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「他の企業ができないことに挑戦しようとしているか」投資のプロが株主総会で"社長の夢"を聞く理由

  • 2023.7.3
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株主総会への出席は個人投資家の特権といえる。ファンドマネジャーなどのプロの運用者は信託銀行名義で株を保有していることが多く、出席する権利がないからだ。四季報の達人と呼ばれる渡部清二さんは「たとえトヨタのような大企業でも、株主総会なら個人投資家が直接質問したり、意見を言うことができる。私は『社長の夢』について聞くことにしている」という――。

※本稿は、渡部清二、複眼経済塾『株主総会を楽しみ、日本株ブームに乗る方法』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

会議でのプレゼンター
※写真はイメージです
自分なりの予想を語りつつ、「社長の夢」を聞く

株主総会でマーケットに関する質問の次に、私がよく聞くのが「社長の夢」です。「社長はどこを目指し、何をやりたくて、この事業を進めているのでしょう」「将来的に社長は、どのような世の中をつくりたいのでしょう。夢でいいので大きなビジョンを語ってください」といった具合です。

ここで熱い思いをどんどん語る経営者なら、迷わず応援します。上場したばかりの会社なら、大方7割程度の社長が熱く語ってくれます。

社長の夢を尋ねるにあたり、私がよく行うのが自分なりの予想を先に語るというものです。「私は御社にこのようなストーリーを感じています。それは合っていますか。イメージを教えてください」といった具合です。

たとえば東京を中心に酒販店をチェーン展開するカクヤスグループの株主総会では、こんな質問をしました。

「これまでのコンビニの成長は既存の酒屋、つまり『サザエさん』でいえば三河屋さんのような町の酒屋を転換して伸びていったものと思っています。ただし今後は少子高齢化が進み、むしろ昔の三河屋さんのように注文を取りに来たり、配達してもらうほうがありがたいと考える人たちが増えていくのではないでしょうか。その機能を持っているのが御社のように思うのですが、そのあたり、どのように思われていますか?」

既存の販路を生かした新たなビジネス

すると「おっしゃるとおりです。我々は三河屋のサブちゃんを目指しています。ただしコスト意識を持ったサブちゃんです」という答えが返ってきました。

『サザエさん』の三河屋で働く、ご用聞きがサブちゃんです。サブちゃんはサザエさんの家に来ると、時間を気にせずタラちゃんと遊んでいますが、この間にもコストがかかっています。「だから我々は、そこにコスト感覚を加えたサブちゃんを目指します」と、そんな面白いストーリーを語ってくれたのです。

「コスト感覚を持ったサブちゃん」は、いままでありそうでなかった存在です。町の酒屋さんは、ある意味、全部コンビニになってしまいました。そこにもう一度、新しいサブちゃんを復活させようというのです。

このカクヤスグループの最大の特徴は、お酒1本から届けるところです。そのネットワークを東京都内すべてに張りめぐらせていますが、「日本全国どこでも」を標ぼうしています。すでに販路はあり、あとは“サブちゃん”をつくるだけです。

酒やビールと一緒に介護用おむつを配達する

同社は酒やビール、お米など重いものを配達して、顧客に喜ばれています。今後もっといろいろな商品を届けるようになれば、需要はさらに広がります。

たとえば、この同社が考えていることの一つが、介護用おむつです。酒やお米を届けてほしいという人たちは、かなり限定されています。ある程度高齢で買い物には行けるけれど重いものを持って帰れない人、あるいは足腰が弱ってきて買い物に出るのが億劫な人、さらに子育てで忙しく、買い物に行く時間がないから持ってきてほしい人たちです。そうした人たちに向けて、別の商品も配達するのです。

荷物の受け渡し
※写真はイメージです

現代日本で、こうしたビジネスモデルをつくれるところは、ほとんどありません。このビジネスモデルでかつて最強だったのが、松下電器(現パナソニック)のショップ店「ナショナルのお店(現パナソニックのお店)」でした。同ショップ店は、電球の交換一つでも、すぐに家まで来て、やってくれました。

これは同ショップ店にとってもチャンスで、交換のために家の中に入れば、そこには冷蔵庫もあれば、テレビもあります。「テレビの調子はどうですか?」「そろそろ古くなっていませんか?」などと提案し、新しい家電製品を買ってもらうことができるのです。

同ショップ店はかなり数を減らし、玄関を開けて中まで入れる人は、そうそういません。手渡しが主流だったアマゾンの配達も、玄関前までしか届けない「置き配達」が主流になっています。

このような流れの中でカクヤスグループこそ唯一それができると思って質問したところ、そのとおりの答えが返ってきたわけです。当然この会社は応援しようとなりました。

「将来の夢」が変わってしまう社長も

もちろん思ったとおりの答えが返ってこないケースもあります。「このビジネスは、こんな可能性が広がっているのではないか」と思って質問したところ、「まだ新しいマーケットなので、そのようなデータがないんです」などと拍子抜けするような答えをする社長もいます。

でもそれは公のデータがないだけで、自分でイメージすればいい話です。あるいは、いまある何かに置き換えて語ればいいのです。「GDPの何%になります」でもいいわけで、答えようはいくらでもあります。答えられないのは、ふだんから何も考えていないからでしょう。

一方、最初は有望と思ったのに、のちに期待外れとなるケースもあります。ある旅行関連の会社の社長は、デビュー戦で「父を超えたい」と言っていました。父が小売業で大きく成功し、「最低でも父を超えたい。私なんてまだまだです」と語っていました。その語り口に好感を持ち、その後株価も上がっていったのですが、しばらくすると悪評を聞くようになりました。

すでに別の会社を立ち上げ、その会社の方に力を入れているというのです。投資の方法を教える複眼経済塾の塾生3人から同じような話を聞き、「悪い噂を2人から聞いたらアウト」と考えている私からすると、距離を置きたくなります。

そういう目で見ると、当初は有望と思えたビジネスモデルも、非常に怪しいものに感じられてきました。一見、画期的に思えたビジネスモデルが、いざ自分で使ってみると、かなり使い勝手が悪いことにも気づきました。

おそらく彼は「父を超えたい」という思いが、「よいサービスを提供して会社を大きくする」ではなく、別のところに向かっていったように思います。ある意味、人物を見誤ったケースで、私にとって反省材料の1つになっています。

社員教育について質問して成長の可能性を探る

社員についてどう考え、どう育てているか――。これも重要な質問で、どれだけ成長が期待できるマーケットであろうと、社長に夢があろうと、それを支えるのは人材です。そこで「会社を成長させるのは、最後は社員教育にかかっています。そこはどう考えていますか。具体的に何をしていますか」などと、聞くのです。

こうした質問は、他の株主からはあまり出ません。同じ人材に関する話でも、多くは細かいところをチクチクつつくものです。飲食業なら「店に行ったら注文から出てくるまで30分もかかりましたが、オペレーションはどうなっていますか」といった類いです。

こうしたことも身近な気づきとしては大事ですが、解決策を知ったところでこの会社がどこへ向かうかはわかりません。社長の夢や人柄を知るうえで、参考になるかどうかもわかりません。

人材教育で強く記憶に残っているのが店舗運営のコンサルタントなどを行うピアズです。

株主総会終了後に、社内を案内してもらったときです。案内役を務めたのが社内で一番張りきっているという若手の女性社員で、非常に好感が持てました。彼女を見て、この会社は人の育て方がうまいと感じました。

子連れ出社を認めている会社で見えたこと

またその時、社内に3歳ぐらいの子どもが遊び回っていました。この会社では社員が子どもを連れてきて仕事をしてもいいとのことで、「周りの人たちが迷惑に感じませんか?」と尋ねると「それを皆が受け入れています」という返事でした。やはり「この会社は社員を大事にしている」と感じました。

渡部清二、複眼経済塾『株主総会を楽しみ、日本株ブームに乗る方法』(ビジネス社)
渡部清二、複眼経済塾『株主総会を楽しみ、日本株ブームに乗る方法』(ビジネス社)

同社桑野社長には、別途、複眼経済塾主催の複眼IRで直接お話を聞いたのですが、とてもユニークな社員教育を行っていることがわかりました。同社では社員を入社させるにあたり、まず育ててくれた両親に手をついて「これまで育ててくれてありがとう」と感謝の気持ちを伝えるように指導しているそうです。それを言わない限り、入社を認めないのです。

さらに内定が決まった段階で、山口県萩市にある松下村塾か、鹿児島県南九州市にある知覧特攻平和会館に見学に行かせて、先人たちの思いを心に刻むそうです。

この会社は元々、携帯電話の販売店向けコンサルタントがメインの業務で、数時間待ちが当たり前だった携帯ショップを予約制にしたのも、この会社だそうです。携帯販売店における消費者との対話から得た「おもてなし」のノウハウを、今後は様々なサービスにいろいろな形で植えつけるのが自分たちの仕事と語っていました。

コロナ禍で事業が二転三転しているようですが、このような人材育成を行う会社なら今後も期待できると思います。

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