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134:小さくても強い灯り

  • 2015.12.11
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木枯らしが吹き、街路樹が黒く乾いた枝を曇天にのばして、線描画を見るようだ。
実り多かった人、重い気持ちを抱えている人、でも前進しようと思う人、嬉しい人、このままで十分と穏やかな人。
各人各様に、冬を迎えている。

日が暮れるのが待ち遠しかった年の瀬があった。
東北で大地震があり、先行きが見えず、過去と今とこれからを一度に失くした人たちに向けて言葉を持たず、しんとした冬だった。
短い一日が終わる頃、薄霧のかかる中を無数の金色の点々が近づいてくる。車両を数千個の豆球で覆った路面電車だ。
霧が車輪の音を吸い込んで、一両だけの電車はぼうっとまわりを金色に照らしてやってくる。
金色の光は一つずつが皆の思いを集めたようで、キラキラとこぼれ落ちんばかりの輝きもあれば、静かに消えゆくようなものもある。

去っていくもの。
やってくるもの。
さようなら。
ようこそ。
また、そのうちどこかで。
会えてよかった。
忘れない。
これから、いつもいっしょ。

人を乗せずに、金色の路面電車は冬の町を音も無く走り抜けていく。
どこから来て、どこへ行ったのか。
冬の風に流されていく星屑のように見えた。

ミラノの市電からのクリスマスプレゼント、と後日に知った。
クリスマス。赦す日。
小さいけれど強い灯りを届けながら、小さな電車は町を走った。

穏やかな2016年になりますように。

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