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いつかわかる「におい」感じた。ヨシタケシンスケさんに"響いた"本

  • 2023.5.15

絵本作家のヨシタケシンスケさんには、人生で二度出会った本があるという。今も創作活動に影響を受けている作品とは?

なんてひどい話なんだ!

『おおきな木』(シェル・シルヴァスタイン著)を初めて読んだとき、大学生だった僕はそう思いました。少年は成長する中でどんどん変わり離れていくのに、おおきなリンゴの木は大好きな少年に惜しみない愛情を与え続け、自らが犠牲になっていく。少年、ひどすぎるだろ!......と。でも同時に、なんとなくこうも感じていました。今の僕は許せないけれど、大人になったらおおきな木のことを理解し、少年を許せるようになるんじゃないか――。

大人になった今、やっぱりそうなりました(笑)。ひょっとしたら将来、わかるようになるかもという「におい」のようなものが本の中にあれば、大人になりもう一度読んで答え合わせができる。本は、人生で二度出会うことができるメディアなのです。僕はこの本との二度の出会いから「自分は変わっていく」と教えてもらいました。本からの最高のメッセージですし、本だからこそできることだとも思っています。

「謎が残る本」を作りたい

『おおきな木』で僕が感じたあの感覚を、作家としての僕が再現できたらうれしい。そういう意味でも、自分が絵本を作るときには、子どもがキョトンとする部分を入れたい。「これ、どういうことなんだろう?」「お母さんは笑ってるけど、わかんないな」という謎が残れば、大人になりたい、わかるようになりたいと、成長することへの希望につながっていくはずです。

僕は絵本作家として、そういう「謎が残る本」を作りたいし、本を楽しむことの理由はおそらくそこにある。もしかしたら、10年後、20年後に『おおきな木』を読んだら、僕はまた違うことを感じるかもしれません。そういう意味では、これまでも、きっとこれからも僕に影響を与え続けてくれる大切な1冊なのです。

『おおきな木』(あすなろ書房)

いつでもそこにある木。成長し、変わっていく少年。それでも木は、少年に惜しみない愛を与え続けた――。1964年の初版から世界中で愛されてきたシルヴァスタインのロングセラー絵本。76年、本田錦一郎訳で邦訳版が発売(篠崎書店)され、2010年にあすなろ書房から村上春樹訳で新たに発売された。

ヨシタケさんは、5月31日に最新作『メメンとモリ』(KADOKAWA)の発売を控えている。ヨシタケさんが考える「人は何のために生きてるの?」の答えとは? 本作に込めた思いを語ったインタビューもお楽しみに!

『メメンとモリ』(KADOKAWA)

姉のメメンが作ったお皿を割ってしまった弟のモリ。クヨクヨしているモリにメメンがかけたことばは...。「メメンとモリとちいさいおさら」をはじめ、「生きるとは」を問う3話を収録した長編絵本。かわいらしい絵と物語に込められたヨシタケ哲学に注目。

■ヨシタケシンスケさんプロフィール

1973年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。スケッチ集、児童書の挿絵、装画、イラストエッセイなど、多岐にわたり作品を発表している。『りんごかもしれない』『ぼくはいったい どこにいるんだ』(ブロンズ新社)、『しかもフタが無い』(筑摩書房)、『りゆうがあります』(PHP研究所)、『それしか ないわけ ないでしょう』(白泉社)、『にげてさがして』(赤ちゃんとママ社)、『その本は』(共著、ポプラ社)、『日々憶測』(光村図書出版)など著作多数。5月31日に『メメンとモリ』(KADOKAWA)を発売予定。

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