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5類移行で「出社派とリモート派」企業の二極化が一気に加速…将来笑うのはどちらか

  • 2023.5.29
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新型コロナウイルス感染症の5類移行で、オフィス回帰が進んでいる。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「リモートを続ける企業と原則出社に戻す企業の二極化が進んでいる。ここでの判断が中・長期的な企業の成長を大きく左右する可能性がある」という――。

通勤風景
※写真はイメージです
5類移行で「出社が増える」が48.6%と最多

新型コロナウイルス感染症の5類移行にともない、出社を促すオフィス回帰が進んでいる。東京都心の出退勤時刻の電車も以前よりもだいぶ混んできたように思う。コロナ禍を契機にリモートワークやフレックスタイム制が広がり、時間と場所に縛られない自由度の高い働き方が浸透したが、揺り戻しも起きている。

Job総研の「コロナ5類移行に伴う意識調査」によると、5類移行後の出社方針について会社からの通達の有無について「通達あり」が46.4%、「通達なし」が53.6%だった。出社の増減では「出社が増える」が48.6%と最も多かった。実際に大企業でもTOYO TIRE、日立建機、GMOインターネットなどの企業が原則出社に戻したと報じられている。

【図表1】コロナ5類移行に伴う意識調査
Job総研「コロナ5類移行に伴う意識調査」より
企業はリモート派と出社派で二極化

リモートワーク実施率も2020年5月は31%だったが、2023年1月は16.8%にまで減少している(日本生産性本部調査)。ただし従業員1001人以上は34.0%と一定数存在する。エン・ジャパンの「テレワーク実態調査」(2023年3月27日発表)では、「基本的に職場に出社している」が67%と多数を占めるが、「出社と在宅を組み合わせている」(19%)、「基本的に在宅・テレワークをしている」(13%)と、リモート派も32%存在する。

コロナ禍では原則リモート派の大企業が圧倒的に多かったが、今では原則出社派の企業がやや優勢となっている。ただ詳しく見ると、二極化の傾向にあることがわかる。

もちろんこの間にリモートワークの弊害も指摘されてきた。その1つが上司・同僚・部門間のコミュニケーションの減少である。2月に原則出社に切り替えたGMOインターネットグループの熊谷正寿会長兼社長も「企業にとって最大のコロナ後遺症は在宅グセによるコミュニケーションの減少」(2月28日)とツイッターに投稿している。

リモート派の企業が挙げるメリット3つ

しかし、原則リモート派の企業もコミュニケーション不足解消のために週1~2日の出社を推奨するハイブリッド勤務やデジタル機器を駆使したコミュニケーション手段を取り入れるなど工夫している。大手食品メーカーも原則在宅勤務を推奨しているが、現在の出社率は20~30%程度という。同社の人事担当役員は「工場の従業員を除くと、週5日のうち3日は在宅している。部署によっても違うが、中には週1日出てくればよいという部署もある。在宅勤務でも生産性や効率性は下がっておらず、今の働き方を変えるつもりはない」と語る。

もちろんリモート重視を貫く理由は、デメリット以上にメリットが大きいからだ。リモート重視の企業が挙げるメリットは大きく以下の3つだ。

① デジタル機器の活用によるDXの加速と推進
② オフィス賃料やペーパーレス等によるコスト削減
③ 人材の定着と優秀人材の採用

在宅勤務をする女性
※写真はイメージです
新人は週3出社、入社4年目以降は週1日出社

従業員1000人以上の通信系企業の人事担当者はリモートワークでDXが一気に加速したと語る。

「オンライン会議が頻繁に行われるようになり、Zoom、Google Meet、Teams等の活用が進んだ。チャット等のコミュニケーションツールの活用や、インターネットを介した動画・音声データの配信で使われるストリーミング等を活用したメッセージデータも浸透した。出社の必要を減らす取り組みとして、紙書類からデジタル文書への変換、取引先との契約、見積もり、請求、支払いなどの電子化、社内稟議りんぎ資料の電子化など、今まで進まなかったデジタル化が一気に促進された」

同じく求人情報メディア大手のエン・ジャパン人財戦略室の平原恒作室長は「コロナ前からペーパーレス化も含めてDX化を推進していたが、一層のスピード感を持って対応し、加速された」と語る。同社はコロナ禍でフルリモートに移行し、その後、新入社員についてはOJTを含めた対面の良さを生かすため今年4月から週3日出社、入社4年目までの社員は週2日出社を実施。その他の社員は週平均1日出社というハイブリッド勤務を継続している。

交通費1億3000万円、オフィス賃料1億円を削減

2番目のメリットとして通勤費やオフィス賃料などコスト削減効果も大きい。エン・ジャパンもオフィススペースをコロナ前の約半分に縮小。現在はハイブリッド勤務者がフル活用している。前出の通信系企業の人事担当者は「リモートワークへの転換を機に通勤定期代支給から出社時の実費精算に切り替え、同時に出社率を前提にオフィス面積を縮小した。その結果、交通費・旅費等で年間約1億3000万円、オフィス賃料で約1億円を削減することができた。そのほか電気代やコピー代等の経費も減少した」と語る。

何より最も大きなメリットは③の「人材の定着と優秀人材の採用」だろう。エン・ジャパンの平原室長は従業員の満足度が高くなったとし、とくに子育てとの両立のしやすさを理由に挙げる。

「通勤時間がなくなることによって、その時間を仕事に充てるなど自由に使える。とくに子育てしているママさん社員は保育園の送迎や家のことに対応する時間がつくりやすくなったと喜んでいる。また、子どもが風邪をひいたり、熱を出したりと、突発的な事態が発生すると、欠勤や早退を余儀なくされる。在宅だと仕事に穴を空けずに柔軟に対応できるという声も多い」

同社は子育て中の短時間勤務のママさん社員は全体の6~7%もいる。子どもを持つ男性社員を含めると1割以上がリモートワークの恩恵を受けていることになる。

地方の優秀なフルリモート人材を採用

もう1つは採用の効果だ。同社は「フルリモート可」のアシスタント職を募集した。その結果、地方在住の優秀な女性を多く採用できたと言う。「都市部で事務系ホワイトカラーの仕事をしていた女性が退職し、配偶者の転勤などの事情で地方に移住した女性も多い。地方では前職と同じ仕事が見つからなかったが、フルリモートで同じような仕事ができるということで多数の応募があった」(平原室長)。

採用面接
※写真はイメージです

リモートワーク可能な企業は中途採用力にも影響する。前出のエン・ジャパンの調査では「今後の希望する働き方」を聞いているが、最も多かったのは「出社と在宅を組み合わせたい」というハイブリッド勤務が65%。「完全な在宅・テレワークを希望している」が20%。「在宅・テレワークは希望していない」は16%で少数派にとどまる。また、「新型コロナ後の企業選びの軸」調査(2023年2月14日)によると、転職志望者が特に重視するものとして「希望の働き方(テレワーク・副業など)ができるか」を挙げている人が51%と最も多く、20代は56%、30代は59%を占める。

これは当然かもしれない。コロナ禍で時間と場所に縛られない自由度の高い働き方が浸透し、それを享受している人もいれば、個人の生産性向上につながることを自覚している人もいる。そういう人にとってはフル出社の企業は避けたいと思っても不思議ではないし、原則出社の企業は人材獲得では不利に働くだろう。

コミュニケーション量を増やす工夫

もちろん前述したように意思疎通がとりづらく、対面時代に比べてコミュニケーション量が少なくなったというリモートワークのデメリットもある。前出の通信系企業は上司、同僚、他部門とのコミュニケーションがリモートワーク前と比べてどう変化したのかについて調査した結果、上司とのコミュニケーションは2割がリモートになって弱まった、同僚とは3割が弱まったと回答し、比較的少ないが、他部門とでは約3分の1が弱まったと回答している。他部門とのコミュニケーションが減少すれば部門間の業務連携に支障を来し、新しいアイデアの創出機会の減少や他部門の業務に関する理解・共感の喪失などデメリットも生じる。

その対策として意図的に同僚とのWeb上の雑談時間を設定し、同僚の姿が見えないという課題を解決するために、誰がどう動いているのを知るバーチャル空間を活用している企業もある。通信系企業でも様々なテーマについて部門横断で話す機会をつくるオンラインミーティングや、懇親会やゲームなどのオンラインイベントも開催している。

オンライン会議
※写真はイメージです
一律出社では採用の可能性を狭めてしまう

エン・ジャパンも出社とリモートワークを組み合わせたハイブリッド勤務をはじめとする様々な施策を講じている。

平原室長は「コロナ前の100%全員出社に戻すことはない。対面は人材育成の観点や偶発的なコミュニケーションから生まれるアイデアなどのメリットもある。対面の良さも取り入れながら最適なハイブリッドの形を今後も模索していく。今後の課題は人的資本経営でも言われているように社員のエンゲージメントの向上や多様な人材をいかに引きつけて、イノベーションを起こしながら高い生産性を生み出していくかが大きなテーマだと思う。一律に出社しろと言うだけで採用の可能性を狭めてしまう。フル出社する人、ハイブリッド勤務の人、フルリモートの人もいる多様な働き方が求められている」と語る。

原則リモートワークを推進している大手IT企業の人事担当役員もこう語る。

「社員にはまったく出社しなくてもよいと言っているが、もしかしたら失敗するかもしれない。一方でデジタル化の促進の流れや働き方の進化を考えると、逆に出社させている会社が失敗なのかもしれない。今の段階では何とも言えないが、会社としては明日の日本の働き方だと信じてチャレンジするしかない」と語る。

出社に戻すのは簡単かもしれない。しかしリモートワークの中でのDXの推進など、エンゲージメントや生産性を高めるための試行錯誤が新たな成長の基盤ともなり得る。中・長期的な企業の成長を大きく左右する可能性がある。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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