2020年に科研費を得て、今度はカスハラ加害に関するWEB調査をおこなった。今回は前回のWEB調査の10倍に近い2060名(女性1096名、男性964名)の回答者を得た。

約半数がカスハラ加害の経験ありというショッキングな回答

この調査は、回答者自身のカスハラ加害の経験を尋ねるもので、自身が過去にしたもっとも印象に残っている悪質なクレームについて答えてもらった。じつを言うと、この調査をやる前は「正直に答える人はいないのでは?」と周りからも言われていた。「クレーマーですか?」と聞かれて頷くのは自分自身に嫌なレッテルを貼るようにも感じられて、正直に答えるのに抵抗感があるかもしれない。善人ぶるとまではいかなくても、無自覚だったり、嫌な思い出として忘れていたりするかもしれない。

しかし、驚きの結果が出た。全体の45%に相当する924人が、悪質なクレームをしたことがあると答えたのだ。約半数がカスハラをしたことになる。「淡々と静かに話した」(629人)が最多だったが、「攻撃的な話し方や言葉があった」と答えた人も71人、「大声を上げる時があった」が63人、「お店や担当者に対し罵詈ばり雑言があった」も11人いて、かなり正直に自己申告してくれた。

この回答をもとに、特性に応じて違いがあるかも確かめてみる。ここでは「性別」「年齢」「職業」「世帯年収」によってカスハラ加害に関する違いがあるのかを見てみよう。

性別

「カスハラ加害をした」と答えた人たちの性別については、女性445名、男性479名と、あまり差は見られなかった。だが、カスハラの内容については、やはり性差が見られた。男性では、45歳以上が店員のミスや手続き不備などを理由に、高圧的な態度をとり、上層部からの謝罪を受けるタイプが多かった。それに対して女性はというと、45歳未満が商品の欠陥を理由として、店員に対して淡々とクレームを述べ、商品や商品代を受けとるタイプが多い。攻撃性は男性の方が高く、年齢層も上がる。

女性
※写真はイメージです
45歳から59歳までの現役世代が最も加害行動をしがち
年齢

高齢者と犯罪者率の関連は、この調査結果でも世代ごとで傾向の違いが見られた。カスハラ加害の経験があると答えた人の平均年齢は46.4歳。年代ごとのカスハラ加害行動の有無を見てみると、加害行動の割合が多く見られたのは、45歳から59歳までの年代だった。人生の節目をいくつか経験して自分の未来が固定的に見える年代でもあるし、世に言う「働き盛り」の年代でもある。会社や家庭でも不平不満やストレスが多いと思われる年代だから、納得感を覚えた読者もいるかもしれない。

職業

加害行動の割合が多かったのは「会社員(その他)」「経営者・役員」「自営業」の人たちだった。「働いている人」が接客応対者にカスハラをしやすいのも、見方によっては違和感はないかもしれない。理不尽な労働環境によって常識が歪み、八つ当たりというかたちでカスハラが連鎖していることは十分に考えられる。

レストランの店員に文句を言う男女
※写真はイメージです
「お金持ちは余裕があるからカスハラしない」わけではない
世帯年収

もしかすると「お金持ちは懐にも心にも余裕がある」とか「お金持ちはカスハラが起きるようなお店には行かない」というイメージを持っている読者もいるかもしれない。

だが、今回の分析結果では、世帯年収が1000万円以上になるとカスハラ加害経験の割合が増えることがわかった。さらなる調査・分析は必要だが「経済状態の悪さがカスハラを増長させる」というような見方は、必ずしも正しくない可能性もある。

攻撃性の4タイプのうちの一つ、「影響・強制」では相手よりも地位や財力が優位である人の傾向があったように、優位性とつながる世帯年収はカスハラのしやすさと関連性があってもなんらおかしくはない。生活の心配はない人でも、心の余裕もモラルも欠乏している人たちは残念ながら少なくないようだ。

この調査の回答者のうち被害に遭った人は男性57.2%、女性32.4%の割合になっている。年齢は30〜40代が多く、直接対面で加害を受けた役職は主任クラスや店長が多い。

中高年層の加害者は、店舗内で直接的にカスハラの加害行動をとる割合が高まる。また、店舗内では他のお客がいるなかで30〜40代の主任、店長クラスに対して加害がおこなわれている。

自尊感情が高い人ほど、カスハラ加害の経験あり

これまでの先行研究や調査をまとめよう。カスハラ加害をおこないやすい消費者の傾向は、図表1のようになる。

桐生正幸『カスハラの犯罪心理学』(インターナショナル新書)
桐生正幸『カスハラの犯罪心理学』(インターナショナル新書)

まず、苦情に関する先行研究でも、自尊感情が高い人ほど、苦情に対して肯定的態度をとることが明らかにされている。自分の情動を自分で調整できると思っている人についても同じだ。

自尊感情は、心理学では「自尊心」とも呼ばれる。簡単に言えば、自己肯定感のことで、長年にわたって研究がされてきた。ここでは、他者に対して攻撃や危害を加えるネガティブな側面が出ているが、自尊感情そのものは人間にとって大事なものでもある。

1965年に自尊感情研究の第一人者のモーリス・ローゼンバーグは、この自尊心を科学的に測る方法を開発した。自尊心の程度を数値として測定できる「ローゼンバーグ自尊感情尺度」と呼ばれる尺度は、いまも世界中で広く用いられている。

たとえば「自己肯定感が低くて生きづらい」という悩みも、この尺度によって実証的に証明されている。自尊心が高い方が自己評価も高く、不安も少なく健康的に過ごせて、他人ともうまく付き合える。

この自尊心を測定できる尺度を使って、カスハラ経験のある人とない人のアンケートに対する答えを比較した。すると、カスハラ加害の経験がある人は、ない人に比べて「私は自分には見どころがあると思う」と思っている傾向が高かった。「私には得意に思うことがない」とは思っていない傾向も見られた。

【図表1】カスハラ加害者の傾向
出所=『カスハラの犯罪心理学』
カスハラ加害者は「おたがい様」と考えることができない

またカスハラ加害経験のある回答者の性別についても、自尊心による違いは見られた。男性の方が女性よりも「私は自分には見どころがあると思う」と思っており、「私には得意に思うことがない」とは思っていない傾向が高かったのである。

このように、カスハラ加害の経験がある人の方が自尊感情が高い傾向があるという結果が出た。この結果に納得する読者も多いはずだ。自分に自信がなく「自分なんか大したことない」と自己肯定感が低かったり、あるいは謙虚だったりする人が「自分は間違ってない! お前が悪いんだ!」と大騒ぎするとは考えにくい。

自尊心があることが悪いわけではないが、やはりカスハラの加害者には「おたがい様」という意識が欠落した「俺様」タイプが多いのだろう。

※参考資料
・池内裕美 2010「苦情行動の心理的メカニズム」『社会心理学研究』25(3), 188-198.
・桐生正幸 2021「日本における悪質クレームの分析」『東洋大学社会学部紀要』58(2), 111-117.
・桐生正幸 2016「犯罪心理学による悪質クレーマーの探索的研究」『東洋大学21世紀ヒューマン・インタラクション・リサーチ・センター研究年報』13, 45-50.
・Kiriu, Masayuki and Iriyama, S. & Ikema, A. (2016) A study of Japanese consumer complaint behavior :Examining the negative experiences of service employees, international journal of psychology, (51)301.

桐生 正幸(きりう・まさゆき)
東洋大学社会学部社会心理学科教授
山形県生まれ。東洋大学社会学部長、社会心理学科教授。日本犯罪心理学会常任理事。日本心理学会代議員。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。博士(学術)。山形県警察の科学捜査研究所で主任研究官として犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。著書に『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』(SBビジュアル新書)など。

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