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【アイヌ文化に触れる宿】北海道の静かな湖畔でモール温泉に癒やされる「界 ポロト」|星野リゾート宿泊記

  • 2023.6.5

星野リゾートが全国に展開する温泉旅館ブランド「界」。今回は、「ウポポイ(民族共生象徴空間)」でも注目を集める北海道・白老町のポロト湖畔に佇む「界 ポロト」を現地ルポ。2022年1月に開業したこちらのお宿は、ポロト湖畔の美しい光景と、世界的にも珍しい「モール温泉」が楽しめるのが最大の特徴。アイヌ民族の生活に着想を得た建築やインテリア、食事、アメニティまで詳しく紹介します。

 

2022年1月に開業したばかり!静かな湖畔に佇む「界 ポロト」

界 ポロトが位置するのは、新千歳空港から車で40分ほどの距離にある北海道白老町。アイヌ語で「大きい湖」という意味を持つポロト湖や樽前山(たるまえさん)を目の前に望め、約80種の野鳥をはじめエゾ鹿やキタキツネなど、数多くの野生動物たちも暮らす自然豊かな場所であり、「ウポポイ」に隣接したアイヌ文化伝承の地。

アイヌ民族の暮らしに着想を得た建築やインテリアに囲まれながら、旬の食材をふんだんに使用した料理や体験プログラムなどを通じて、雄大な自然と共に生きるアイヌ民族の文化が自然と学べる温泉宿でもあるんです。

NAP建築設計事務所の中村拓志さんが手がける自然と調和した建築空間に身を置いていると、好奇心が刺激されてワクワクするのと同時に、スーッと肩の力が抜けていくのがわかります。

火のカムイ(神様)を敬う「コタン(アイヌ語で集落の意味)の広場」と呼ばれる暖炉の前のソファや、白樺の丸太が設えられたトラベルライブラリーのソファに座わって外を眺めると、ポロト湖の懐にやさしく包まれているかのよう。

宿のスタッフたちはコタンの案内人として、宿を訪れた人々にアイヌ文化伝承の地である白老の自然や文化を紹介してくれます。

アイヌ民族の文化や暮らしから着想を得た建築様式やアートが随所に

館内のいたるところやエレベーター前にはアイヌ伝統のゴザをモチーフにしたアート作品が飾られていて、曲線を取り入れた客室フロアの廊下からも独特の雰囲気が漂います。

今回、宿泊するのは414号の特別室。ルームナンバーのデザイン一つ取っても、「光と陰」で表現されていて目を引きます。

ポロト湖の眺望が独り占めできる露天風呂付き特別室「□の間」

全客室がポロト湖に面しているとは聞いていたものの、全42室ある客室のうち、3室のみの特別室に足を踏み入れた途端に目に飛び込んできた露天風呂と広々としたテラス、そして素晴らしい眺望に、思わず感嘆の声が漏れました。

全ての客室にアイヌ民族が暮らす家(チセ)にある四角い「炉」をイメージしたテーブルが備えられていることから、「□の間(しかくのま)」と名付けられたそう。テーブル下のダイヤルで明るさが調節できるようになっているので、夕暮れ時や夜明けに間接照明として使用すると、より一層「炉」の雰囲気が感じられます。

窓の外にはポロト湖と白樺やカエデが繁る天然林が広がり、晴れていれば四季折々の樽前山の姿も目にすることができます。

幾何学的なアイヌ文様の刺繍が施されたクッションや壁紙などからも、天然素材を生かした温かみのある、かつデザイン性の高い生活雑貨が、アイヌの人たちの暮らしを彩っていたことが伝わってきます。アイヌの民族衣装に使われる、樹皮の繊維のアートは特別室専用です。

壁紙のデザインやクッションの刺繍を手掛けているのは、アイヌ服飾文様研究家の第一者であり刺繍家の津田命子(のぶこ)さん。

©Hoshino Resorts Inc.

別のタイプの部屋にあつらえらえた、木彫り作家の岡田実さんの彫刻作品「木彫りのオール」の美しさにも目を奪われました。

「美肌の湯」! 北海道遺産の「モール温泉」と充実のアメニティ

「界」オリジナルの風呂敷に、作務衣と足袋ソックスも。滞在中はずっと作務衣姿で温泉三昧できて快適です。客室のアメニティについての詳細は公式サイトで確認できます。

「界」の風呂敷で作ったバッグに湯道具を包んで、いざ大浴場へ。まずは中庭を抜けて「とんがり屋根」が目印の「△湯(さんかくのゆ)」に向かいます。

とんがり屋根が目印 ポロト湖にせりだした開放感溢れる「△湯」

まずは「界」お馴染みの「温泉いろは」で、宿の“湯守り”であるスタッフから白老温泉の歴史や泉質について学びます。その名の通り、あらゆるところに三角形が組み込まれた「△湯」は、「ケトゥンニ」と呼ばれる三本の丸太を組み合わせたアイヌの建築様式から着想を得て建てられた、界 ポロトを象徴するとんがり屋根の湯小屋。

北海道遺産のひとつでもある「モール温泉」と呼ばれる珍しい泉質は、太古の植物由来の有機物を含んだ茶褐色のお湯が特長で、アルカリ性のため古い角質を落として肌の新陳代謝を促してくれる効果もあります。

脱衣所には客室と同様にスキンケアセット(クレンジング、洗顔ソープ、化粧水、乳液、ボディローション、ハンドソープ)がそろっていて、バスタオルやブラシ、コットン、綿棒、シャワーキャップ、カミソリも用意されているので手ぶらでOK。

©Hoshino Resorts Inc.

内湯の手前には源泉かけ流しの「あつ湯」がありますが、まずは奥の「ぬる湯」にしばらく浸かったあと、探検気分で湯船の中を歩き、さらに奥のほうへと移動。すると想像していた以上に幻想的な光景が、目の前に広がりました。

©Hoshino Resorts Inc.

一瞬「ポロト湖の上に出てきてしまったのでは……?」と思うほど開放的な露天風呂が目の前に現れて驚きましたが、耳を澄まさずとも聴こえる野鳥のさえずりと化粧水のようにしっとりしたお湯に身も心も癒やされます。「モール温泉」が「美肌の湯」といわれるのも納得です。

大きな三角のガラス窓が印象的な湯上がり処には、「イタドリ茶とほうじ茶のブレンドティー」と「カシス酢」のフリーサーバーのほか、アイスキャンディも用意されています。

冷たい飲み物やアイスを口にしながらぼーっと湖面を見つめるうちに日常の些末な事柄から解き放たれるかのようで、まさに「界」が“現代湯治”を謳う場であることを実感させられました。

夕食は、落ち着いた雰囲気の半個室のお食事処へ。

毛蟹&帆立に白老牛も! 遊び心のある器で北海道の美食を堪能

サッポロビールと悩みましたが、<特別会席コース>をいただくこともあり、道内の酒蔵からセレクトした「日本酒三種飲み比べ」をオーダー。

左から順番に、「えぞ乃熊 純米」(髙砂酒造)、「北の錦 純米大吟醸 冬花火」(小林酒造)、「北力 生酛純米」(二世古酒造)。なかでも「えぞ乃熊」はフルーティーで飲みやすく、どんなお料理にもあわせやすい印象。「北力」は熱燗、ぬる燗、冷で楽しめるそう。

じゃがいものすり流しにいくらとキャビアをのせた先付「馬鈴薯海宝盛り」は、アイヌ民族から「山の神」と親しまれているクマが運んで来てくれました。白老の「輪果窯」で一つ一つ手作りされたクマの陶器底の部分に隠されている山わさびをすくって一緒に混ぜていただくと、風味豊かな山わさびの香りが鼻の奥にツンと広がり、大人のビシソワーズのよう。

続く「煮物椀」は、海老を詰めた桜餅の上に蚕豆(そらまめ)のかき揚げと桜の花がのり、手前にはひらひらと花びら茸が舞っています。なんとも美しい色合いの一品ですよね。上品かつ複雑な味わいが楽しめます。

なまこぽん酢と、五色饅頭屋やサーモン棒寿司、合鴨ロース苺巻きなどから成る八寸に、ボタン海老やニジマス、マツカワガレイのお造りや、小さくて美しい器に入ったウニなどを一緒に盛り合わせた華やかな「宝楽盛り」は、アイヌ民族が交易の際に使用していた丸木舟をモチーフとした船形の器で登場。

ニジマスが船頭する丸木舟に乗って、ご馳走がポロト湖から流れ着いたかのようなニクイ演出に感激してしまいました。(写真は2名分です)

ちなみに、フクロウやクマ、エゾリスなどが船頭を務める船もあるのだそう。どんな動物が船頭してくれるのか気になりますね。

こちらは、先付のクマと同じく「輪果窯」の器にアイヌの文様がデザインされた蓋物。フタを開けると北海道近海で獲れたキンキの酒蒸しが。

日本最北端の酒蔵で作った日本酒「国稀(くにまれ)」と昆布のみで蒸しあげた、素材の味を最大に生かしたまさに“シンプルisベスト”の極み。温かみのある器にも、とてもマッチしています。

続いて登場したのは、「牛と季節野菜の陶板焼き」。地元名産である「白老牛」を、昆布醤油と山わさびにつけてお好みの焼き加減でいただきます。

ここにも「火のカムイ」が宿っているかのよう。暮れなずむポロト湖をバックに、焼き上がりを待つひとときも乙なものです。

©Hoshino Resorts Inc.

特別会席のメインディッシュは、魚介を煮込んで裏ごしした濃厚なブイヤベーススープに、北海道を代表する食材である毛蟹や帆立貝、鮭などを、ふんだんに加えた「醍醐鍋(だいごなべ)」。味噌と昆布の出汁や毛蟹の旨味を存分に味わうことができる、超贅沢な一品です。(写真は2名分です)

毛蟹というと冬の風物詩のイメージがありますが、北海道では一年を通して各地で水揚げされているので、いつの時季に訪れてもこちらの味覚が楽しめます。「これでもか!」と言わんばかりにたっぷり入った甘い毛蟹のほぐし身と、プリップリの帆立がたまりません!

〆は、スープを浸み込みやすくするため水で洗ったお米を入れて雑炊に。お好みでパルメザンチーズを入れたら、北海道の幸が詰まった“和洋折衷の絶品リゾット”が完成。「お腹いっぱい……」と思いながらも後を引き、つい何杯もおかわりしてしまいました。

デザートは、銀色のバケツに入った「北のブランマンジェ」。真っ白なミルクプリンが持つ破壊力の大きさに、酪農が盛んな北の大地を訪れていることを思い知らされます。お好みで甘酸っぱいハスカップとラベンダーのソースをかけると、一気に爽やかに。味変も楽しめますよ。

クマが運ぶ先付けや丸木舟に乗った「宝楽盛り」、バケツ入りデザートなど、遊び心に溢れた素晴らしい特別会席に夢中で舌鼓を打っていると、窓の外はすっかり夜の帳が下り、ガラス張りの館内も幻想的な空間に。北海道の幸を目と舌で心ゆくまで堪能させていただきました!

暖炉を囲んでアイヌ伝統歌「ウポポ」を共に歌い、語らうひととき

夕食後は、アイヌ民族の口承文芸に触れるべく、館内の「コタンの広場」で開催される界 ポロトのオリジナルプログラム「手業のひととき」へ。

生活の中で歴史や文化を歌や語りで次の世代に語り継いできたアイヌの人々と同じように、火を囲みながら祝いや祭りなどの場で「カムイ(神様)」を楽しませるために歌ったという「ウポポ」を参加者みんなで一緒に歌い、共に語らうことで、アイヌ文化を肌で感じる「アイヌ伝統歌『ウポポ』を奏でるひととき」という素晴らしい企画です。

講師を担当された高橋志保子さん(※本名は旧字体)は、長年にわたってアイヌ文化の実践普及業務に携わられていらっしゃる方で、白老地区でもっとも優れた「ウポポ」の伝承者。『ポロトコタン最後の一日』という、旧アイヌ民族博物館の閉館日を追ったドキュメンタリー映像にも出演されています。

アイヌの伝統的な衣裳を身に纏い、歌や楽器の演奏とともに、アイヌ民族の暮らしや文化について、わかりやすく解説してくださいました。志保子さんいわく、魔除けのために植物のトゲを表すデザインが刺繍されているのがアイヌの着物の特長で、地域によって背中の文様が大きく異なるのだそう。ここ道南地方の着物には「ルウンペ(道)」というデザインが施されています。

揺れる炎を見つめ、志保子さんの奏でるアイヌの楽器ムックリの「ビヨ~ンビヨ~ン」という不思議な音色と歌声に誘われ、アイヌの伝承歌を一緒に口ずさみながら、コタンの暮らしに想いを馳せました。

「アイヌ伝統歌『ウポポ』を奏でるひととき」

期間:2023年4月1日~2024年2月29日の土日

時間:20:00~21:00

場所:界 ポロト 暖炉

料金:1名6,000円(税込、宿泊費別)

定員:1日3組まで(1組2名より催行)

※界 ポロト公式サイトにて1週間前までに要予約

©Hoshino Resorts Inc.

「界」がオリジナルで開発したベッド「ふわくもスリープ」でぐっすり眠れたおかげで、目覚ましを掛けなくても普段よりかなり早く目が覚めたので、部屋専用の露天風呂を楽しむことに。

専用露天風呂と洞窟のような神秘的な「〇湯」で朝風呂三昧

ポロト湖を独り占めしながらの朝風呂はたまりません。自動のブラインドが付いているので、好みで調整することも可能です。

毎朝7時にロビーで行われる「丹頂鶴の羽ばたき体操」にも参加してみました。丹頂鶴をイメージした動きで首や肩を伸ばしていくゆったりしたストレッチ体操で、身体のこわばりを解消。

じっとり汗をかいたので、そのまま大浴場「〇の湯」で、もうひとっ風呂浴びることに。バスタオルやアメニティが備え付けのなので、気が向いたときにいつでも手ぶらでお風呂に入れるのはありがたいですね。

©Hoshino Resorts Inc.

「〇湯」は、地中から湧き出るモール温泉をイメージしたという、ドーム型のお風呂。外界とつながる天井の丸い穴から光が差し込み、まるで洞窟に迷い込んだかのよう。湯に浸かり、湯面に映し出された天井をじっと見つめていると、深い穴のようにも見えてくる(!?)、深淵をのぞき込むかのような体験もできる、神秘的なお風呂でした。

ちなみに「〇湯」は宿泊者以外も利用できる施設のため、セキュリティ対策として館内に戻る際には、ルームキーをかざす必要があります。手ぶらでOKと言えども、ルームキーだけはくれぐれもお忘れなく!

アイヌの主食「オハウ」をイメージした鍋料理と和食膳の朝ごはん

朝食は、アイヌ民族の主食である「オハウ」と呼ばれる鍋料理から着想を得た、「鮭とじゃがいものすり流し鍋」を中心とした和食膳。

鮭はアイヌ民族にとって冬を越すための貴重な食材で、「カムイチェプ(神の魚)」と呼ばれて大事にされていたそう。荒波にもまれてキズがついた昆布を細切りにして付け込んだという「yayan昆布醤油」も、昆布のうまみがしっかりと感じられて、とてもおいしかったです。

アイヌの文化や暮らしを肌で感じ、独特の自然観から学べる体験も

朝食の後は、地域の伝統や文化を体験できる「界」の人気プログラム「ご当地楽」に参加して、アイヌ民族が魔除けとして日常的に身に着けていたという、「イケマ」を使ったお守りづくりに挑戦。

「イケマ」とは、土のような独特な香りがする蔓性植物。あらゆるものにカムイ神様が宿っていると考えるアイヌ民族にとってイケマは、悪いものを遠ざけてくれる魔除けの効果があるとされているそう。スタッフの方が手に持っているのがイケマの根っこの部分です。

©Hoshino Resorts Inc.

イケマの根っこを砕いた粒と3種類のハーブ(カレンデュラ、コーンフラワー、白樺の葉)をアイヌ文様がプリントされたパラフィン紙で包み、モール温泉といたどり茶でほんのり茶色に染めあげた紐で封を閉じれば、「イケマと花香の魔除け」の完成です。

アイヌ文化に親しみながら自分だけのオリジナルのお守りを作れるだけでなく、界オリジナルの風呂敷と共に、旅の記念品として持ち帰ることができます。

ショップには地元のお菓子屋や木彫りの熊などのアイヌ民族の伝統工芸品のほか、ウェルカムドリンクとして提供された「エント茶」や「イタドリ茶」など、界 ポロトオリジナルのパッケージに入った商品もたくさん並びます。

筆者はウェルカムスイーツとして部屋で味わった、風味豊かなクッキーでホワイトチョコレートとハスカップのクリームをサンドしたお菓子「イヨマンテ」(5袋入り/税込1,000円)を、お土産用に購入。

ちなみに、「イヨマンテ」とはアイヌ語で「イ(それを)・オマンテ(返す)」という意味で、クマの魂を神の国へ送り返すアイヌ民族のお祭りのこと。

トラベルライブラリーで読んだ絵本「イオマンテ」にも、その儀式を巡るお話が綴られていました。

宿の横には、東京ドーム2個分の広さを誇る「ウポポイ(民族共生象徴空間)」と、国立アイヌ民族博物館が隣接しています。専用ゲートもあるので、滞在中にアイヌ民族の文化や暮らしに触れて興味を惹かれた人は、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。「アイヌについて詳しく知りたい」と感じた<コタンの住人>の知識欲を叶えてくれます。アイヌ文化伝承人の高橋志保子さんにもきっと会えるはず。

アイヌ民族の文化伝承の地である白老町とパートナーシップ協定を結び、「アイヌ文化を尊重し、異なる民族との共生を体感できるような温泉旅館を目指した」という「界ポロト」。ポロト湖畔で「美肌の湯」に浸かり、アイヌの文化にも触れられる、貴重な旅になりました。

界 ポロト

住所:北海道白老郡白老町若草町1-1018-94

アクセス:白老駅より徒歩10分/新千歳空港より車で約40分

料金:1泊31,000円〜(2名1室利用時1名あたり、サービス料込、税込、夕朝食付)

予約:050-3134-8092(界予約センター9:30〜18:00)

[Photos by Reico WATANABE]

 

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