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「わかりやすく話す」が全てじゃない。コミュニケーションで"本当に大切なこと"とは?

  • 2023.5.11

わかりやすい話し方、好感を持たれる聞き方など、コミュニケーションスキルを教える本が近年増えている。そんな中で、「コミュニケーションがただの情報のやりとりに陥ってしまっていないか」と警鐘を鳴らすのは、政財界・スポーツ・研究者・芸能人・アウトローなど1000人以上にインタビューをしてきた尹雄大(ゆん・うんで)さんだ。

本当の「聞く」「話す」とは何かを、著名人との対話を通して考えた、尹さんの著書『聞くこと、話すこと。人が本当のことを口にするとき』(大和書房)が発売された。

本書で尹さんが対談しているのは、『ドライブ・マイ・カー』などを手がけた映画監督の濱口竜介さん、沖縄で若い女性にまつわる社会問題の調査をしている上間陽子さん、看護・介護のケアを研究・指導しているイヴ・ジネストさん、建築家・作家で自殺願望者に寄り添う活動をしている坂口恭平さんの4名。それぞれが人と関わり、話し、聞いてきた経験から見えてくる、人と人とのコミュニケーションにおいて大切なこととは何なのだろうか。

「聞かれているという感覚が、人がなにがしかの自分自身を表現することの基盤になる。
『あなたのことを聞きたい。あなた自身に価値があるからです』というスタンスで接することで、その人自身が発露するように感じました」
(第1章 濱口竜介さんとの対話より)

「声が聞かれない感覚はありました。家の中で発言権は大事にされながら育てられたと思っています。ただ、外に一歩出てみると特に中学で感じましたが、ちゃんと話を聞いてくれる大人が少ないという感じがあって。学校というのは、女で子供だと聞かれない場所なんだなと思っていました
(第2章 上間陽子さんとの対話より)

「ドイツの強制収容所でどんなことが起きたか知っていますか。話すことを禁じました。歌うことを禁じました。見ることを禁じました。アイコンタクトを禁じました。自分の名前を忘れさせ、番号をつけました。それは非人間化の条件を整えることです。あなたが人間であることを忘れさせようとする」
それほど話すことは、私たちが人間である上で不可欠なのだ。
(第3章 イヴ・ジネストさんとの対話より)

「意味は聞いてなくて、その人の身体の使い方を見ている」
言葉は感じたことや思いが音として、思わず身体から出てきてしまったのであれば、その音が出てくる通り道がある。それが声になる。ところが感じたことや思いがあっても、『こんなことを言ったらどう思われるかわからない』といった他人や世の中を気にする考えが入ってくると、本人の中でズレが生じる。それは身体の捻れとして現れる。声に現れる場合もある。
(第4章 坂口恭平さんとの対話より)

読みながら、普段、本当のことを話している? 周りの人の本当の思いを聞いている? と、きっと自分に問いかけることになる一冊だ。

【目次】
第1章 身体とその人の声
第2章 まだ語られていない声を聞くということ
第3章 あなたがあなたとして存在することを認める
第4章 死を願う言葉を身体で聞く
第5章 私とあなたのあいだにある言葉

■尹雄大さんプロフィール
ゆん・うんで/1970年、神戸市生まれ。テレビ制作会社勤務を経てライターになる。主な著書に『つながり過ぎないでいい』『さよなら、男社会』(亜紀書房)、『異聞風土記』(晶文社)、『体の知性を取り戻す』(講談社現代新書)など。身体や言葉の関わりに興味を持っており、その一環としてインタビューセッションを行なっている。

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