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これはバリキャリ女性にはきつい…スープストックの「離乳食無料提供」が炎上した一番の原因

  • 2023.5.23

Soup Stock Tokyo(以下、スープストック)が4月、全店で離乳食を無料で提供すると発表したところ、SNSなどでは「ありがたい」と歓迎する声が上がった一方で、「女性が一人で入りやすい貴重な店だったのに」「もう行かない」といった批判の声も上がった。武蔵大学社会学部教授の千田有紀さんは「この騒動は、子どものいない女性と、子どものいる女性の対立というよりも、むしろ、スープストックが本来の顧客であった女性の気持ちに配慮が足りなかったために起こったといえるのではないか」という――。

Soup Stock Tokyoが4月25日に出した、離乳食全店無料提供のお知らせ。Soup Stock Tokyoホームページより
Soup Stock Tokyoが4月25日に出した、離乳食全店無料提供のお知らせ 。Soup Stock Tokyoホームページより
新しいターゲットが加わったことに既存顧客が難色

スープストックが、離乳食無料を宣言してから、ネットは大騒ぎになった。スープストックは基本的には駅近にあり、これまで「働く女性」をターゲットにしていた。新しく「ご家族やお子様」をターゲットにすることに対し、これまでの顧客が難色を示した。

それが少し落ち着いたところで、スープストックが改めて宣言文を出した。その「離乳食提供開始の反響を受けまして」の中には、「私たちは、お客様を年齢や性別、お子さま連れかどうかで区別をし、ある特定のお客様だけを優遇するような考えはありません……ひとつひとつですが、これからも「Soup for all!」の取り組みを続けていきます」と書かれている。

ネットでも、「世間を騒がせた」と安易に謝罪することもなく、すべての人を包括した、うまい対応、“神対応”だったと褒められているようである。

女性同士の対立だったのか

この一連の騒動は、よくある「働くシングルや子どものいない女性と、子どものいる女性の対立」というふうにとらえられていた。

しかしもう一度振り返ってみれば、私はやはり、スープストックが本来の顧客であった女性の気持ちに配慮が足りず、それが告知文の書きかたに表れたがために引き起こされたものなのではないか、と言わざるを得ないと考えている。

「女の牛丼屋」だったスープストック

スープストックは、「女の牛丼屋」と呼ばれてきた。実際創業者の遠山正道氏が、「夜の8時くらいまで残業して、帰り際に駅のスープストックに立ち寄って夜ご飯。……ランチならまだしも、夜に女性がひとりで牛丼屋とか、無理じゃないですか(笑)。そこに、駅にスープストックがあると」(Soup Stock Tokyoが「エキナカ」で成功した理由 スマイルズ 遠山正道社長インタビュー #1)と述べているように、もともとそうした位置づけを狙っていたようである。

実際に顧客は「0歳から100歳までと言っているけど、実際にスープストックのお客さんは8割ぐらいが女性」だという。別の記事によると、「都心で働くバリバリのキャリアウーマン」の「秋野つゆ」さんというモデルを設定して、店舗のありようを考えたという。

私も個人的にスープストックを使うときは、駅の乗り換え時か、子どもの塾の帰りを待つなどのすきま時間、疲れ果ててファミレスにすら行く気力のないときであり、何よりも理由は駅に近い、駅中にあるという立地による。さらに料理が健康的で、なによりも一人客が多く静かですいており、疲れないというのが付加的な魅力だった。少なくとも、友達と誘い合わせていくような使い方はしたことがない。徹底的に女性の一人客が目立つ静かなお店、というイメージがある。

スープストックが出したメッセージ

スープストックが最初に出した、離乳食の提供開始のメッセージを見てみよう。

私たちには、創業当初から大切にしている「Soup for all!」という価値観があります。……お客様のライフステージが変わり、ご家族やお子様と一緒にご来店いただく方も増えてきた中、Soup Stock Tokyoとしてお子様の成長を一緒に見届けることができればと……

これはきつい。炎上の一番の原因は、ここではないかと思っている。

これまでバリキャリで働いていた秋野つゆさんたちは、結婚して「ライフステージ」を変えていた、というのである。こういわれてしまえば、「ライフステージ」を変えていない独身女性は、「取り残された」ように感じてしまう。

私自身、結婚が遅かったからよくわかるが、自ら望んで独身を続けてきていたとしても、こう言われれば、自分だけがバスに乗り遅れたかのような感覚を持たされてしまうものである。しかも、これまで味方だと思っていたスープストックに、「他のひとは、新たなステージに進んでいるんですよ」と、後ろから刺されたような気持ちになろう。

ベビーカーを押しながら、子供と手をつなぎながら歩く母親
※写真はイメージです
「すみ分け」「共存」は可能なのか

さらに、子連れとそうでない客が同じ店舗で共存するには、広い面積が必要である。スウェーデンなどの北欧の国では、レストランでも徹底的に子連れエリアと、そうでないエリアに分離されている。子連れではない人たちのエリアは、窓沿いやオープンエアのすてきなところ。子連れは、場所としてはやや落ちるが、騒いでもかまわないし、お互いさま。そうすることで、どのようなライフステージの人にもメリットがあり、誰もが気兼ねなくレストランで過ごせるようになっている。

日本の場合は、「ほかの人が行っているのとまったく同じ場所に同じ条件で家族連れで行けることがファミリーフレンドリー」と理解されていることが多いように感じる。一方、これらの国々はそうではなく、さまざまなライフスタイルの人に対し、それぞれが居心地がいいと感じられる場所を与えることで、ファミリーフレンドリーを実現しているかのようである。必ずしも全員が、まったく同じ場所で、同じ条件でなくてもいいというわけだ。

そういう視点から見ると、駅近であるがゆえに、小さな店舗が多いスープストックは、「すみ分け」や「共存」には向きにくいのではないか。無理に同じ店舗内ですみ分けや共存させようとすると、ひとり客の反感を、さらに買ってしまいそうである。

広めの店舗の場合は、家族向けの居心地のいい空間を新たに作るといった工夫をすることも、可能だったかもしれない。そうしたことをせずに、いきなり、これまでの顧客にそっぽを向いたように思われるような施策を取ることは、得策ではなかっただろう。

千田 有紀(せんだ・ゆき)
武蔵大学社会学部教授
1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。ヤフー個人

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