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「テレビを持っていない」友人が増える中…5年目記者が「是枝監督」のメッセージから感じたこと

  • 2023.6.8

私は北海道放送(HBC)で入社5年目を迎えた放送記者です。「テレビ見てない」「テレビはオワコン」と言われても、スタッフや取材対象者とチームワークを組んで出来上がる「映像情報」の価値を、考え続けています。

Sitakke
(取材中の私(左))

そんな折、映画やテレビで話題作品を作り続けている是枝裕和監督の話を聴く機会がありました。デイリーのテレビ取材とは違う立場で映像に関わり、社会にメッセージを発信している是枝監督は、喜びや悲しみ、怒り、葛藤をどのように捉えているのでしょうか?私との共通点はあるのでしょうか?是枝監督の話をみなさんと共有して、映像を送り出す側の葛藤とメッセージを一緒に考えさせていただければと思い、この連載を発信しています。

1回目の記事では、記者としての5年間で感じてきたテレビならではの価値について、2回目の記事では、HBCの社内セミナーで是枝監督が語った、テレビや映画制作に関わる視点と葛藤をお届けしましたが、今回は、セミナー後の質疑で印象に残った言葉をお届けします。

セミナーは是枝監督が私の先輩の山﨑裕侍記者と対談する形で行われました。その一部抜粋です。

Sitakke
HBC社内セミナー「制作者たちへのメッセージ~是枝裕和監督からのエール」(2022年11月5日/HBC本社)

自分の中にルールを作らないと排除されて終わる

Sitakke
(私・泉優紀子)

(私)社会を見つめる視点は、どういう場面を通じて培われたのですか?

(是枝)自分の中で、あるレベルで芽生えたのはドキュメンタリーを撮り始めてからです。すごく危険ですよね。日本の特殊なところは専門的な知識を持たず、ちゃんと学ばずに放送の現場に放り込まれて、現場で学んでいくというのが、とても特徴的だと思います。海外では大体、そうはなってないので。いろんな専門的なことをみんな学んだ上で、現場に立つと思うんですけれど…。(中略)こうした現状は危険だと思ったので、学ばなければならないと思ったことは確かです。それは『しかし…~福祉切り捨ての時代に~』(1991年・フジテレビ「NONFIX」/ギャラクシー賞優秀賞)という、自分が1本目に作ったドキュメンタリーで学んだことがスタートだと思います。そこまでは、ちゃんと学んでないと思います(中略)

*『しかし…~福祉切り捨ての時代に~』は、環境庁の官僚が自死に至った背景を通して、福祉行政の現実を見つめるテレビドキュメンタリー。

Sitakke
(映画監督・是枝裕和さん)

(是枝)その取材で、環境庁の広報課に直接行ったんですよね。バカなふりをして。まぁ当時はバカだったと思うんですけど(笑)。そしたら、はっきりと広報課の人に「あなたは“放送局の人間”ではないから、一制作会社のディレクターの取材を受ける義務は、私たちにはない」と言われたんですよ。それで、なるほどと思って…。そういう関係の中で、取材する義務とか権利とかというものの外側で、僕は番組を作らなければいけないのだと思った。じゃあ、自分が社会的な題材に関係する形で番組を作っていく時に、何か別の動機が必要になって来るということを、ちゃんと自分の中にルールとして作らないと、排除されて終わると思ったんですよね。
その辺りで多分、少し勉強したんだと思います。放送に関わるとは、どういうことなのかみたいなことを。別に答えが出たわけではないんですけれども。それが28歳です。それまではずっと、本当にいまの若い子と大して変わんない(笑)。今、「テレビやりたい」「映像に関わりたい」とやって来る20代の男性に、ちゃんと大人の目を見られない子が多いんです。当時の自分はまさにそうだったと思います。だから番組作りを通して、社会的な視点とか社会との関わり方を学んだと思います。

自分に欠けている能力をスタッフで補う

Sitakke
(大内孝哉カメラマン)

(大内) 私は、取材対象者に近づき過ぎるのはよくないと思って、一線を引く部分もあります。是枝さんがディレクターという立場で、ドキュメンタリーを作る時、カメラマンに越えてほしくない一線はありますか?

Sitakke
(編集作業)

(是枝)僕は逆に“仲良くなれないタイプ”だったんですよ。それはアシスタントディレクターの頃から、スタッフとも仲良くなれないタイプだったから(笑)。人付き合いが苦手で お酒を好んで飲まないということもあって“飲みに行くぞ”と言われると、大体“うわぁ…”ていう、“えっ!?また自慢話を聞かされるのは嫌だなぁ”みたいな。家に帰ってビデオを見たいなというタイプだったから、自分が行くことで、その場の温度が何度か下がるみたいな感覚があって(笑)。“お前、来なくていいや”ってなるんだよね。仕事を始めて、3年目ぐらいまでは、ずっとそうだったから、ラッキーと思って行かなかったんですよ。でも、それは決して自分の周りにいる人間の問題ではなくて、自分が周りの人間と、どういう距離感で関わって来たかという、自分のそういうものが全部出ているので…。現場にも。それは作品にも出てるんだよね。(中略)
自分なりの距離感でモノを作るのでいいんだ…と、どこかで開き直ったところがあって。そうはいっても信頼関係を築かなければいけないから、誠意は尽くして関係は培いますけれども。その後は、僕よりもずっとおしゃべりで、相手との距離感が近いカメラマンと組むようになりました。しゃべってくれる人。そこで自分に欠けている能力をスタッフで補うという卑怯な手を、20代30代は使いましたね(笑)。

失敗したことからしか学べない

Sitakke
(映画監督・是枝裕和さん)

(是枝)(失敗談を語った後で…)失敗したことからしか学べませんね。“成功したことは忘れないといけない”と思っています。失敗したことの方が、やっぱり学びが多いと思います。(中略)地方局に元気な、きちんといいモノを作る人たちがいるということが、放送界にとっては、とても重要であるというのは、今でもその通りだと思っています。僕が話したことが、何か少しでもプラスになるとうれしいなと思って、きょうお話をさせていただきました。頑張ってください。ありがとうございました。

・・・・・・・・・

テレビはある意味では、放送が終わればゴールです。しかし放送が終わっても、取材を受けてくれた人たちの環境はすぐには変わりません。取材をして、番組として取り上げたいと思う気持ちがいくら立派でも、放送が終わって満足するなら、それは単に番組をつくりたかっただけ。「思い続ける」「つくり続ける」ことが、制作者としての誠意と私は改めて感じました。

映像コンテンツの制作や配信がインターネット上でどんどん展開され、「テレビを持っていない」友人も増えていく中で、放送業界が、特に地方局が求められていることは何だろう…と閉塞感を覚えることもあります。そうした中でもスタッフは毎日、テレビの放送に向けた作業に加えて、デジタルでの配信作業も模索しながら続けています。是枝監督との時間に、前を見続けることのヒントを得た思いです。

・是枝裕和監督
最新作品「怪物」(監督・是枝裕和、脚本・坂元裕二、音楽・坂本龍一)は、5月にフランスで行われた第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞。6月2日から全国公開。

文:HBC報道部 泉優紀子
札幌生まれの札幌育ち。記者歴5年。テレビでの発信のほか、Sitakkeでも「こころが男性どうし」のふうふと2人の間に宿った新しい命を見つめる連載「忘れないよ、ありがとう」や、小児がんの子どもとその家族を支える団体の取材記事などを執筆。

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