「息ができるようになった」『グラマラス』俳優がトランスだと公表

Netflixドラマ『グラマラス』のミス・ベニーが、トランスジェンダーであることをカミングアウト。自身のジェンダー移行の経験を明かし、ドラマの物語にもその経験を取り入れた背景を説明した。（フロントロウ編集部）

Netflixドラマ『グラマラス』のマルコ役、ミス・ベニー

キム・キャトラル演じるコスメ業界の大物の下で働くことになったクィアの若者マルコが、仕事や恋愛に悩みつつ自己発見をしていくNetflixドラマ『グラマラス』。マルコを演じるミス・ベニーがTIME誌でトランスジェンダーであることをカミングアウトして、ジェンダー移行の経験を語った。

アメリカでも保守的なテキサス州の敬虔なキリスト教徒の家庭に生まれたミス・ベニーは、クィアであることが許されない環境のなかで育ち、8歳の時には毎晩、女の子になれますようにと祈り、毎朝男の子として目覚めて泣いていたという。そんな環境から逃げるように、14歳の時にLAに移り俳優を目指したミス・ベニー。オーディションには落ち続けたものの、19歳の時に受けた『グラマラス』のオーディションでは、自分らしさを出した結果マルコ役に決まり、泣いて喜んだと振り返る。

ジェンダー移行して「息ができるようになった」

しかし、『グラマラス』は当初放送を予定していた局でお蔵入りとなり、さらに社会はパンデミックを経験。そんななか「私の性別違和は非常にひどくなっていました」と当時を振り返ったミス・ベニーは、トランスジェンダーであるスペイン人シンガー兼タレントのクリスティーナ・オルティス・ロドリゲスの生と死を描いたドラマ『Veneno』を観て衝撃を受ける。登場人物たちが「いつジェンダー移行を始めたのですか？」「あなたはいつ始めるの？」と語る様子を見て、「自分がもし誰かにそんな質問をされたら、もっと早く移行しなかったせいでどれだけの時間を無駄にしたのかを痛感することになる」と思ったという。

この日以降、日常生活の中で少しずつジェンダー移行していったミス・ベニー。この経験については、「これまでの人生ずっと鼻が詰まったまま生きてきて、突然気道が開いて息ができるようになったようでした。そして他の人たちは、これまでずっと自由に息をしていたということを知ったのです。今、私も呼吸をしてみんなと同じように人生を楽しめています」とTIMEにて綴った。

自身のジェンダー移行を物語をドラマに反映させる、Netflixも支持

その後、Netflixが『グラマラス』の制作を決定。マルコという男性の役に配役されている自分はもう男性ではない。悩んだ末、元の物語とは異なるが、自身の現実世界での経験に合わせて、マルコもジェンダー移行させていくことを提案すると、プロデューサー陣もNetflixもそれを支持してくれたという。

ミス・ベニーもマルコのキャラクター作りに深く関わった結果、一人のクィアの若者が、恋愛や仕事に悩みながら、自己発見していくという物語になった。

そうして、ドラマ『グラマラス』は2023年6月にNetflixで配信がスタート。記事執筆時点で、グローバルランキングのトップ10にランクインしている。

ミス・ベニーにとって、反トランス論調が政治利用されるなかで番組を発表することやトランスジェンダーだとカミングアウトすることは、不安もあったという。しかし、ネットに少しだけあったLGBTQ+の話を見つけるたびに幸せを感じていた幼少期を思い出し、「他とは違う者であることの重みを感じている人がいるならば、私たちのような人が活躍し、祝福される姿を見ることができる場所を彼らにも持ってほしい」と強く語った。

ドラマ『グラマラス』は日本のNetflixでも配信中。