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3時間勉強しても30分と同じ効果しか得られない…タイパが極端に悪い小中学生がしている"最悪の習慣"

  • 2023.5.28

スマホは子どもの勉強や学力にどのような影響を及ぼすのか。東北大学加齢医学研究所助教の榊浩平さんは「スマホを持つ中学3年生の80.7%が『ながら勉強』をしています。そしてスマホをいじりながら3時間以上勉強をしても、実質30分勉強した程度の学習効果しか得られないことがわかりました」という――。

※本稿は、榊浩平(著)、川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

スマホを使う時間と成績には因果関係があるのか

前の記事で、私は「スマホ等を長時間使用する子どもたちは学力が低い」という表現をしました。では、「スマホ等を長時間使用すると学力が下がる」と言うことはできるでしょうか。

これまで取り上げてきた単年度のデータを対象とした解析からは、スマホ等の使用と学力の低下のどちらが原因でどちらが結果なのか、その因果関係までは答えることができませんでした。

私たちは、スマホ等の長時間使用と学力の低下、どちらが原因でどちらが結果なのかをはっきりさせるため、複数の年度にわたってデータを集める追跡調査を行ないました。

スマホ等の使用時間の変化と学力の関係
出典=『スマホはどこまで脳を壊すか』

【図表1】の左側の棒グラフは、2015年度における小学校6年生および、中学校1年生のスマホ等の使用時間と学力の関係を表しています。このグラフではスマホ等使用「1時間以上」の子どもたちをひとまとめにしています。2015年度においてスマホ等を「使用していなかった」子どもたち、「1時間未満」の使用にとどめられていた子どもたち、「1時間以上」使用してしまっていた子どもたちの3つのグループに対して、それぞれ2年後のスマホ等の使用時間の変化と学力の変化を調べました。

スマホの使用時間が1時間以上になると成績が下がる

まずは、2015年度の時点でスマホ等を「使用していなかった」子どもたち(黒色の棒)の変化を見てみましょう。右側上段の線グラフをご覧ください。2年後の2017年度の時点で、そのままスマホ等を「使用していなかった」子どもたち(黒色の実線)、スマホ等を使うようにはなったものの「1時間未満」にとどめることができていた子どもたち(濃い灰色の破線)の成績は伸びていました。一方で、スマホ等の使用時間が「1時間以上」になった子どもたち(薄い灰色の実線)の成績は下がっていました。

続いて、中段の線グラフをご覧ください。2015年度の時点でスマホ等を「1時間未満」の使用でとどめられていた子どもたち(濃い灰色の棒)の変化を表しています。2年後の時点でスマホ等を「使用しなくなった」(黒色の実線)と、そのまま「1時間未満」(濃い灰色の破線)の子どもたちの成績は上昇していました。一方で、「1時間以上」に使用時間が延びてしまった子どもたち(薄い灰色の実線)の成績は低下していました。

スマホの使用時間を減らせたら成績も持ち直せる

このように、スマホ等を使用しない、あるいは使用したとしても1時間未満にとどめることができている子どもたちの成績は、2年間で順調に伸びていたのです。反対に、スマホ等を1時間以上使用するようになってしまうと、学力はどんどんと下がっていってしまいました。この結果から、「スマホ等の使用時間が長くなる」と「学力が下がる」の間には明らかな因果関係があることがわかりました。

最後に、下段の線グラフをご覧ください。こちらは、2015年度にスマホ等を「1時間以上」使用していた子どもたち(薄い灰色の棒)の変化を表しています。2年後にスマホ等を「使用しなくなった」(黒色の実線)、または「1時間未満」(濃い灰色の破線)に減らすことができた子どもたちの成績は、持ち直して上昇に転じていました。一方で、そのまま「1時間以上」使い続けてしまった子どもたち(薄い灰色の実線)の成績はさらに下がってしまいました。

この結果は私たちにとって、救いといえるデータとなるかもしれません。なぜなら、一度スマホ等を1時間以上使用するようになってしまったとしても、その後で何とかして使用時間を減らすことができたら、下がってしまった成績を持ち直させることもできる可能性があるからです。

子どもだけでスマホを止め、使用時間を減らすのは困難

追跡調査の結果から、スマホを使えば学力は下がり、やめれば上がるという因果関係があることがはっきりとしました。この中に、私たちがこれから取り組むべき課題が潜んでいると考えています。実は、下段の線グラフでスマホ等の使用をやめられた子どもたち(黒色の実線)はたったの2.9%、1時間未満に減らせた子どもたち(濃い灰色の破線)もわずか10.1%しかいませんでした。

残りの大部分、87.0%の子どもたちはそのまま1時間以上使い続けていたのです。この結果からも、やはりスマホはタバコやお酒、ギャンブルと同じように、一度ハマってしまうとなかなか抜け出すことができない依存性があるといえるでしょう。

勉強する気がない小学生の男の子
※写真はイメージです

スマホをやめれば成績が上がります。しかし、スマホの「沼」から自分の力で抜け出せる子どもたちは現状で13%しかいません。そのため、いかにして87%の子どもたちを減らし、13%の子どもたちを増やすか、これこそ私たち大人が真剣に取り組んでいく必要がある、教育の課題です。

昔から言われるように「ながら勉強」は効率が悪かった

どうしてスマホ等を使うと、学力が下がってしまうのでしょうか?

続いて、私たちは勉強中のスマホ使用に目をつけました。人間の脳は、同時に複数の物事を並行して行なう、いわゆるマルチタスクが苦手です。勉強をするときには、勉強一つに集中できる環境を整えることが大切です。

ところが、仙台市の子どもたちの調査結果を解析してみると、驚くべき実態が明らかとなりました。

勉強中に勉強以外の目的でスマホ等を使用する割合
出典=『スマホはどこまで脳を壊すか』
中学3年生の80%が「ながら勉強」をしている

【図表2】は、勉強中に勉強以外の目的でスマホ等を使用する、いわゆる「ながら勉強」をしている子どもたちの割合を表しています。スマホを持っている子どもたちを対象に解析したところ、なんと半数以上が「ながら勉強」をしていることがわかりました。小5の時点で53.9%、学年が上がるにつれて割合は上がっていき、中1で70.1%、中3になると80.7%が「ながら勉強」をしてしまっているのです。

私が子どものころは、テレビを見ながら勉強する「ながら勉強」が問題視されていました。テレビの場合、基本的にはリビングに置いてあるかと思います。そのため、自分の部屋で勉強をするようにすれば、「ながら勉強」のリスクは簡単に避けられました。しかし、スマホの場合は自分の部屋に持ち込むことができます。持ち込むどころか、机の上に置いた状態で勉強をしている子どもたちすら多く存在します。

「ながら勉強」は子どもたちの学力へどのような影響を与えるでしょうか? 【図表3】は、スマホを持っている子どもたちのうち、「ながら勉強」をする子どもたちと、しない子どもたちの成績を比べた結果を表しています。縦軸にテストの成績、横軸に勉強時間をとっています。

スマホ横目に3時間勉強しても成果はたった30分

まずは「ながら勉強」をしない子どもたち(黒色の棒)を見てみましょう。一番左が勉強時間「30分未満」の子どもたちの成績です。偏差値が49.9で、ほぼ平均点をとれていることがわかります。小・中学生で1日の勉強時間が「30分未満」というと、最低限の宿題をこなしている程度でしょうか。勉強中にスマホをいじらず、集中して勉強すれば、たったの30分でも十分に平均点をとることができるわけです。当然、たくさん勉強をしている子どもたちの方が高い学力となるはずなので、左から右にいくほど成績が高くなっていることがわかります。

ながら勉強と学力の関係
出典=『スマホはどこまで脳を壊すか』

続いて、「ながら勉強」をしている子どもたち(灰色の棒)の成績を見てみましょう。勉強時間にかかわらず、「ながら勉強」をしない子どもたちよりも明らかに学力が低くなっていることがわかります。勉強時間「3時間以上」の子どもたちでさえ、偏差値が50.4とほぼ平均点までしか届いていません。

先ほどご紹介した「ながら勉強」をせずに「30分未満」勉強をしている子どもたちの成績とほとんど変わりません。つまり、スマホをいじりながらダラダラと3時間勉強をしたとしても、実質30分勉強をした程度の学習効果しか得られないというわけです。

大人がスマホを管理し子どもの目に入らないようにする
榊浩平(著)、川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)
榊浩平(著)、川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)

この事実を知らずに、悪気なく「ながら勉強」をしてしまっている子どもたちは、どのように感じているでしょうか? おそらく、「毎日3時間も勉強を頑張っているのに、成績が全然上がらない……」と悩んでいるのではないでしょうか。せっかく勉強を頑張る気があった子どもたちでも、「どうせ頑張っても無駄だ!」と勉強を嫌いになって投げ出してしまうかもしれません。努力が報われないことは、とてもつらいことです。

子どもたちの健気な努力を、学力という結果に結びつけてあげるためにも、「勉強中はスマホの電源を切ってリビングなどに置き、目に入らないようにする」ということを徹底していただきたいのです。

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