1. トップ
  2. 恋愛
  3. AIで映画・テレビ作りはどう変わる? 1930年トーキー時代級の破壊的な変化の幕開けか

AIで映画・テレビ作りはどう変わる? 1930年トーキー時代級の破壊的な変化の幕開けか

  • 2023.5.19

ハリウッドの映画産業はこれまでも、技術の進歩によって形作られ、揺らいできた。AI(人工知能)が台頭する新しいステージの幕の前に立たされ、脚本家たちが大規模ストライキでAIの規制を求める今、テクノロジーがハリウッドにもたらした変化の歴史を振り返る。(フロントロウ編集部)

ハリウッドで15年ぶりの大規模ストライキ、AI規制では完全対立

ハリウッドで約15年ぶりに大規模なストライキが起こっている。全米脚本家組合(WGA)に所属する映画やテレビの脚本家11,000人以上が参加しており、すでに、『ストレンジャー・シングス』、『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』、『The Last of Us』といった人気ドラマの新作の制作スケジュールが延期に。5月2日に始まったストライキの終わりは見えておらず、秋まで続くのではとさえ言われている。

画像: 待遇改善を求めてデモを続けるWGA組合員たち。「正当な報酬を」「企業の強欲さだ」「AIにNOを」といったプラカードを掲げている。
待遇改善を求めてデモを続けるWGA組合員たち。「正当な報酬を」「企業の強欲さだ」「AIにNOを」といったプラカードを掲げている。

組合側の要望は、ストリーミング時代に減ってしまったライターの待遇改善が中心だが、もうひとつ、スタジオ側と完全に決裂してしまっている部分がある。それが、AIの規制。WGA側はライティングにAIを使わないことと、ライタールームにおけるライターの最低人数確保を要求している。一般的なドラマのライタールームには、10~15人前後のライターが起用される。しかしAIをライターの補佐として使って各ライターの作業スピードを速めれば、ライター数を大幅に縮小できて多くのライターが職を失う、というのがWGA側の恐れていること。

画像: ハリウッドで15年ぶりの大規模ストライキ、AI規制では完全対立

ハリウッドのスタジオやストリーマーが加盟する映画テレビ製作者同盟(AMPTP)は、WGAが求める、ライターの最低人数確保の要求を拒否。一方、「AIが文学作品を書いたり、書き直したり、AIがソースとして使用されることを認めない」規制をWGAが求めている件については、「テクノロジーの進歩について話し合う年次会議を開催する必要がある」と、判断を先延ばしにしようとしている。

AIに“置き換え”られるとされる、映画・テレビの職とは?

ハリウッドにおける映画・テレビづくりにおいて、“AIが出来る”とされる仕事にはどのようなものがあるのか? それを、AI自身(ChatGPT)に聞いてみたところ、このような回答となった。

脚本制作:AIに既存の脚本を含む膨大な量のデータを分析させ、新しい脚本コンテンツを生成させる。

キャスティング:俳優の演技を分析し、過去の演技から特定の役に適した俳優を提案。

編集:機械学習アルゴリズムは、色調補正や音声編集など、基本的な映像編集を行うことがすでに可能。AIが進歩すれば、より複雑な編集作業を担う可能性がある。

視覚効果・アニメーション:高度な視覚効果やアニメーションをより効率的に作成するためにAIがすでに利用されているなか、今後の進歩によっては、人間の視覚効果アーティストやアニメーターの需要が減少する可能性がある。

音楽の作曲:AIに膨大なスコアを分析させ、作品のテイストにあった音楽を作らせることができる。

制作アシスタント:スケジュール管理、予算管理、リソース配分などのタスクを処理できるため、プロダクション・アシスタントの仕事に影響を与える可能性がある。

声優やアフレコ: 高度な音声合成により、AIが声優やアフレコの一部を担当する可能性がある。

翻訳と字幕入れ:異なる言語のコンテンツの自動翻訳はすでにYouTubeなどで導入されているが、技術の進歩によって、音声にぴったり合った箇所に字幕を表示する能力も高まり、すべて自動化される時代がくるかもしれないとされている。

俳優:ディープフェイクを使った俳優の若返りなどはすでにハリウッド映画で使われているが、今後は、亡くなった俳優をスクリーンで“生き返らせ”たり、別の人に危険なスタントをやらせたりと、“本人でなくても良い”状態になっていき、撮影現場に必要な俳優の数が減る心配がされている。

AIが提案したリストからは、AIの影響はあらゆる職種に及ぶことが分かる。そんななか、AIは以下のようにも述べた。

「しかし、AIは特定の作業を自動化することはできても、映画やテレビ業界で重要な人間の創造性、感情、ニュアンスの理解を再現することは今のところできないことに注意する必要があります。AIは、少なくとも当面は、これらの仕事を完全に代替するのではなく、補助するためのツールとして使われる可能性が高いのです」

結局は人間の存在が不可欠だとするAI。実際に、海外では“AIに脚本を書かせてみた”という実験企画が多く実施されているが、どれも作品のレベルとしては駄作。しかし注目すべきは、「今のところ」や「少なくとも当面は」という言葉。驚異的なスピードで進化を遂げているAI。1年後にはどこまでカバーできるようになっているかは分からず、WGAが来年ではなく今の段階で規制を求めているのも、スタジオ側が交渉を先延ばしにしようとしているのも、そういった背景があるよう。

ハリウッドの仕事を変えてきたテクノロジーたち

トーキー革命

画像: ジョン・ギルバートとクララ・ボウ
ジョン・ギルバートとクララ・ボウ

ハリウッドの歴史において最も破壊的な技術革新のひとつが、1920年代後半にあったサイレント映画からトーキー映画、つまり音響映画への移行。かつてサイレント映画の頂点に君臨していたスターたちの多くはセリフを発する新たな演技の形についていけず、消えた者も多い。

例えば、サイレント映画の大スターだったジョン・ギルバート。彼がトーキー映画への移行に失敗した要因には、スタジオとの政治など諸説あるが、観客ウケの良くない甲高い声が理由だともされている。さらに、サイレント映画のイット・ガールだったクララ・ボウも、音響技術への対応に手こずり、そのキャリアは急速に衰えた。

この2人は、1920年~1930年のハリウッドを舞台にした映画『バビロン』でブラッド・ピットとマーゴット・ロビーが演じたサイレント映画時代の大スター、ジャック・コンラッドとネリー・ラロイの元ネタだとされている。ちなみに、この時代の音響革命はセレブの歯のお直し文化にも影響。そちらについては、『バビロン』登場人物の「歯」はなぜ黄色いのか? 観賞1回では分からない、画面に隠された仕掛けを監督が解説』で読んでほしい。

20世紀半ばにテレビの時代が幕開け

画像: 20世紀半ばにテレビの時代が幕開け

20世紀半ば、ハリウッドに新たなライバルとして登場したのがテレビ。テレビが家庭に普及するにつれ、映画館の観客動員数は激減。1946年にはアメリカ人の半数が映画館で映画を見ていたが、テレビの所有率が1950年の9%から1960年には90%を超えて拡大するなか、映画館の週間観客動員数は1946年に9000万人だったのが、1960年には4000万人にまで減少。(アメリカ議会図書館、米国国勢調査局のデータより)

米ヒストリー・チャンネルは、『テレビはどのようにしてハリウッド黄金期を殺したのか(原題:How TV Killed Hollywood’s Golden Age)』という特集のなかで、「映画館は閉鎖され、かつて強大だったスタジオは閉鎖され、ハリウッドの偉大な俳優、監督、脚本家たちが映画製作をやめてしまったのである。それはひとつの時代の終わりで、原因はテレビにあった。ハリウッドの黄金期は、この新しいテクノロジーによって事実上、終焉を迎えたのである」と、当時のハリウッドの変化を振り返っている。

CGIの登場

画像: CGIと実物大のアニマトロニクスを融合させた1993年の『ジュラシック・パーク』は、CGIが映画にもたらす無限の未来を物語った作品として知られている。
CGIと実物大のアニマトロニクスを融合させた1993年の『ジュラシック・パーク』は、CGIが映画にもたらす無限の未来を物語った作品として知られている。

20世紀後半、ハリウッドはCGI(Computer-Generated Imagery)を手に入れた。この革命的な技術により、映画製作者はそれまでには想像もつかなかったようなシーンや効果を生み出すことができるように。

エフェクトやモーションキャプチャ、3Dアーティストの需要が急増した一方、CGIによって自由に世界観が作れるようになったため、ロケーション・スカウトやセットクリエイターの需要は減少。また、これまでメイクアップアーティストで生み出していたエフェクトをCGIが取って変わるようになった。

ストリーミング・サービス(VOD)の台頭

画像1: ストリーミング・サービス(VOD)の台頭

21世紀、映画産業は動画ストリーミング・サービス(VOD)の台頭という新たな進化に大きく混乱。

視聴者に大量のコンテンツを提供するVODのビジネスモデルのおかげでクリエイターや役者に作品が増えたり、データ重視のVODのためハリウッドにおけるデータアナリストやIT分野の雇用が増えたりと、雇用機会を拡大した一方で、しわ寄せも出ている。

例えば、脚本家たちはストリーミング・サービスの拡大により報酬が大幅に減った。これまで脚本家たちはテレビで作品が再放送されるたびに報酬をもらっていたが、ネットフリックスなどの配信サービスは一度の支払いで数年間配信を独占するため、脚本家の儲けを減らすことに繋がり、WGAは今回のストライキでこの部分の報酬の改善を要求している。

画像2: ストリーミング・サービス(VOD)の台頭

1920年代に音響の発展がハリウッドにもたらした混乱を描いた映画『バビロン』の監督で、『ラ・ラ・ランド』でアカデミー賞監督賞を史上最年少で受賞したデイミアン・チャゼル監督は、映画公開前にフロントロウ編集部にこう語っていた。

「アートとしてのシネマの面白いところは、テクノロジーによって生まれたアートであるところです。絵画や口承のようにテクノロジーが発展する前に有機的に生まれたものではありません。誰かがカメラという品を発明し、人生をイメージに映し、化学的プロセスを使って光のパターンをセルロイドに記録し、印刷して、そこに動きを加え、それがシネマというアートを生み出した。だから映画はつねにテクノロジーと密接な関係にあるのです。そうすると、テクノロジーが大きく変わるとシネマというアートも大きく変わる」

AIの登場は、今回のリストに登場した技術革新と並ぶ変化であることは間違いないだろう。そうすると否応せず、シネマと言うアートは大きく変わることになる。テクノロジーの変化と共に歩み、その様相をガラリと変えてきたハリウッド。一部の者を時代に置き去りにしながら、業界は発展を続けてきた。AIという新たな技術革新を前に、ハリウッドは才能あるクリエイターたちと共に新たな時代へと歩を進められるのか。(フロントロウ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる