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「テレビはオワコン」それでも…もがく5年目記者が思う「テレビならでは」の価値とは

  • 2023.6.8

地方放送記者、5年目の日々

きょうもあっという間だったな」。仕事を終えて帰途に就く時、そう感じる日々です。
私は北海道放送(HBC)で放送記者として5年目を迎え、主に札幌市政を担当しています。同時に、政治以外でも関心を持ったテーマで企画取材をしたり、テレビの放送だけではなく、デジタル配信用の記事も出稿しています。また2週間に1度、泊り勤務もします。

なかなかハードな日々ですが、一人ぼっちで仕事を抱えているわけではありません。原稿などをチェックしたり、取材の相談に乗ってくれたりする(時には、お叱りもいただく)デスクやキャップと呼ばれる先輩がいます。取材時には撮影担当や音声担当、編集担当の先輩や同僚と常にチームワークで動きます。時間に追われたり、予定通り事が進まなかったりなど、大変なことも多いですが、切磋琢磨する仲間がいる放送記者の仕事は、面白い!と感じています。

「相手のことを簡単に分かったと言うな」

Sitakke
(取材時のカメラ)

学生時代にインタビュー調査をすることがありました。その時、指導教官から「相手のことを簡単にわかったと言うな」とよく諭されました。調査を受けてくれる方には、数回の関わりでは把握しきれない様々なバックグラウンドがあって、そこには社会の構造や歴史が深く関わっているからで、指導教官は「30年以上研究しているが、それでもわからないことがたくさんある」と話してくれました。この考えが私の仕事のベースとなり、相手と向き合う理想の形としているところです。

しかし現実は、そうはいきません。テレビで放送する当事者や関係者の生の言葉は、一朝一夕で取材できるわけではありません。LGBTQの当事者の取材に関わって、心は男性、身体は女性のトランスジェンダー男性の妊娠をきっかけに「性別」を考える番組を制作したことがありました。その時、当事者が経験した辛い過去や、今の本音を聴くインタビューには何時間もかかりました。それでも放送で紹介できる生の声は、ほんの一言か二言だけです。長期にわたる取材では相手とすれ違うことも多々ありますが、私に向き合ってくれることに、伝え手としての責任を感じるようになりました。

感情や思いを流暢な言葉で伝えるよりも、沈黙やちょっとした表情から読み取ることができる映像情報は、テレビならではの伝達方法です。それらは取材者が狙っても必ずしも撮ることができないもので、相手との関係や時間の流れの中で突然訪れます。その瞬間に、私やカメラがどれだけいることができるか…考え続けています。

「家にテレビ無いんだ、ごめん」

Sitakke
(編集作業)

「有名人に会った?」「取材はどうやってするの?」。私の仕事に興味を持ってくれる人がたくさんいます。その一方で、友人からは「あまりテレビ観ないんだよね」「家にテレビ無いんだ、ごめんね」と言われることもあります。

テレビは観られていないという前提を、私もどこかで持ちながら仕事をしている面があります。HBCはテレビ以外でもデジタル配信をして、Yahoo!ニュースやLINEニュース、YouTube、Twitter、Instagramなど様々な媒体で情報を発信していますが、まだまだ周知されていないようです。それでもテレビの視聴率やデジタル配信の再生回数は、自分が発した情報の到達度合いの一つの目安ですから、気になります。

その数字を下支えしているのは、HBCという地方の放送局がこれまでに積み上げてきた一人一人の視聴者や取材協力者との信頼関係だと感じています。例えテレビという媒体の需要が低下しても、その事実は残り続け、保ち続けたいと思っています。

映像の価値をもっと知りたい

「テレビ見てない」「テレビはオワコン」と言われても、テレビの中でテレビをつくっている人たちの真剣さを、私は5年間見て来ました。誰か一人にでも「ありがとう」と思ってもらえたら、それで十分という気持ちです。

だからこそ、テレビという媒体が世の中の生活習慣にマッチしなくなって来ているとしたら、どうすべきなのか…。

マスメディアとしての波及力や制作力の底力を絶やしたくありません。記者やディレクターだけではなく、デスク+撮影担当者+音声担当者+編集担当者+字幕担当者+アナウンサー+スタジオスタッフ…ほか大勢のスタッフと、何よりも取材対象者とチームワークを組んで出来上がる「映像情報」の価値を、考え続けて来ました。

Sitakke
(映画監督・是枝裕和さん/HBCにて・2022年11月)

そんな折、映画やテレビで話題作品を作り続けている是枝裕和監督の話を聴く機会がありました。

デイリーのテレビ取材とは違う立場で映像に関わり、社会にメッセージを発信している是枝監督は、喜びや悲しみ、怒り、葛藤をどのように捉えているのでしょうか?私との共通点はあるのでしょうか?是枝監督の話をみなさんと共有して、映像を送り出す側の葛藤とメッセージを一緒に考えさせていただければと思います。

【次回:「居ないことにされている人たちに光を」是枝監督が思う“映画の役割”と、“テレビの今”】

・是枝裕和監督
最新作品「怪物」(監督・是枝裕和、脚本・坂元裕二、音楽・坂本龍一)は、5月にフランスで行われた第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞。6月2日から全国公開。

文:HBC報道部 泉優紀子
札幌生まれの札幌育ち。記者歴5年。テレビでの発信のほか、Sitakkeでも「こころが男性どうし」のふうふと2人の間に宿った新しい命を見つめる連載「忘れないよ、ありがとう」や、小児がんの子どもとその家族を支える団体の取材記事などを執筆。

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