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パリのサステナブル・ガーデンショー「ジャルダン・ジャルダン2023」

  • 2023.7.9

パリの中心地、ルーヴル美術館隣の公園で毎年6月上旬に開催され、約2万人が訪れるガーデンショー「ジャルダン・ジャルダン」。エコロジーやサスティナビリティを強く意識した新しい提案が集まるショーで、オートクチュールのメゾン「シャネル」によるガーデンや、おしゃれな温室、バルコニーやテラスなどにもすぐ応用できる見本ガーデンなど、庭好きには嬉しいコンテンツが盛りだくさん! パリのガーデニングのトレンドを一気に知ることができるガーデンショーの2023年の見どころを8つのテーマに絞って、フランス在住の庭園文化研究家、遠藤浩子さんがレポートします。

パリのガーデニングの最新情報を知るイベント

ジャルダン・ジャルダン2023

日本と同様、6月にはバラ、シャクヤク、アジサイと次々花が咲く花あふれる季節。フランスでもガーデンイベントが集中する時期です。

ジャルダン・ジャルダン2023

2023年はコロナ明け2年振り開催だったパリのアーバン・ガーデンショー、ジャルダン・ジャルダン。18回目を迎える今年は例年のリズムを取り戻し、6月最初の週末(2023年6月1~4日)にチュイルリー公園の一角で開催されました。

テーマは「豊穣でレスポンシブルなリソース・ガーデン」

ジャルダン・ジャルダン2023

今年のテーマは「環境に負荷をかけない」「人にも他の生き物にも寛容な、資源としての庭」また、「人が原点回帰して元気が取り戻せるような庭」といったイメージで、エコロジーやサステナビリティを強く意識したガーデニングという今日的なメッセージがダイレクトに伝わってくるものでした。

ジャルダン・ジャルダン2023
庭のオーナメンタルなアクセントにもなる個性的なデザインのトレリス。

これまでも、都市緑化・アーバンガーデニングに的を絞った構成が、小規模なガーデニングショーならではのピリリと気の利いた存在感を放ってきましたが、今年はさらに自然環境・生物多様性保護に貢献する、現在と未来へ向けてのアーバン・ガーデンのあり方を模索する示唆に富んだ内容になってきました。

ジャルダン・ジャルダン2023
フレンチ・ガーデンの伝統を表現する幾何学的なトピアリーをアクセントにした端正な庭も健在。

大(50㎡~200㎡)小(15㎡)合わせて30数個のショーガーデンと、80ほどのガーデニング関連の出展者たちのプレゼンテーションに共通している、サステナビリティやエコロジーへの配慮は、もはやパリのアーバン・ガーデニングのマストになったと言えるでしょう。

人と自然に優しいガーデンのかたち

ジャルダン・ジャルダン2023

責任感があり、自然にも人にも優しい豊穣な庭、というキーワードからは、都市のヒートアイランド現象の蓄熱を抑える緑の働きや、土壌の大切さ、水の大切さを振り返るようなコンセプトのガーデンだったり、積極的にリサイクルやリユースを利用したデザインや、温暖化に対応した水を大量に必要としない丈夫な植物にスポットを当てたドライガーデン、ワイルドフワラーと、オーナメンタルかつ食用にもなるハーブなどのエディブルな要素を分け隔てなくランダムに植栽に取り入れつつ、懐かしい田舎の庭を思わせるようなガーデンなど、全体的にはナチュラルな雰囲気ながら、さまざまなスタイルの庭が提案されています。

ジャルダン・ジャルダン2023
フェ・ドモワゼル(ドモワゼルの妖精)の庭(Demoiselle VRANKENがスポンサー)。

そのなかで、メインガーデンのデザイン大賞に輝いたのは、庭づくりの匠、フランク・セラによる作品でした。フランスの田舎の祖父母の家の庭をイメージした、レトロで新しいナチュラル・ガーデンです。エディブルな植物とワイルドフラワーが混じりあって彩る、丸太で構成された小道を通って庭に入り、中央の池の上を渡っていくと、涼しい日陰の小さな小屋や、ひっそりメディテーションしたくなるようなシーティングスペースが待っています。

ジャルダン・ジャルダン2023
ナチュラルな田舎の風景を思わせる、ワイルドフラワーが彩る丸太の小道を通って、池を渡り小さな小屋へ。

ポタジェの野菜やハーブを収穫して皆で賑やかに食事したり、植物に囲まれてゆったりと寛いで英気を養う、人の暮らしと自然が温かに共存する庭の池の水は、生命の象徴として取り入れられていました。

スモール・アーバンガーデン大賞が新設

ジャルダン・ジャルダン2023
涼やかなシェードの下に、食事が楽しめるテーブルコーナー、ゆったり寛ぐためのコクーンのようなシーティング、とアイデアが盛りだくさんの小さなガーデン。

また、新たに創設されて注目を集めたのが「スモール・アーバンガーデン大賞」です。15㎡という狭小な敷地は、一般的なパリのバルコニーやテラスなどにもすぐ応用できるリアリティのある面積。「小さな空間に大いなるアイデア」という選考基準で、書類選考で選抜された9つのガーデンが実際に会場に設置されました。木材などの自然素材、リサイクルやリユースの素材を上手に使って、狭い中にもそれぞれの個性が生きる素敵なスモール・ガーデンが並びます。

ジャルダン・ジャルダン2023
「スモール・アーバンガーデン大賞」に選ばれた「出現 Apparaître」。

大賞に選ばれたのは「出現 Apparaître」というタイトルがついたガーデン。リサイクルのガラス素材などが上手く組み合わされて、透明感と反射の加減で空間を広く軽やかに見せる工夫がなされています。

ジャルダン・ジャルダン2023
「スモール・アーバンガーデン大賞」に選ばれた「出現 Apparaître」。木材とガラス材を多用した空間の構成が面白い作品。植栽はシンプルに、ワイルドなグリーンで。

今年のシャネルはオレンジ・ガーデン

ジャルダン・ジャルダン2023

さて、見逃してはならないのが、毎年楽しみになっているシャネルのガーデンです。ハイブランドの世界観を表現するガーデンは、いつも上品かつスタイリッシュ。今年はシャネルのパルファンの5つの基本の香りの中から、ビターオレンジ(橙、Citrus aurantium)をメイン・テーマにしたガーデンです。

シャネルの庭
ビターオレンジの若苗が南仏に造られたオレンジ畑の風景を彷彿とさせます。

イル=ド=フランスをはじめ、フランスのほとんどの地方では露地栽培が不可能なオレンジの木ですが、シャネルのパルファンのために、温暖な南仏の契約農家で、環境配慮した無農薬栽培で大切に育てられた花が採取されているそうです。

シャネルのブース
ブース内ではビターオレンジから作られる香料ネロリとプチグランを嗅ぎ比べたり、香料さらに香水の製造過程について学べます。

かつては盛大だった南仏のビター・オレンジの栽培も、化学的な香料の発展で現在は大幅に減少してしまっています。シャネルでは契約農家とともに、700本のビターオレンジを新たに植樹して無農薬栽培のオレンジ畑をつくっています。畑の造成は、南仏で昔から使われている石壁制作の技術を専門学校の生徒たちに伝授する機会にするなど、伝統技術の継承の場にもなっています。

シャネルのブース
子どもたちのためのワークショップの特設スペースもとってもおしゃれで、参加できる子どもが羨ましい。

ガーデニンググッズもカッコよくサステナブルに

ジャルダン・ジャルダン2023
大手ガーデンセンターによるガーデニング超初心者さん向け定植体験ブース。バジルやラベンダーなど沢山の植物の中から好きな苗を選んで植木鉢に定植。家に持ち帰れます。

ガーデニンググッズにも、やはりリサイクル、リユースといったサステナビリティを大切にしたデザインがみられ、会場のさまざまな製品のプロトタイプのトレンドになっていました。最新のリサイクル技術などを取り入れ、かつ自然な素材や伝統的な技術にも目を配った、エコロジカル・ガーデニングに欠かせないお洒落なプロダクトを発見するのも、会場での楽しみの一つ。

テキスタイル製コンテナ
こちらは軽さがポイントのテキスタイル製のアウトドア用コンテナーシリーズのプロトタイプ。10年以上の耐久性があり、かつ何度かのリサイクルが可能な素材が使われています。
素焼きのオヤ
最近はすっかり一般化してきた素焼きのオヤ(Ollya)。水やり回数を抑えることができる優れもの。
パリのハチミツ
パリのハチミツ業者のブース。時期により蜜源は変わるが、写真は世界的なハチミツコンクールで入賞したものだそうで、さすがに一際味が濃くて美味しい。

また、庭といえば、養蜂を趣味にする人も多いフランス。パリのハチミツ業者も出店。農薬などの使用がほとんどないパリの方が、農業地帯よりもよいハチミツが採れる、のだそうです。時期によって蜜源が異なるので、味も軽いものから複雑に深いものまであり、中には世界ランキングでも評価される美味なパリ産ハチミツも。

憧れのクラシカルな温室

温室

そして、ヨーロッパらしさが溢れているのが、おしゃれな温室です。大小さまざまなサイズ展開で、展示されている色に限らず、カスタムメイドもできます。庭に温室があれば、寒さに弱い植物の冬囲いや播種にと便利に使えますし、または、お茶を飲むスペースにしたりと、部屋が一つ増えたようにも使えます。お値段は張りますが、いつかは欲しい、憧れの温室です。

温室

無農薬有機栽培の野菜・ハーブ苗

苗
無農薬栽培で育てられた伝統野菜や希少品種の野菜苗たち。

さて、サステナビリティへのこだわりは、苗販売にも行き届いていて、無農薬・有機栽培で育てられたじつに多彩な種類の野菜の種子と、この季節すぐ植えられる苗も揃っています。話を聞くと特に伝統野菜に力を入れているそうで、例えば、フランスの家庭のポタジェ(菜園)で栽培するのに一番人気のトマトなどは、それだけでも何十種類もあります。

伝統種の種
自家栽培の固有種、伝統種の野菜や花の種がよりどりみどり。

食文化が豊かなフランス、野菜や果物の品種にもこだわって栽培する人が多い様子。私も一般的なガーデンセンターではほぼ見つからないカクテル・キュウリの苗を発見、お買い上げできて大満足でした(翌日早速ポタジェに定植、収穫できる夏になるのが楽しみです!)。

ジャルダン・ジャルダン2023

すべてはご紹介できなかったのですが、会場では、こだわりのガーデナーもガーデニング初心者も、誰でもがどこかに満足できる展示・物販が用意されていて、しかもフランスの6月は、野外にいるだけで気持ちのよい季節でもあり、大変満足度の高いイベントになっています。

ジャルダン・ジャルダン2023
セイヨウボダイジュの並木はカフェサロンに早変わりして、寛ぐ来訪者たち。

さらに、会場のチュイルリー公園は、花が咲き始めたセイヨウボダイジュの並木道が美しい、彫刻作品なども充実した有数の歴史的庭園。ちょうどバラの季節でもあり、会場を出てからも、美しい庭の世界の延長をうっとり楽しむことができるのもいいところ。今後も注目していきたいイベントです。

チュイルリー公園
チュイルリー公園、花が始まったセイヨウボダイジュの並木や、バラが植栽されたクラシカルな美しい庭園空間が広がります。
Credit
写真&文 / 遠藤浩子 - フランス在住/庭園文化研究家 -

えんどう・ひろこ/東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。

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