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ディズニーのキャラクターたちが愛され続ける秘密とは?伝説のアニメーターが語る「哲学」【ディズニー100周年記念取材】

  • 2023.5.25

2023年に創立100周年を迎えるウォルト・ディズニー・カンパニー。世界一有名なキャラクターであるミッキーマウスを筆頭に、ディズニー社が100年という長きにわたって世界中の人々から愛され続けている多くのキャラクターを生み出し続けてこられた理由とは? 『ライオン・キング』のシンバや『リトル・マーメイド』のアリエル、『美女と野獣』のベル、『アラジン』のジャスミン、『プリンセスと魔法のキス』のティアナなど、ディズニーを代表するキャラクターを生み出し続けてきた伝説のアニメーター、マーク・ヘン氏が来日したタイミングで貴重なインタビューを行うことができたので、ディズニー社の歴史の半分近くをアニメーターとして支えてきたマーク氏に、ディズニー・アニメーションの極意を訊いた。(フロントロウ編集部)

マーク・ヘン氏にディズニー100周年記念インタビュー

2023年に創立100周年を迎えるウォルト・ディズニー・カンパニー。今でこそ、世界各地のテーマパーク事業をはじめ、ピクサーやマーベル、ルーカスフィルムといった様々なスタジオの作品など、幅広い事業で知られる同社だが、そのルーツといえばディズニー・アニメーション。同社は1937年に世界初の長編アニメーション作品として発表された記念すべき1作目『白雪姫』を皮切りに、2022年に公開された『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』まで、これまでに61の長編アニメーション作品を世に送り出してきた。

画像1: ディズニー100周年記念作品『ウィッシュ』 12月15日(金)全国公開 © 2023 Disney. All Rights Reserved.
ディズニー100周年記念作品『ウィッシュ』 12月15日(金)全国公開 © 2023 Disney. All Rights Reserved.

世界一有名なキャラクターと言っても異論はないだろうミッキーマウスを筆頭に、初期の頃から白雪姫やピノキオ、ダンボ、バンビ、ピーター・パン、ティンカー・ベルなど、世界中の人々から今なお愛され続けているアイコニックなキャラクターたちを長編アニメーション作品で生み出してきたディズニー。誰もが共感できるストーリーテリングとキャラクターで世界中の人々を魅了してきたディズニーだが、7歳の頃に『シンデレラ』を観たことをきっかけにディズニーのアニメーターを志したマーク・ヘン氏も、ディズニーの世界観に人生を変えられた1人。

そんなマーク氏は、故ウォルト・ディズニーが出資したことでも知られるカリフォルニア芸術大学(カルアーツ)でアニメーションを学んだ後で、1980年に晴れてウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのアニメーターに。ディズニーのレガシーを受け継ぎ、『ライオン・キング』のシンバを誕生させたほか、“プリンセス・ガイ”の異名もとる彼は、『リトル・マーメイド』のアリエルや『美女と野獣』のベル、『アラジン』のジャスミン、ムーランといった、“ディズニー・ルネサンス”として知られる1990年代頃に訪れたディズニー黄金期の1つを支えたプリンセスたちの生みの親でもある。

画像: 来日してウォルト・ディズニー・ジャパンで取材に応じたマーク・ヘン氏。1980年に『キツネと猟犬』の制作に携わって以来、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのアニメーションチームのみならず、業界においても主要なクリエイターの一人であり続けている。1983年には、ミッキーマウスが 30年ぶりにスクリーンに登場する作品となった『ミッキーのクリスマス・キャロル』で、ミッキーマウスのアニメーションを担当。業界で最も多作で尊敬を集めるアニメーターの一人となり、2013年にはアニー賞でアニメーション界の生涯功労者としてASIFA-Hollywoodからウィンザー・マッケイ賞を授与された。 © Disney
来日してウォルト・ディズニー・ジャパンで取材に応じたマーク・ヘン氏。1980年に『キツネと猟犬』の制作に携わって以来、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのアニメーションチームのみならず、業界においても主要なクリエイターの一人であり続けている。1983年には、ミッキーマウスが 30年ぶりにスクリーンに登場する作品となった『ミッキーのクリスマス・キャロル』で、ミッキーマウスのアニメーションを担当。業界で最も多作で尊敬を集めるアニメーターの一人となり、2013年にはアニー賞でアニメーション界の生涯功労者としてASIFA-Hollywoodからウィンザー・マッケイ賞を授与された。

1980年に入社し、最初の作品としてディズニー24作目の長編アニメーション作品である『きつねと猟犬』に携わって以来、今年で入社43年目を迎えるマーク氏は、ディズニー100年の歴史のその半分近くを主要アニメーターの1人として支えてきた。「すべてのキャラクターが特別な仕事でした」と、2023年4月に来日したマーク氏はインタビューでこれまでの自身のキャリアを振り返る。

誰もが共感できるキャラクターを描く上で大切なこと

自身がこれまでに手がけてきたキャラクターは全て特別なので、特に思い入れのあるキャラクターは選べないとしつつも、「シンバは本当に特別でしたね。シンバに取り組むのは本当に楽しかったです」と、1994年公開の映画『ライオン・キング』で担当した主人公のシンバは特に印象に残っていると語ったマーク氏。「それから私が取り組んだすべてのプリンセスについても、彼女たちをスクリーンに登場させる作業はすごく楽しかったですね」と続けた。

アイコニックなキャラクターたちを何人も生み出してきたマーク氏だが、キャラクターを創る上で最も難しいのは、それぞれのキャラクターを個性的に描くことだという。

「それぞれのキャラクターが持つユニークな個性を皆さんに伝わるように表現することは、いつだってチャレンジでした」と明かしたマーク氏は、「プリンセスたちの個性や、物語のなかでどんなことをしたかということで、彼女たちの魅力が伝わっていたら嬉しいですね」と続けた。

画像: インタビュー後には、その場で『アラジン』のジャスミンを描いてくれたマーク氏。 ©️フロントロウ編集部
インタビュー後には、その場で『アラジン』のジャスミンを描いてくれたマーク氏。

誰もが共感できるキャラクターを創る上で大切なのは、「リアリティ(真実味)のある存在にすること」だとマーク氏は語る。「皆さんの夢を壊したくないのですが」とファンを思いやりつつも、「シンバは実在するライオンではありませんが、彼はリアリティのあるライオンです」と、自身が生み出したシンバについて語ったマーク氏は、そうした描き方は自身が入社するより遥か前に誕生した、1942年公開の『バンビ』に登場する動物たちから一貫しているものだと強調する。

「バンビは実在する鹿ではありません。しかしながら、バンビはリアリティのある鹿ですよね。私たちがディズニー作品で創り出してきたすべてのキャラクターについても、同じことが言えるのです」

画像: 『ライオン・キング』 ディズニープラスで配信中 © 2023 Disney
『ライオン・キング』 ディズニープラスで配信中 © 2023 Disney

そして、キャラクターのリアリティを反映するために何より重要なのは、キャラクターたちにシーンごとでどう「演技」させるかだとマーク氏は語る。「彼らは絵であり、セル画であり、コンピューター上のイメージですが、アニメーションになる過程で、ストーリーのなかで起きる様々な状況に対する反応の仕方によって、オーディエンスの皆さんにとって共感してもらえるような存在になるのです」とマーク氏。人間の俳優が映画に向けて役作りをするのと同様に、アニメーターにとってキャラクターを創ることは「パフォーマンスを創る」のと同じだと続けた。

「私がアニメーターとして仕事する上で目標としているのは、私が創るキャラクターをユニークで、個性的で、人々を惹きつける存在にすること。そして、その動き方や演技の仕方、それからキャラクターたちの思考回路についても、オーディエンスの皆さんが共感できるような、リアリティのあるものにするということです」

テクノロジーの発展と共に歩んできたディズニー・アニメーション

ディズニー100年の歴史は、アニメーション技術の発展と共に歩んできた歴史でもある。例えば、1989年に公開(日本では1991年に公開)された、マーク氏が手がけた最初のプリンセスにして、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオにとって実に30年ぶりのプリンセス映画となった『リトル・マーメイド』は、スタジオが初めてコンピューターソフトを使用して制作した長編アニメーション作品だった。

手描き=2Dのアニメーターとして入社したマーク氏は、近年も『シュガー・ラッシュ』とその続編『シュガー・ラッシュ:オンライン』、そして『アナと雪の女王』とその続編『アナと雪の女王2』などにリードアニメーターとして参加したり、後進の3Dアニメーターたちの指導にあたったりと、スタジオで3Dアニメーションが主流になってきたなかでも、経験豊富な2Dアニメーターとして重要な役割を担い続けている。

画像1: ©️フロントロウ編集部

2018年には、ミッキーマウスのスクリーンデビュー90周年を記念して、ミッキーマウスの公式肖像画家を務めるという名誉にあずかったマーク氏は、発展するテクノロジーは「フィルムメーカーたちが創りたいと願う物語を支えてくれるもの」と語る。

「手描きアニメーションとコンピューター・アニメーションの大きな違いは、ツールという部分に過ぎません。ツールが変わったということなのです。紙とペンから、マウスを動かす作業へと変わったわけですが、その根底にある哲学に関して、つまり、アニメーションや、キャラクターにどう命を吹き込むかというところの哲学は変わっていないと思っています」

マーク氏が語るこの「哲学」 の部分こそ、“誰もが共感できるキャラクターになっているか”という考えである。「それこそが私がCGアニメーターたちに伝えていることです」とマーク氏は続けて語る。

「“ポーズはわかりやすいものになっている?”、“シーンに必要な感情を伝えられている?”、“きちんと意思疎通ができている?”、“アニメーションが過度になっていない? 不足していない?” などといったことです。つまり、私が確認するポイントというのは同じなのです。手描きアニメーションと同じことをコンピューター・アニメーションにも当てはめることができます。ツールが違うというだけなのです。なので、私がキャリアの初期の頃に2Dアニメーションで学んだのと同じ原則を、3Dアニメーターたちが学んでくれたら嬉しいですね」

画像1: © Disney

アニメーションを創るテクノロジーは時代を経て発展してきたが、手描きとCGのどちらが良いということはないとマーク氏。「芸術面で2Dのほうが少しだけコンピューター・アニメーションよりも優れている面もあれば、反対に、コンピューター・アニメーションが手描きでは不可能なことができるという面もあります。なので、どちらにも良い面があるのです」

「私が手描きアニメーターとして学んだ原則はCGアニメーターたちの作業にも直接当てはまります。それがCGアニメーターたちにきちんと伝わっていることを願っていますし、彼らにはまたそれを次の世代へと伝えていってほしいですね」と続けて、手描きの頃から引き継ぎ続けてきた「原則」の部分はこれから先の世代にも繋いでいってほしいと語った。

これから先の100年に向けて後進のクリエイターに伝えたいこと

テクノロジーの進歩といった時代の変化に順応しながら、100年を通して人々に愛されるキャラクターを創り出し続けてきたディズニー。「世代から世代へとレガシーを繋ぎ続けてきたおかげで、100周年を祝福することができています。これが次の100年間も続いていくことを願うばかりです」と、マーク氏は次の100年に向けて語っている。

画像2: ©️フロントロウ編集部

「変化は自ずと訪れるものです。新しいテクノロジーの到来とかね」と、この先100年に起きるであろう変化についても前向きに見据えるマーク氏。「テクノロジーは常に、フィルムメーカーたちが創りたいと願う物語を支えてくれるものであり続けました。もちろん、それがすべてではありませんが、サポートしてくれるものでした。でも、それも変化してくのでしょう。そうなっていくのだと私は思います」

「きっとこの先100年にも、人々を惹きつけるような新しいストーリーやキャラクターたちがどんどん登場してくれると思います」とマーク氏は未来への希望を覗かせる。「新しい人たちがスタジオへやってきて、彼らが情熱を傾けられるような作品を創る機会を得て、ストーリーを伝えてくれて、そしてそれらの作品が、高品質なエンターテイメントとしてディズニー・アニメーションのレガシーに続いてくれたら嬉しいです」。

マーク氏が後進のクリエイターたちに期待するのは、オリジナルのアニメーターたちが引退しつつあったタイミングで入社した自身が、最初の世代のアニメーターたちから受け取ったバトンを、彼らがそのまた次の世代へと渡してくれること。「私が最初の世代の方々から学んだことを次の世代へと引き継ぐように、彼らにもまた、その先の世代へと繋いでいってもらいたいです。ディズニー・アニメーションのレガシーが続いていくことを願っています」

画像3: ©️フロントロウ編集部

<作品情報>

手描きから3Dのアニメーションへと、テクノロジーの発展と共に100年を歩んできたウォルト・ディズニー・カンパニーだが、そんな同社が100周年記念作品として贈るアニメーション作品こそ、12月15日(金)に全国公開される『ウィッシュ』。

画像2: ディズニー100周年記念作品『ウィッシュ』 12月15日(金)全国公開 © 2023 Disney. All Rights Reserved.
ディズニー100周年記念作品『ウィッシュ』 12月15日(金)全国公開

本作は、長きにわたりディズニー作品が描き続けてきた“願いの力”を真正面から描く、まさに100周年の集大成とも言える作品で、『アナと雪の女王』1・2作目を手掛けたクリス・バックと、『アナと雪の女王』や『ズートピア』などのストーリーアーティストを担当したファウン・ヴィーラスンソーンが共同で監督。さらに、クリスと同じく『アナと雪の女王』1・2作を手掛け、現在はディズニー・アニメーション・スタジオのクリエイティブ・オフィサーでもあるジェニファー・リーが脚本を務めるのだから、まさに、ディズニーのレガシーを受け継いできた最高のスタッフによる、“最強の布陣”が実現したと言える。

『ウィッシュ』の特報はこちら。

<イベント情報>

さらに、『ウィッシュ』の公開に先立って、10月には、ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年を記念して、全国100か所の映画館でディズニー・アニメーション映画を楽しむことができるイベント「ディズニー100 フィルム・フェスティバル」が開催されることも決定!

画像2: © Disney

今年の10月16日に100周年を迎えるディズニーが100年にわたり紡いできた数々の心温まる物語と時代を超えて愛されるキャラクターは、世界中のファンや家族に笑顔と勇気、インスピレーションを与えてきた。これまでディズニーが届けてきた長編アニメーション作品は、世界初の長編カラーアニメーション『白雪姫』から始まり、全61作品。各作品は、人々の心の奥深くで繋がる物語として世界中の様々な場所で愛され続けている。

「ディズニー100 フィルム・フェスティバル」は、ディズニーがこれまでに世に送り出してきたそんな全61作品の長編アニメーションから、厳選した8作品を上映するというもの。上映作品、開催日時、会場など詳細は、後日発表予定。

(フロントロウ編集部)

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