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美しくも傲慢で悪魔的な、ケイト・ブランシェットの最高傑作『TAR/ター』に酔う。

  • 2023.5.8

美しくも傲慢で悪魔的な、ケイトの最高傑作に酔う。

『TAR/ター』

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ベルリン・フィル初の女性首席指揮者リディア・ターは指揮、作曲、録音から人事、後進指導まで完璧にこなす。ターの知性やパッション、重圧や強迫観念をケイト・ブランシェットが体現。ヴェネツィア国際映画祭最優秀女優賞を受賞。

“全容”とは「全体の内容のこと」であり、“全貌”とは「全体の形、姿のこと」という前提を置くならば、映画『TAR』の“全容”は数度の鑑賞をしなければ理解することはできない。だが“全貌”は一度の鑑賞で掴むことができる。『TAR』の全貌=形・姿とはすなわち、ケイト・ブランシェットそのものである。過去に英国女王、神々の国の支配者、若き日のボブ・ディラン、究極&理想のレズビアンなどなど、善悪・人知・性別を超えたさまざまな役を演じ、あらゆる映画祭の賞を受賞してきた、まさに現役No.1、いや映画史上最高の女優と断言したいケイト・ブランシェットのすべてが詰まった映画、それが『TAR』なのだ。

演じる世界的天才指揮者は途轍もなく美しく、傲慢で、時に醜く、悪魔的でありながらも、どうしようもなく人間的でもある。そして圧倒的にカッコ良い!!常々私は、ケイト・ブランシェットのことを“ケイト師匠”と呼んでいるのだが、師匠最大の魅力はその圧倒的なカッコ良さだ。繰り返すが、『TAR』の内容そのものを一度で理解するのは諦めた方がよい。冒頭から衝撃のラストまで、スクリーンを支配し続けるケイト師匠のカッコ良さに酔い痴れるべきだ。

『ブルージャスミン』(2013年)の監督ウディ・アレンはケイト師匠をこう評している。「彼女は素晴らしく偉大なのだ。理解したり、文章で説明できる範囲を遥かに超えている」。我々凡人はケイト・ブランシェットと同じ時代を生き、キャリア史上最高傑作を目撃できる幸福を喜べばそれでいいのだ。ケイト師匠はSNS全盛の今、ツイッターやインスタなどをやっていない。曰く「みんな常に“私のこと好きになって!”と言わんばかりに写真を人に見せている。病気みたい。もちろん自分の映画は人に観てほしいけど、これは自尊心の問題。好きとか嫌いとか、まるで小学校の校庭ね」。ふぅ〜、どこまでもカッコ良いぜ!ケイト師匠!!

文:大根 仁/映像ディレクター2010年、TVドラマ「モテキ」が脚光を浴び、11年、映画『モテキ』が成功を収める。映画、TV、演劇などの分野で活動。近作にドラマ「エルピスー希望、あるいは災いー」(22年)。クレヨンしんちゃんの新作アニメ映画が8月4日に公開。

『TAR/ター』監督・脚本・製作/トッド・フィールド出演/ケイト・ブランシェット、ニーナ・ホス、ノエミ・メルラン、ジュリアン・グローヴァーほか2022年、アメリカ映画159分配給/ギャガ5月12日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開https://gaga.ne.jp/TAR

*「フィガロジャポン」2023年6月号より抜粋

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