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「日本のアニメ界は優秀な作家が多い」 世界的児童書を初アニメ化したフランス人監督が言及

  • 2023.6.8
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誰にでもあるものといえば、子ども時代の忘れられない思い出。そこで今回ご紹介するオススメの最新作は、50年以上前にフランスで誕生し、世界中の子どもたちから愛されている児童書を初めてアニメーション化した注目作です。

『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』

【映画、ときどき私】 vol. 584

パリの街並みを望む小さなアトリエにいるのは、イラストレーターのサンペと作家のゴシニ。2人は試行錯誤しながら、いたずら好きのやんちゃな男の子のキャラクター・ニコラに命を吹き込んでいた。そこには、大好きなママのおやつ、校庭での仲間たちとの喧嘩、先生もお手上げの臨海学校の大騒ぎといった数々のエピソードが並ぶ。

サンペは、ニコラを描くことで望んでも得られなかった幸せな子ども時代を追体験していた。そして、ある悲劇を胸に秘めるゴシニは、物語に最高の楽しさを与えていくことに。児童書『プチ・ニコラ』の心躍らせる世界を創造しながら、激動の人生を振り返る2人。いつしかニコラの存在は、そんな彼らの友情を永遠のものにしていくのだった…。

世界最古にして最大規模のアニメ映画祭「アヌシー国際アニメーション映画祭」で、最高賞となるクリスタル賞を昨年受賞した本作。国内外で高い評価を得ているなか、こちらの方々にお話をうかがってきました。

バンジャマン・マスブル監督 & アマンディーヌ・フルドン監督

監督を務めたのは、美術を学んだあとアニメーション業界に入り、テレビアニメシリーズのディレクターとして活躍してきたフルドン監督(写真・右)。そして、アカデミー賞にノミネートされた『失くした体』をはじめ数々の映画賞を受賞した作品に編集として携わり、本作で監督デビューを飾ったマスブル監督(左)の2人です。そこで、原作が愛される理由や制作秘話、そして現在の日本のアニメ界について語っていただきました。

―『プチ・ニコラ』はフランスでは国民的な児童書ですが、どういったところがそれだけの人気を博した理由だと思われていますか?

マスブル監督 まず、この作品がいまもこれだけ愛されている大きな理由のひとつは、子どもの視点で描かれているところ。1950年代のフランス社会をはじめ、すべてをニコラの目を通して描いていますが、そうすることで詩的な部分やコミカルな要素が生まれるのです。そして、それにサンペの無邪気な子どもたちのイラストが相まって普遍的な作品になったのではないかなと。あとは、戦後のフランスが復興に向けて活気のあった時代の雰囲気を体現しているというのも要因だと思います。

フルドン監督 それから、作家であるゴシニが人物造形と合わせて人間関係をきちんと描いているのも大きいのではないでしょうか。ニコラという子どもには両親と祖父母がいて、さらに友人や教師もいるので、そういう普遍的な人間関係が共感を得ているように感じています。

2人だったからこそ、野心的な作品にできた

―『プチ・ニコラ』はサンペとゴシニの2人が組んだからこそ生まれた作品ですが、初のアニメーション化を実現したおふたりも、2人だったからこそできた部分もあったのではないかなと。

マスブル監督 そうですね。実は僕たちも彼らのように、似ているようで全然違うところがある2人なんです。たとえば、彼女はアート学校でちゃんとイラストを学んできたバックグラウンドがありますが、僕はどちらかというと映画の編集や脚本を学んできたタイプ。なので、彼女がサンペで僕がゴシニっぽいと言えるのかもしれませんね。

そんなふうに僕たちは自分にはないものを相手が持っているので、お互いに補い合う関係。だからこそ、ストーリーテリングにしてもアートディレクションにしても、違う方向から持ち寄って作っていけたので、おかげですごく豊かなものになりました。しかも、男性と女性両方の視点を入れられたのもよかったと思います。

フルドン監督 確かに、だからこそ創作においてこれだけ野心的な作品にできたのかもしれません。なぜなら、この作品では『プチ・ニコラ』をアニメにするだけでなく、実在する2人の作者の世界と融合させることに挑んでいるからです。幸いにも私たちは同じ方向性に向いていたので、問題なく進めることができました。

制作の前に本人と会えたことは、本当にラッキーだった

―制作の過程では実際にサンペさんと会われたそうですが、印象的なやりとりやインスピレーションをもらった部分はありましたか?

フルドン監督 映画を作る前にご本人とお会いすることができたことは、本当にラッキーなことでした。実際に私たちが作った景色やキャラクターを見てもらい、彼からの承認を得たうえで作業に入れたので、そのおかげで絆も生まれたと感じています。彼からのOKサインをもらえたからこそ制作を進めることができたので、私たちは彼にオマージュを捧げる作品にしたいと強く思うようになりました。

マスブル監督 サンペは「僕のデッサンは音楽なんだ」と言っていたので、そこは映画にも生かしたいと考えました。アマチュアではありますが、彼もピアノを弾いていましたし、ジャズやクラシック音楽が大好きな人でしたから。そういう彼のスピリットを大切にしたかったので、音楽担当と相談をして劇中にジャズ・オーケストラの場面をあえて作ったりしています。

―そのあたりのこだわりも、ぜひ注目してもらいたいですね。では、来日をされてみて日本に対してどのような印象をお持ちかを教えてください。

フルドン監督 私は今回が初めてということもあって、来る前からワクワクしていました。特に日本の文化はフランスの文化とまったく違うので、いろんな発見や体験からインスピレーションをもらっています。

マスブル監督 僕は15年前に観光で15日間滞在したことがあり、東京、大阪、広島を訪れました。小さい頃から思春期、青年期まで『AKIRA』や今敏監督の作品をはじめとする日本のアニメをずっと見ていたので、その本拠地である日本にまた戻って来れたというのは非常に感動的なことです。あとは、細田守監督が大好きで、『おおかみこどもの雨と雪』や『未来のミライ』などに夢中になって見ていました。

日本のアニメ界も、次の世代にちゃんと受け継がれている

―ちなみに、いまの日本のアニメ界はどのようにご覧になっていますか?

マスブル監督 アメリカのコミックスが席巻しているようにも見えますが、映画業界においては日本のアニメ作品が非常に大きな部分を占めていると言えるのではないでしょうか。いまの日本のアニメ界は、本当にバラエティ豊かで、優秀な作家たちが多く存在していると思っています。

一時は、「スタジオジブリの宮崎駿監督のあとがいないのではないか」と危惧したこともありましたが、なんてことはない。すでに新しい世代にちゃんと受け継がれているんだなと感じます。

―日本の作品で影響を受けているものはありますか?

フルドン監督 アニメではないのですが、私は河瀨直美監督の『あん』。日本特有の感性というか、まるで時間が止まっているかのような独特な時間軸があっていいなと感じています。

幸せは待っていて手に入るものではない

―原題には、「幸せになるために何を待っている?」という副題が付けられていますが、おふたりが幸せになるためにしていることがあればお聞かせください。

マスブル監督 僕は「幸せというのは待っていて手に入るものではない」と考えているので、幸せは探しに行けなければいけないし、そうなるように努力も必要だと思っています。そして、重要なのはさまざまな経験をしたあとに、それを人とシェアすること。本作でもトラウマ的な幼少期を過ごしたサンペが見事に回復した様子を描いていますが、その経験を共有することでそこに幸せが生まれるのです。そういう部分がユニバーサルなメッセージとなって人々に届けばいいなと考えています。

フルドン監督 サンペとゴシニの2人は、紛れもなく天才的なアーティストでしたが、その裏には本当に膨大な努力と忍耐があったと感じています。だからこそ、彼らが勝ち取った幸せというのは、彼らにふさわしいものなのです。言い換えれば、「いまがつらくてもそれを乗り越えさえすれば幸せに到達できるんだ」ということ。いまは私もそんなふうに思っています。

―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。

フルドン監督 この作品には悲しい部分も少しありますが、それよりも気持ちが明るくなるはずなので、映画館を出たときに笑顔になっていただけたらいいなと。きっといい時間を過ごしていただけると思うので、映画のなかで聴いた音楽を口ずさんだり、陽気な気分を味わったりしていただきたいです。

マスブル監督 観客のみなさんには、ぜひポジティブなところを感じてもらいたいなと願っています。特に、いまはコロナ禍がようやく明けてきたところで、改めて人のありがたみを実感しているところではないかなと思うので。私たちは、太陽のような温かさと輝きを届けたいと考えていたので、みなさんにはそれを受け取っていただき、心が温かくなるのを感じていただけたらうれしいです。

子どもから大人まで、誰もが好きにならずにいられない!

思わず笑みがこぼれる『プチ・ニコラ』の世界観に没頭できるとともに、作家たちの隠された苦悩にも心が動かされる本作。繊細で優しいタッチにぬくもりを感じながら、懐かしさも込み上げてくる珠玉の1本です。

取材、文・志村昌美

温かさに包まれた予告編はこちら!

作品情報

『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』
6月9日(金) 新宿武蔵野館、ユーロスペース他全国順次公開
配給:オープンセサミ、フルモテルモ

️(C)2022 Onyx Films – Bidibul Productions – Rectangle Productions – Chapter 2

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