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奥深い“羊毛フェルト”の世界へ…引きこもり大学生×少女のヒューマンコメディ

  • 2023.7.4

羊毛フェルトで亡きペットと再会! 引きこもり大学生×少女の成長譚『針と羊の舟』について、著者の幌琴似さんにお話を聞きました。

「マンガのネタが思い浮かばず落ち込んでいたとき、本屋さんでリアルな兎の作り方を紹介した羊毛フェルトの本を見つけました。私は10年ほど前に兎を飼っていたのですが、ちょうど命日が近く、また会いたいなあと思ったんです」

羊毛を特殊な針で刺して固めることで成形する羊毛フェルト。著者の幌琴似さんの願望は、本作で羊毛フェルトを始める花原に投影されている。花原は愛兎・ジュラを亡くしペットロスに陥り、東京の大学にも馴染めずにいる引きこもりの男子学生。師匠と仰ぐ小学生の弥生と公民館で落ち合い、手芸にいそしんでいる。

「男の人が手芸をやっていたらかわいいなと思ったのと、小さい子のほうが引っ張っているような関係性が好きなので、この組み合わせになりました。私も一通りの手芸をしてきましたが、無心で手を動かすのはセラピー効果があるんですよね。羊毛フェルトで死んだペットを再現したいという目標を持つことと、黙々と作業することで、2重に癒される過程を描ければと思いました」

といっても、本作に漂う雰囲気は基本的にコミカル。実際の製作工程はひたすら針を刺していく単調かつ地味な動きの繰り返しだが、ふたりのかけ合いや、申し訳ないけど笑わずにはいられない失敗、心に浮かんでは消える雑念・妄想などの賑やかな描写で、読み手を飽きさせない。

「自分でも花原と同じ順序で作っているのですが、そのとき気付いたことやあり得そうなことを、絵的な面白さも重視して物語に落とし込んでいます。羊毛フェルトは効率よくできないというか、一針ずつ進めていくしかないので、急ぐのを諦めて時間をかけてやろうっていう開き直りの境地に至ることができるんです」

パンダ、カワウソ、トイプードルなど、花原はレベルを上げながらいろんな動物を作るのだが、気になるのが弥生の反応。的確なアドバイスをしながらも、夢中になっている彼を見て複雑な感情を抱いてしまう。

「弥生はものを作りたい人というより、他者に認められたい思いが強いんです。しかも彼女の場合は、母親がプロの作家で、自分も大人になったら勝手に上手くなると思い込んでいた節があって、実際はそうじゃないと気付き始めてもいる。どちらも私の経験を反映させた、思い入れのあるキャラクターですね」

“繊維の彫刻”とも称される奥深い世界の一端に触れながら、ふたりが乗り合わせた舟の行方を見届けよう。

幌 琴似『針と羊の舟』1 ペットの兎を亡くした大学生が、小学生の天才クリエイター(?)に弟子入り。羊毛フェルトを通してさまざまな気付きを得る、ヒューマンコメディ。KADOKAWA 770円 ©幌琴似/KADOKAWA

ほろ・ことに マンガ家。学生の頃からマンガを描き始め、コミティアなどで活動。商業マンガとしては、本作がデビュー作。10月に2巻発売予定。

※『anan』2023年7月5日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)

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