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マスク氏指名のTwitter社新CEOは「手榴弾を渡された」のか…経営ピンチで女性が登用される「ガラスの崖」疑惑

  • 2023.5.31
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イーロン・マスクは2022年10月にTwitter社を買収。当時の役員など大規模なリストラを行ったが、会社の価値は50%ダウン。Twitter上で自らの信任投票を行い、CEO不信任という結果が出た。経営コンサルタントのロッシェル・カップさんは「マスク氏は2023年5月、後任CEOに女性を指名したが、これは女性に責任を取らせる『ガラスの崖』ではないか」という――。

欧米メディアも新人事を典型的な「ガラスの崖」と見る

イーロン・マスク氏がツイッターの後任のCEOを見つけたと発表し、しかもそれが女性だと聞いたとき、私の頭に最初に浮かんだのは、これはいわゆる「glass cliff(ガラスの崖)」と呼ばれる状況の典型例かもしれないということだ。

これは、私が特に独創的に考えたわけではない。ツイッターでは、同じ内容のツイートが数多く投稿され、あるツイートには3万4000を超える「いいね」がついた。そして、『ワシントン・ポスト』や『フォーチュン』などの出版物にも、同じテーマの記事が掲載された。リンダ・ヤッカリーノ氏が「失敗者に仕立て上げられている」「手榴弾を渡された」「ライオンの口に一歩入った」というコメントは、少なくとも米国の人々の間では、このニュースに対するよくある反応であったようだ。

リンダ・ヤッカリーノ氏のTwitterアカウントから
リンダ・ヤッカリーノ氏のTwitterアカウントから

女性の管理職登用を阻む、目に見えないが根強い壁である「ガラスの天井」は、多くの人が知っている。一方、ガラスの崖は、特に日本ではあまり知られていない。

危機のとき女性がトップに起用され責任を取らされる

ガラスの崖とは、女性だけでなく、不特定多数のマイノリティーも、組織が危機的状況に直面しているとき、つまり失敗の可能性が高いときにリーダーの席に採用されやすいという説である。崖の比喩は、女性が高みに登ったものの、山の頂上にいるのではなく、足元で砕け散るか、滑りやすいことが判明して転げ落ちるような崖の上にいることを表している。多くの場合、ガラスの崖の位置は勝ち目のない状況であるため、努力が失敗したり、結果が出るのが遅かったりすると、その女性は解雇を含む責任を取らされることになる。

この言葉は、2005年にエクセター大学のミシェル・ライアン教授とアレックス・ハスラム教授によって作られたもので、それ以来、有名な例がたくさんある。シリコンバレーでは、ヤフーのマリッサ・メイヤー、Redditのエレン・パオ、ヒューレット・パッカードのメグ・ホイットマンなどがいた。英国政界ではテリーザ・メイやリズ・トラスがいた。日本では、苦境に立たされた三洋電機のトップに抜擢された元テレビキャスターの野中ともよが良い例だろう。

メリットは女性を代表にし改革イメージを打ち出すこと

この現象に関するより最近の研究では、強い関連性を示す研究もあれば、その証拠を見いだせない研究もあり、数は多いが混在している。ガラスの崖は、ある特定の状況で起こるものではあるが、いつも起こるというものでもないようである。ガラスの崖は、女性のリーダーシップの歴史がある企業では起こりにくいようでもある。もともと女性リーダーの少ないハイテク業界では、より顕著であると指摘する人もいる。

では、なぜ危機的状況に陥ったときに、女性をリーダーの座に就かせやすいのだろうか。学者たちは、いくつかの理由を挙げている。まず、女性を採用することで、「物事が変わりつつある」「以前とは違うものになる」というメッセージを発信することができる。優しさやコミュニケーション能力の高さなど、ステレオタイプな女性の強みが、危機的状況において重要であるという認識があるのかもしれない。

また、リーダーが意識的に、あるいは無意識的に、物事がうまくいかなかったときに女性をスケープゴートにしやすいと考える、一種の差別が働いている可能性もある。

一方、登用される側からすると、女性は上級職に就く機会を得にくいという事実がある。だから、たとえリスクが高くても、ガラスの崖のような役割に就きたいと思うのかもしれない。

新CEOリンダ・ヤッカリーノ氏は広告営業で実績あり

では、ツイッターのCEOになるリンダ・ヤッカリーノ氏とはどんな人物なのか。実は、この職務には最適な人物のようだ。彼女は、ターナー・エンタテインメントで20年近く働いた後、2011年からNBCユニバーサルの広告営業担当役員として高い評価を受けている。広告の専門家である彼女は、マスク氏の買収以来、怖がって離れてしまった広告主を呼び戻すのに役立つはずだ。

ヤッカリーノ氏は、NBCユニバーサルの市場戦略と全事業の広告収入を監督し、その総額は100億ドル近くに上った。それに比べて、7月に報告されたツイッターの上場企業としての最終四半期の売り上げは、わずか11億7000万ドルだった。そうだとしたら、ツイッターの職務は彼女にとって楽な仕事と言えるのだろうか? いや、実はそう単純な話ではない。

2022年5月2日にニューヨークのメトロポリタン美術館で開催された2022年メットガラでのイーロン・マスクと、2016年9月28日にニューヨークで開催された「2016 Advertising Week New York」でのリンダ・ヤッカリーノ氏
2022年5月2日にニューヨークのメトロポリタン美術館で開催された2022年メットガラでのイーロン・マスクと、2016年9月28日にニューヨークで開催された「2016 Advertising Week New York」でのリンダ・ヤッカリーノ氏

マスク氏のツイッターでの在任期間は、波乱に満ちている。彼は最近、ツイッターの価値は200億ドルで、自分が支払った440億ドルより下がっていると言った。これは、短期間で途方もない規模の価値破壊である。

マスク氏は後先考えない経営でTwitterを混乱させている

マスク氏はツイッターの従業員の75%を削減し、専門知識の欠如と技術的な不具合を引き起こした。マスク氏の人員削減は、コンテンツを管理するチームや、ツイッターのレコメンドシステムにおける人種的・政治的偏向の可能性を監視するチームを切り捨てた。マスク氏はまた、ジャーナリストを検閲し、前任者がツイッターのコンテンツ規則を破ったとして追放したユーザー(ドナルド・トランプ元米大統領など)を再び迎え入れた。

彼自身、同サイトの最も過激なアカウントと交流があり、そのツイートはしばしば問題視されている。研究者の報告によると、ツイッターではヘイトスピーチや動物虐待が急増し、利用率がどんどん低下している。

ツイッターとマスク氏のリーダーシップに対する信頼を失い、物議を醸すようなコンテンツや攻撃的なコンテンツの隣に広告が表示されることを望まない広告主は、ツイッターから逃げ出した。マスク氏は、ツイッターの広告が10月以降50%も減少したことを認めており、専門家の中には、この減少幅がもっと大きいのではないかと推測する人もいる。定額制サービス「Twitter Blue」の売れ行きは芳しくないため、この差を埋めることはできそうもない。

Twitter社の清掃員でさえストライキを起こす運営状態

また、ヤッカリーノ新CEOが不慣れであろう運営上の問題や法的な問題もいろいろとある。10月にマスク氏がツイッター社を買収して以来、複数の業者がソフトウエアやオフィススペース、その他のサービスに対する支払いを怠ったとして同社を提訴している。解雇された大勢の社員が、早急な退職処理をめぐって仲裁請求を行っている。

ツイッターの清掃員でさえ、契約の更新が行われなかったことを理由にストライキを起こした。米国連邦取引委員会などの規制当局は、マスク氏の下でツイッターがプライバシー規則やその他の法的要件を遵守しているかどうかを疑問視している。ツイッターは、マスク氏が会社を買収するために負った130億ドルの負債も重荷になっている。

マスク氏は社にとどまり主導権を渡さないつもりか

しかし、ヤッカリーノ氏にとって最大の問題は、マスク氏自身であろう。なぜなら、マスク氏は会社を完全に彼女に譲るのではなく、ヤッカリーノ氏の上司であるエグゼクティブ・チェアマンとして、また彼女の部下であるCTOとして、会社にとどまり続けるからだ。

このような体制は、どのような状況でも管理するのが難しいだろうが、移り気な気性のマスク氏ならなおさらだ。マスク氏はヤッカリーノ氏に、過去に自分がやったことを覆すようなことも含めて、自分で決断し実行する権限を与えるだろうか? つぶやきに反応して気まぐれに決断するのをやめる気があるのだろうか? マスク氏がどこまで主導権を譲る気があるかが、ヤッカリーノ氏が会社を改善できるかどうかの鍵になりそうだが、残念ながら、マスク氏がその気になるとは思えそうにない。

一部の人は、ヤッカリーノ氏が世間の注目を浴び、混乱と非難を吸収し、イーロンは舞台裏で会社を運営し続けるだろうと予測している。あるいは、ツイッターの業績が改善されない場合、ヤッカリーノ氏は都合のいいスケープゴートとなるだろうと。いずれも「ガラスの崖」理論に沿ったものなる。

「ガラスの崖」を利用して成功を収めた女性CEOもいる

今後もサービスを使い続けたいと願うツイッター中毒者である私は、ヤッカリーノ氏の成功を心から願っている。そして、女性リーダーのファンとして、彼女を応援している。

とはいえ、ガラスの崖のような状況に置かれた女性が、必ずしも失敗する運命にあるわけではないと理解することも重要である。実際、そのようなポジションは、うまくやり遂げることができれば、輝くための絶好のチャンスになり得る。2014年からGMのCEOを務めているメアリー・バーラは、ガラスの崖の状況を利用して成功を収めた女性の著名な例だ。日本マクドナルドの再建を主導したサラ・カサノバも良い例だろう。もしかしたら、ヤッカリーノ氏の例も同じようなサクセスストーリーとなるかもしれない。

しかし、もしヤッカリーノ氏が奇跡を起こすことができず、ツイッターの業績が沈下し続け、あるいは倒産するようなことがあれば、彼女がスケープゴートとなることにも注意しよう。その時は、「ガラスの崖」理論を思い出してほしい。

ロッシェル・カップ(ろっしぇる・かっぷ)
ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社長
異文化コミュニケーション、人事管理、リーダーシップと組織活性化を専門とする経営コンサルタント。ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング代表取締役社長も務める。『英語の品格』『日本企業がシリコンバレーのスピードを身につける方法』など著書多数。

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