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【ドラマ】『Around40』から『日曜の夜ぐらいは…』まで 平成から令和へ、時代を駆ける“女の友情”はどう変わった?

  • 2023.6.7
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イラスト:熊野友紀子(ホームページ

現在放送中の『日曜の夜ぐらいは…』(ABCテレビ・テレビ朝日系全国ネット)が、じわじわと人気である。

女性3人の友情や、毒親被害を描いたドラマだ。さすが岡田惠和氏の脚本はセリフ一つひとつが沁みる。バラエティでの活躍が多い、めるること生見愛瑠の演技に高評価と話題が尽きないところも、大きな魅力である。

思い返すと平成に放送されていたドラマでは、友情と銘打っていても女性が集まることで何かと揉め事が起きていた。恋人の有無、収入格差、結婚や出産の問題。人が集合することによって起きる比較だ。ただ『日曜の夜ぐらいは…』を見ていると、ひと昔前のドラマでの表現も変わってきたように感じる。

生粋のドラマオタクを自称する、私こと小林久乃。昨年末『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)を上梓させてもらうほど、ドラマデータが脳内に叩き込まれている。

平成の女の友情はどんな情景が描かれていたのだろうか、海馬を動かしてみることにした。

結婚しなきゃ、出産しなきゃ…焦燥感がヒロインを襲った平成の「女の友情ドラマ」

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出典:paralisart/Shutterstock.com

平成に青春を生きた女性たちに忍び寄ってきた課題といえば「結婚するのか、しないのか」であった。かく言う私もこの呪縛といつも闘っていた。勝利したのかどうかは知らないが、令和5年の現在も独身で気楽に生きている。

ドラマのヒロインたちもまた同じく。平成20年放送の『Around40 〜注文の多いオンナたち〜』(TBS系列)がそれだ。

「アラフォー」という言葉を生み出した人気ドラマ。今、凛とした女性を演じさせたら右に出る者なしの天海祐希が、生き方に迷う39歳の緒方聡子を演じていた。

医師で、マンションも持っていて、年下の彼氏までいる。それでも仲の良い女3人グループの森村奈央(大塚寧々)、竹内瑞恵(松下由樹)は結婚しているのに自分だけ……と比べてしまう聡子。奈央も息子のいる瑞恵がうらやましい。瑞恵も仕事でキャリアを持つ二人がうらやましい。

結果、友情を疑われるほど比較し合う3人。平成中盤にもかかわらず、ドラマの中ではこんな光景があったのだ。

平成29年放送の『東京タラレバ娘』(日本テレビ系列)に登場した、鎌田倫子(吉高由里子)、山川 香(榮倉奈々)、鳥居小雪(大島優子)の3人組も同じく。

高校からの仲良し組で、全員30歳。2020年に開催される(はずだった)東京オリンピックまでに、全員が結婚していることが目標の3人。

この時点での8年前に放送された前記の『Around40 〜注文の多いオンナたち〜』と決定的に違ったのは、結婚が目標ではあるものの、友人同士では比べていないこと。よそはよそ、ウチはウチという感覚が芽生えてきていた。

令和ドラマで見えた女の友情は、ごっつくて固かった!

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出典:oneinchpunch/Shutterstock.com

そして時代は令和に突入し、女の友情の価値観をガラッと変えて見せたのが、今年2023年の初冬ドラマ『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系列)

主人公のあーちんこと近藤麻美(安藤サクラ)が不慮の死を迎えた後、人生を赤ん坊からやり直す……というのがドラマの主軸。何度も人生をやり直すうちに麻美は、仲良しだったなっち(夏帆)とみーぽん(木南晴夏)が、飛行機事故で亡くなってしまうことを知る。その死を防ぐために、同じく人生をやり直し続けるまりりん(水川あさみ)とパイロットになろうと決意するのだ。

この一連にあったのは、ただひたすらに友人を救いたい、という熱量だけだった。今までなら、40歳近い女性が登場したら結婚問題が出てきても違和感はなかった。でもこのドラマにはヒロインたちに、普通だと思われる欲もなく、友情だけが残っていた。まさにイノベイティブ。

昔からなぜか男の友情は固く女の友情は脆い、などと言われてきたけれど、そんな古臭い風潮も一蹴した。

同クール放送の『今夜すきやきだよ』(テレビ東京系列)による、女の友情もまた新鮮さがあった。

結婚、出産を夢見るバリキャリの太田あいこ(蓮佛美沙子)と、アロマンティックの浅野ともこ(トリンドル玲奈)による共同生活。正反対のふたりはそれぞれの道を尊重して、目標を叶えている。

2作とも「ああ、私、このままでもいいよね」という共感と希望が潜んでいた。結婚、出産、旦那の職業、収入格差で比較し合うという、無駄なカロリーを消費する時代の終焉を宣言されているようだった。

戦いの甲冑(かっちゅう)を脱いで自分の友情を思い起こしたい

そして、現在放送中の『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系列)

親の介護、毒親、家族からの孤立と、少し内容は重たい。それでもヒロインたちは明るく、仲がいい。日々の生活に憂慮することはあっても、この人たちと会えば、癒されて、自己肯定ができる。そんなドラマだ。

『Around40 〜注文の多いオンナたち〜』から約15年間、女の友情は演繹(えんえき)と帰納(きのう)を繰り返して、また新しい世界を切り拓いている。

さて、私たちも日曜の夜くらいは、戦いの甲冑を脱いで、ドラマを見ながら自分の友情を思い起こそうではないか。



コラムニスト:小林久乃(Twitter:@hisano_k、HP:https://hisano-kobayashi.themedia.jp/

地元浜松市のタウン情報誌、都内の出版社勤務を経て独立。雑誌媒体でのライター、単行本の編集者として活動中、出版社から執筆のオファーを受けて、2019年『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』で作家デビュー。その後『45cmの距離感』と続く。10代から生粋のドラマオタクであり、多数の媒体でドラマや映画のコラム、レビューを執筆中。エンタメに関する脳内データ量と、独特の視点が認知されて『ベスト・オブ・平成ドラマ!』も上梓。現在は紙、Web、ラジオと編集部員時代の経験を生かしたプロモーション業で粛々と活動中。静岡県浜松市出身。40代、正々堂々の独身。

イラスト:熊野友紀子(HP:https://www.kumagoya.net/

※記事内の記事内のイメージです。