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【札幌】「今、本当に幸せ?」見つめ直すカギは、“歩く観光”/さっぽろラウンドウォーク

  • 2023.6.9
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みどり豊かな札幌。歩いて一周できるコースがあるんです。

6月4日、「さっぽろラウンドウォーク」と題したコースの魅力を発表するシンポジウムが開かれました。北海道大学と、北大発のNPO、札幌市などが協力して温めてきた企画です。

なぜ「歩く」ことに注目したのか?
お話を聞くと、「歩く観光」の可能性、さらに「札幌だからこそ」の魅力が、続々と見えてきました。

シンポジウムで感じた魅力と、歩く前に知っておいてほしいことを、3つのポイントにまとめてご紹介します。
(なぜクマ連載でのご紹介なのか?「歩く観光」とクマのつながりは、3つ目のポイントで)

連載「クマさん、ここまでよ」 ちょっと番外編

【この記事の内容】
①広がる「歩く観光」の可能性…きっかけはアフリカ・カメルーン?
②「札幌だからこそ」の魅力
③「歩く観光」とクマ

①広がる「歩く観光」の可能性

「さっぽろラウンドウォーク」は、札幌周辺をぐるりと一周する、およそ140キロのコース。
「自然を楽しむ里山コース」「街を望める山手コース」「歴史と文化の田園コース」と3つのエリアに分かれています。

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決まった出入り口や歩く順番のルール、申し込みの必要などはありません。自由に出入りできる道なので、思い立ったときに、好きな場所・短い距離から気軽に楽しめます。
コースは無料のアプリや、ホームページから購入できる紙地図で確認できます。

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6月4日・北海道大学で開催されたシンポジウム

シンポジウムには、定員の100名を上回る申し込みがあったといいます。
登壇者として、北海道大学の教授や、NPO代表、「街歩き研究家」などいろいろな人が参加していましたが、それぞれが思う「歩く観光」の可能性を、生き生きと語る姿が印象的でした。

今、本当に幸せ?市民にとっても見直すきっかけに

まずは、NPO法人ウォークラボ札幌・代表理事の下休場千秋さん。北海道大学でエコツーリズムやアフリカの民族文化についての研究をしていて、定年退職後もNPOの代表として「さっぽろラウンドウォーク」の企画に携わっています。

下休場さんにとってのきっかけは、アフリカ・カメルーンにありました。

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カメルーンでの祭礼の様子(撮影:下休場千秋さん)

王国文化の研究で、何度もカメルーンを訪れていたという下休場さん。
「電気もガスもない農村部に行っていたんですが、お祭りのときなど、現地の方々がすごく生き生きとしている姿を目にしたんです。『日本のあまりにも便利な生活は、本当に幸せなのか』『どちらが豊かな暮らしかは、一概には言えない』と考えるようになりました」と振り返ります。

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カメルーンでの祭礼の様子(撮影:下休場千秋さん)

どういう暮らしが心身ともに健康で、地球にも負荷をかけないかを考えたときに、『歩く』ことに注目したんです。歩くことは現代人に不足していますが、地域のことをよく知るきっかけにもなる。ライフスタイルを見直すきっかけにしてもらえればと思いました」

「歩く観光」は、「今の暮らしが本当に幸せか」、見直すきっかけになる…。

主催のNPOには、大学研究者に限らず、企業で働く人も参加していますが、そのひとり・奥田萌さんは、「社会人になってから時間がもったいないと思って、タクシーに乗ることが増えていた。でも、さっぽろラウンドウォークの活動で『歩く』ことの楽しみに気づいた」と話していました。

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シンポジウム前の記者発表。スクリーン前に座る3人の中央が下休場さん、右が宮下さん

NPO法人ウォークラボ札幌・事務局長の宮下照太郎さんは、「札幌市民でも知らないスポットはまだまだあると思う。歩くスピードなら、新しい発見をしたり、考えたりできるのもメリット。ちょっとコースを外れておいしいものを食べたりしながら、新たな観光資源としてのラウンドウォークを楽しんでほしい」と話していました。

1泊では味わいきれないはず…札幌の魅力を知ってほしい

一方、北海道大学・観光学高等研究センター教授で、NPO法人ウォークラボ札幌の理事でもある木村宏さんは、外国人観光客の視点で、「歩く観光」の可能性に目を付けました。

2017年、北海道新聞の記事で、「訪日外国人の大半が、札幌には1泊しかしない」ことを知ったのがきっかけだといいます。
観光客に「滞在」してもらうために、「歩く観光」を通して、札幌の魅力を知ってほしいと考えました。

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左が木村さん。外国人観光客にも人気の真駒内滝野霊園も「自然を楽しむ里山エリア」に含まれる

それから約4年をかけて、下休場さんや札幌市、以前から札幌の歩くルートに注目してきた環境市民団体「エコ・ネットワーク」などと協力し、札幌の魅力を堪能できるコースを選びました。

コースには、「札幌だからこそ」の魅力があります。

②「札幌だからこそ」の魅力

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歩いた後にも楽しみが

歩くフィールドとしての、札幌の面白さ。
木村さんは、コースから少し歩くと行ける飲食店の選択肢の多さも魅力だといいます。歩いたあとに銭湯や温泉に行くことも提案します。

食や温泉をさらに楽しくさせるのが、さっぽろラウンドウォークだと思う。歩くことで心地良い疲労がたまると、楽しさ倍増。精神的な効果もあると思う」と話していました。

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コース紹介のスライドには食べものの写真も多く含まれていた
公共交通が多い

コースには、滝野すずらん公園や白い恋人パークなどの観光地と近い場所や、地下鉄やJRの駅と重なる部分もあります。

まずは行ってみたい観光地からスタートして、すぐに公共交通に乗らずに、一駅分だけでも歩いてみる。その中で隠れた魅力を発見して、疲れたら次の駅やバス停でリタイヤ。

そんなふうに、きょうはどこからスタートして、どこまで歩くか…それぞれの体調や気分に合わせて楽しめるのも、「みどり豊か」・かつ「大都市」でもある、札幌ならではのメリットです。

公園が多い
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シンポジウムでは、北海道大学の木村さん、エコ・ネットワークの小川さん、街歩き研究家の和田哲さんが「歩く観光」の可能性について明るく語りあった

シンポジウムに登壇した、「エコ・ネットワーク」代表の小川巌さんは、「公園の多さ」を挙げます。

地図を見てみると、「真駒内公園」「平岡公園」「川下公園」など、たしかに多くの公園を通るルートになっています。それぞれ花が楽しめるおすすめの季節も書かれていました。

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カタクリ、ライラック、紅葉…季節ごとの風景を楽しめる

小川さんは、「札幌は公園が多く、川も多いので、歩いていて景色が変化に富んでいるのが魅力」と話します。また、公園が多い=トイレに困らないことも、重要なメリットだと話していました。

③「歩く観光」とクマ

小川さんが「歩く」ことに注目したのは、「さっぽろラウンドウォーク」の構想が始まるよりずっと前。

イギリスでは、フットパス(=直訳で歩く小道)と呼ばれる散歩道があり、「歩く観光」を楽しむ文化があります。小川さんは、ピーター・ラビットで有名なイギリス・湖水地方のフットパスを歩いたことをきっかけに、「これこそ北海道にぴったり」と感じたといいます。

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エコ・ネットワークでの活動中の小川さん(2020年)

1992年に「エコ・ネットワーク」を立ち上げ、講演や歩くイベントを開催してきた、いわば北海道のフットパスの第一人者です。
「エコ・ネットワーク」は、歩くことに限らず、環境にまつわることに幅広く、フットワーク軽く、市民と一緒に向き合うのが特徴。
その取り組みのひとつとして、クマ対策のボランティアにも関わっています。

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「エコ・ネットワーク」で行っているクマ対策のボランティア。クマを引き寄せる放棄果樹を撤去する(2020年撮影)

そんな小川さんは、シンポジウムでクマの話題にも触れました。
「みんなクマを悪者と思っているかもしれないけれど、通常は人に気づいたら、クマのほうから引き下がってくれる。コースの中で山のほうを歩くときは特に音を出すとか、そうした心構えをした上で歩くようにしてほしい

札幌はクマだけでなく、シカ、キツネ、リスなど、いろいろな動物が暮らしています。
会場からも、「歩くことで接する野生動物の知識も、マップに加えてほしい」という意見が出ました。

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札幌市中央区のマンションの敷地内に座り込むシカ(2023年3月)

みどり豊かな札幌。その特徴が、クマが住宅地に迷い込む通り道にもなってしまっていると、これまでの連載でお伝えしてきました。
でも、みどりとクマ対策は対立するものではなく、「みどりが魅力だからこそ、安全に楽しむために、クマ対策も必要」だと感じています。

クマに出会わないためにできること、それでもクマに会ったらどうしたらいいかは、この連載から生まれたまとめサイト「クマここ」でご紹介しています。
その中で、「山に入るときは、ひとりで行動しない」ことも対策としてお伝えしていますが、「さっぽろラウンドウォーク」でも、「あるこう会」と題して、スタッフと一緒に歩くイベントを開催しています。

「あるこう会」にはひとりで申し込む方も多いとのことなので、「歩いてみたいけどひとりだと少し不安」「スタッフの説明を聞きながら楽しみたい」という方は、ホームページからご確認ください。
ホームページでは、コースを紹介する無料のアプリや、有料の紙地図の購入方法も案内されています。

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ホームページからダウンロードできる無料アプリ

「さっぽろラウンドウォーク」は始まったばかり。
今後、完歩賞の認定証を作ることや、案内板の設置も検討したいということで、「歩く観光」の可能性はさらに広がりそうです。

連載「クマさん、ここまでよ」
暮らしを守る知恵のほか、かわいいクマグッズなど番外編も。連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。

編集:Sitakke編集部IKU

※掲載の内容は取材時(2023年6月4日)の情報に基づきます。

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