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"ゲンバメシ"のボス降臨|樋口真嗣の"ゲンバメシ"02

  • 2023.6.30

多くの人々が関わる映画の撮影現場。時にその規模は100名を優に超えるという……。そんな過酷な“ゲンバメシ”を司る者現る。「シン・ウルトラマン」、「シン・ゴジラ」など数々の日本映画を監督してきた樋口真嗣さんの、仕事現場で出会った“ゲンバメシ”とは?

"ゲンバメシ"のボス降臨|樋口真嗣の"ゲンバメシ"02

■そもそも、映画の撮影にまつわる“ゲンバメシ”とはいかなるものなのか?

ほかのお仕事と決定的に違うのは食べる行為の優先順位の低さであります。撮影でまず第一に優先されるのは、出演者のスケジュールです。お客様のほとんどは映画の何を観に行くかと言えば役者さん、スターであります。絶世の美女、イケメン、いぶし銀の名優。その姿見たさに映画館に足を運んでいただけているわけで、私が飲み屋のカウンターで俎上に上がる話題はと言えば次の映画のことだったりするわけで、そんなときにみんな「誰が出るの?」であります。

「どんな話?」は迂闊にしゃべられてネタバレになるから聞かないのか、それともそもそも興味がないのか大体出演者の顔ぶれだし、それならとこっちも見たいと思われる様な顔ぶれを揃えようと頑張るわけです。

ところがみんなが見たがるような人はつまるところ人気者だから、映画の撮影以外にも仕事がいっぱいあるのです。だから出演者のスケジュールがまず優先され、それから撮影場所です。これがまた有名な場所だったりするとそこで撮影そのものができるか、できたとしてもお店であれば普段の営業時間は撮影なんかされたら邪魔だから営業してない時間帯か、休みの日で、というのが大前提で、あとは営業の補償次第でなんとかなりますが、そこに対して金に糸目はつけないって姿勢は未だかつて見たことがありません。

他にも天気だとか、建てたセットの回転とか、油断できない要素が撮影にはつきまといます。だからご飯の心配なんかしてたら怒られるけど、かと言ってぞんざいなご飯だと飢えたスタッフが暴動を起こすのは必至です。

撮影は大きくスタジオ(撮影所の中の撮影用ステージに建てたセットでおこなうセット撮影)とスタジオの外(街中や山の中、海岸といった屋外や、誰かの所有するビル、家、公共施設を借りてその内外を舞台にするロケ)もしくはロケセット撮影に分けることができます。

スタジオでの撮影の場合は中で食事をする環境(前回お話ししたサロンとか職員食堂といった設備)が整っているので大丈夫だけど、ロケの場合はその時と場合で供給できる環境かどうかが不確かなので、製作部が準備することになります。

あるいは、作業が早朝から始まったり深夜に及んだ場合も用意しなければならないのです。映画の規模によっても違いますが最小で十数人から最大は100人を超えることもザラです。それに加えて大量のエキストラが必要な場合はその人数分が加算されます。その量を安定して確保するだけでも大変なのに質なんかこだわってられるのでしょうか?

しかしそれが不思議なことに、美味しかったりするわけですよ。
これだけ矛盾だらけの要求にもかかわらず、酷い目に遭った事例はまず無いんですよ。
どうしてなのか、以前食事に関して一手に担う製作部のボス(製作担当という役職名があるんです)に聞いてみたら……、
「俺たちはなんのために仕事してるかわかるか?」
質問に質問で返してきましたよ。もちろんこちらの答えなんかアテにしてません。すかさず答えを開陳です。

「メシを食うために仕事してるんだよ!」

決まったぜ……と言わんばかりに口角がニヤリと上がりました。
至極当たり前のことだけど、それを大切にしてくれてるから、僕らは美味しいご飯にありつけているのです。

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文・イラスト:樋口真嗣

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