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「優先順位をやや上げてください」と言ってはいけない…仕事ができない人ほど多用する10の「副詞」

  • 2023.6.5

「だいたい」「若干」など程度を表す副詞は、ビジネスメールでよく使う便利な表現だ。しかし、国立国語研究所教授の石黒圭さんは「程度副詞を安易に使うと、どうしても聞く人によって解釈にズレが生じやすい。それによって、事実の正確さが損なわれたり、指示が的確に伝わらなかったりする」という――。

※本稿は、石黒圭『コミュ力は「副詞」で決まる』(光文社新書)の一部を再編集したものです

メールを送信する人
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程度副詞は話し言葉と書き言葉でまったく違う

程度副詞の典型といえば「とても」であり、英語で「very」が出てきたら「とても」と訳す約束になっています。しかし、「とても」ばかりが使われているわけではありません。日本人が毎日交わしている日常会話を記録した『日本語日常会話コーパス』によれば、「とても」よりもはるかに多く出現する程度副詞がいくつもあります。「とても」よりもメジャーな程度副詞、いったいどんなものがあるのでしょうか。

程度副詞でもっとも多いのは「けっこう」です。話し手の感覚よりもずっと多いことを表す副詞で、「思った以上に」というニュアンスを含みます。口癖になっている人も少なくないでしょう。「けっこう」は日常会話の副詞ランキングの9位に入ります。

次に多いのが「めっちゃ」です。『日本語日常会話コーパス』では「めちゃ」と表記されており、副詞ランキングは21位です。関西弁由来と見られ、20年以上も続いた長寿番組「めちゃイケ」などの影響で全国区となりました。その次は「だいぶ」で、副詞ランキングは42位、さらに、副詞ランキング50位の「かなり」、同59位の「ずいぶん」、同64位の「めちゃくちゃ」が続きます。意外なことに、そのあとにようやく「とても」が出てきます。日常会話の副詞ランキングは68位です。

学術論文では副詞を使わないように指導されるほど

このように、話し言葉ではさまざまな程度副詞がたくさん使われているのですが、書き言葉では控えめな使用が勧められます。とくに、学術論文では副詞はできるだけ使わないように指導されます。

2023年度の調査によれば、16~19歳の若者で、1日30分以上テレビを見る人の割合はかなり少ない。

「かなり少ない」と言われても、人によって抱く数値は異なります。かつては9割を超える若者が見ていたという印象を持つ人は、50%でも「かなり少ない」と感じるでしょうし、最近はYouTubeやTikTokの影響で減少傾向にあると感じている人は、20%程度で初めて「かなり少ない」と感じるかもしれません。

学術論文ではきちんと調べて具体的な数値を正確に書く必要があり、程度副詞をはじめとする副詞の使用による主観の混入を避けるように厳しく指導されます。

副詞「けっこう」を使うと解釈にズレが生じる

もちろん、学術論文のように厳しいジャンルはまれであり、普通に書くときに程度副詞を使っていけないわけではありません。程度副詞は、実感を込めて程度の甚だしさを伝えられ、読み手の共感を得やすい表現です。ただ、程度副詞を使うと、どうしても、読み手によって解釈にズレが生じやすいこと、書き手の主観を一方的に押しつけがちなことは、理解して使う必要があります。

そうした解釈のズレがとりわけ問題になりやすいのは、ビジネス文書です。ビジネス文書で、使うと理解に支障をきたしやすい副詞にはどんなものがあるでしょうか。

グラフを見せながら説明するビジネスパーソン
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「だいたい」と言われると、正確な数字が知りたくなる

ビジネス文書で使わないほうがよい副詞の第一は、「だいたい」「おおむね」「あらかた」など、大雑把な把握を示す副詞です。

エントリーシートはだいたい400字以内で記入してください。

採用者はなぜ「だいたい」と書いたのでしょうか。正確に400字以内でなくても目をつぶるつもりなのかもしれませんし、充実した内容であれば400字を超えてもかまわないという積極的な意味かもしれません。しかし、応募者は採用者の意図がわからないので、どう書いてよいか戸惑います。「だいたい」はないほうが無用の混乱を避けられます。

プロジェクトの進行はおおむね順調です。

「おおむね」という副詞も、報告された側としては気になる表現で、「おおむね」とわざわざ入れた背景が知りたくなりそうです。些細なものであるとしても、何か問題があるのなら、それも添えて示したほうがよいでしょう。

至急で依頼された書類はあらかた完成しました。

「あらかた」も、100%ではないので、あなたが上司の立場であれば、完成度が何%ぐらいなのか、未完成の部分はどんな内容なのかがきっと気になるでしょう。副詞を入れる場合は、なぜその副詞をあえて入れるのか、その理由も合わせて示すことが求められます。

「ある程度」の超過勤務はサービス残業の温床になる

ビジネス文書で避けたい副詞の第二は、「相当」「そこそこ」「ある程度」のような、中途半端な程度を示す副詞です。

円安の進行と原材料価格の高騰により、コストが相当高くなることが予想されます。

未来のことは誰にもわからないので、将来的なコストの予想は難しいのですが、「相当」では情報提供になっていません。「三割から四割程度」のように数値の目安を入れるように努力する必要はあるでしょう。

給与はそこそこお出しできると思います。

ヘッドハンティングにあったとき「給与はそこそこ」と言われたら、その会社に移りたいと思うでしょうか。転職には自分と家族の生活がかかっており、かなりの覚悟が必要です。具体的な金額を示さずに「そこそこ」と言われると、言われた側は疑心暗鬼になるかもしれません。具体的な金額を示す必要がありそうです。

業務上必要であれば、超過勤務はある程度認めるようにしています。

超過勤務は会社にとってはコストがかかりますので、できれば抑制したいものかもしれません。しかし、「ある程度」と言われると、どこまでが認められて、どこからが認められないかがあいまいです。業務過多のなか、仕事を終わらせようと残業をしたとしても、それが認められずにサービス残業になる危険性を「ある程度」ははらんでいます。超過勤務が必要になるレベルの業務量があるのならば、「ある程度」の基準を明確にすることが求められるでしょう。

オフィスの机に突っ伏して寝ている女性
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「やや」「若干」「多少」もビジネスでは避けるべき

ビジネス文書で避けたい副詞の第三は、「やや」「若干」「多少」「こころもち」のような、少しの程度を表す副詞です。

締切が前倒しになったので、優先順位をやや上げてください。

「やや」というのは、ビジネスの業務指示には向かない表現です。「優先順位をやや上げて」ではわかりません。もちろん、相手の業務量や多忙さへの配慮もあったのでしょうが、いくつもある業務のなかで「やや」と言われても、言われた側はどこまで順位を上げたらよいか、戸惑います。どの仕事との比較で何番目に優先するかを明確に指示すべきでしょう。

品薄ではありますが、在庫は若干ございます。

「若干」というのは書き手にとって便利な言葉です。本来は2~3、多い場合は4~5を指す言葉ですが、人事の採用の場合、基本的には1名だが、よい人がいれば2名採用するというケースもありますし、反対に、10名近く採用することもあります。つまり、「若干」は「書き手にとって都合のよい人数」という意味なのです。

あいまいな表現で言い訳しても信頼関係は損なわれる

「若干」の例も、具体的な注文を受けたときに、その個数や販売価格などを考慮して、売り手側の事情に応じて「ある」とも「ない」とも言える、あとで言い訳が利く賢い表現ではありますが、そのツケが読み手に及ぶことには少なくとも自覚が必要です。

サーバーダウンが続いたので、メモリ容量を多少増強しました。

「多少」というのは、「多い」と「少ない」の両方を含み、多いのか少ないのか、はっきりしない表現です。サーバーダウンが続くという深刻な状況にたいし、メモリ容量の「多少」の増強で対応できるかどうか、システム管理者側としては不安でいっぱいでしょう。どの程度の増強なのか、数値を示すほうがよいでしょう。

海外の郵便事情によっては配達が遅れることもあるので、こころもち早めに送付をお願いします。

「こころもち」は「いくらか」「いくぶん」という意味で使われ、表現自体には配慮も感じますが、海外の郵便事情に通じていない人の場合、「こころもち」のころあいがわかりません。余裕を持って対応することを求めるのであれば、目安を示すことが必須でしょう。

ミーティングをする2人のビジネスパーソン
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書き手に便利な表現が正解とは限らない
石黒圭『コミュ力は「副詞」で決まる』(光文社新書)
石黒圭『コミュ力は「副詞」で決まる』(光文社新書)

ここまで、「だいたい」「おおむね」「あらかた」「相当」「そこそこ」「ある程度」「やや」「若干」「多少」「こころもち」という10の程度副詞を見てきました。それらに共通することは、程度というものが書き手の主観に依存するものなので、程度や数量を読み手が把握しにくく、意味があいまいになりやすいことです。

書き手にとって便利な表現が、読み手にとって正解とは限りません。むしろ、書き手に優しい表現は、読み手に厳しいのです。文章は書く人のためにでなく、読む人のためにあるものです。情報をはっきり伝えるために、学術的な場面はもちろん、ビジネスの場面でも程度副詞はできるだけ控えるようにし、数値を明確にして伝える姿勢が求められそうです。

石黒 圭(いしぐろ・けい)
国立国語研究所教授、一橋大学連携教授
1969年大阪府生まれ。神奈川県出身。国立国語研究所日本語教育研究領域代表・教授、一橋大学大学院言語社会研究科連携教授。一橋大学社会学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門は文章論。『論文・レポートの基本』(日本実業出版社)など著書多数。

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