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珍奇植物の聖地、メキシコ・オアハカへ

  • 2023.5.8
メキシコの珍奇植物

オアハカの中心街から北上し、まずは挨拶代わりに、日本でのアガベ人気を牽引しているティタノタを目指す。巨大な鋸歯を持つ、迫力満点の種だ。

プエブラ州との境付近、テペルメメ・ビージャ・デ・モレロスの幹線道路で、〈NimitzilNamiki〉のサロモンが車を止めると、メキシコの山刀であるマチェテを片手に、岩場に向かって歩きだした。すると10分も経たないうちに、あのティタノタは姿を現す。幹線道路からも目を凝らせば見えそうな場所だ。

ロゼットがグッとつぼまり、自生地らしい引き締まった姿。サロモンはこのティタノタを「ヴェルデ」と呼ぶ。緑のティタノタという意味だ。「次はアズールを見に行こう!」とすぐに我々をせかすサロモン。そう、ティタノタには緑色の「ヴェルデ」と青色の「アズール」と呼ばれる2つがあった。

アガベ オテロイ
アガベ オテロイ(Agave oteroi)/フェリペ・オテロによって採取された通称「FO 76」、その葉色から「ヴェルデ」とも呼ばれていた。2019年6月、Agave oteroiとして新種記載された。テペルメメ・ビージャ・デ・モレロスにて。
アガベ ティタノタ
アガベ ティタノタ(Agave titanota)/美しい粉を吹いたような青から白に近い葉を持つ。葉は細長い剣葉。1982年にハワード・ジェントリーによって記載されたティタノタ。その葉色から「アズール」とも呼ばれた。テペルメメ・ビージャ・デ・モレロスにて。

日本で人気のティタノタは、緑色のヴェルデの方だ。緑色の短い葉に、大きな鋸歯をつけるこの植物は、メキシコ人シードコレクターのフェリペ・オテロが1980年代に種を収集し、普及させたもの。彼の採集ナンバーから、俗に「FO 76」と呼ばれた。しかし、オテロの種を育てた愛好家たちは、生長した姿を見て驚いた。もともとティタノタとして記載されていたアガベとは、異なる特徴を持っていたからだ。

オテロの採取から遡ること数年前の1982年、ハワード・ジェントリーがテペルメメ・ビージャ・デ・モレロスのランチョ・タンボールと呼ばれる山の近くで発見し、記載されたのがティタノタである。その特徴は、「青色の細長い葉」だった。そこから「アズール」とも呼ばれる。しかし、時が経つにつれ、緑で短い葉を持つ「ヴェルデ」の方が普及し、ティタノタと認知されるようになった。

逆に、ジェントリーのティタノタは、いつしか忘れ去られてしまった。そのジェントリーの見つけたティタノタの再発見に取り組んだのが、前回の珍奇植物特集に登場したアメリカ人シードコレクターのジョセフ・シムコックスだ。彼はニューメキシコ州の有名な種苗屋・メサガーデンのスティーヴ・ブラックに依頼され、ランチョ・タンボール周辺を調査し、2004年にジェントリーのティタノタを再発見した。

アガベ イスメンシス
アガベ イスメンシス(Agave isthmensis)/メキシコ南部オアハカ州およびチアパス州に生息する矮性(わいせい)種。灰緑色の葉は先端になるほど幅が広くなり、ぐっと詰まったロゼットを形成する美種。鉢植えにとてもよく適応するため、よく栽培されている。サリナ・クルスにて。
アガベ シーマニアナ
アガベ シーマニアナ(Agave seemanniana)/オアハカ州、チアパス州からコスタリカに至る、乾燥した岩場などに生息する。淡緑色から青に近い色合いの葉で、中型のロゼットを形成する。変異が大きく、いくつかの栽培品種もある。寒さにとても強い。ネハパ・デ・マデロにて。
アガベ ケルチョベイ
アガベ ケルチョベイ(Agave kerchovei)/濃い緑に薄い緑のストライプが入る葉が特徴。披針形の葉が真っすぐに生える。オテロイの近似種で、新種記載の際は4つの近似種(オテロイ、ティタノタ、キオテペケンシス、ケルチョベイ)の一つとして比較された。プエブラ州テワカンにて。
アガベ キオテペケンシス
アガベ キオテペケンシス(Agave quiotepecensis)/オアハカの固有種で、地元では古くから「獅子の尾」の名で呼ばれる。これまで存在は知られていたが、種として記載されておらずようやく2018年に新種として記載された。アガベ オテロイの近縁。プエブラ州テワカンにて。
アガベ ニザンデンシス
アガベ ニザンデンシス(Agave nizandensis)/細長く多肉質な葉を持つ風変わりなアガベ。その葉はとても柔らかく、中心にストライプ模様が入る。乾燥林の林床のような木陰を好み、石灰岩の岩場などに自生する。岩を覆わんがばかりに密集して群生していた。ニザンダにて。
アガベ ストリクタ 'ルブラ'
アガベ ストリクタ 'ルブラ'(Agave stricta 'Rubra')/プエブラ州の山地に自生。とても細長い葉で完全なロゼットを形成する。アガベ ストリアタに似るが、ストリアタよりも葉が強く湾曲し、均整がとれた球状になる。「ルブラ」は葉が赤く染まるタイプ。プエブラ州テワカンにて。
アガベ クプレアタ
アガベ クプレアタ(Agave cupreata)/メキシコ固有の中型種。標高1,500~2,000mの高地のオークの疎林に生育する。日当たりの良い環境を好み、高温、寒さ、乾燥にもかなりの耐性を持つ強健種。テペルメメ・ビージャ・デ・モレロスにて。
ヘクティア マルニエルラポストレイ
ヘクティア マルニエルラポストレイ(Hechtia marnier-lapostollei)/真っ白で肉厚な葉を持つ小型のヘクティア。観賞価値が高く、日本にも古くから導入されて栽培されている種。かなり乾燥した険しい岩場に生えていた。ちなみにヘクティア属は雌雄異株。サンタ・マリア・ハラパ・デル・マルケスにて。
ティランジア アトロヴィリディペタラ
ティランジア アトロヴィリディペタラ(Tillandsia atroviridipetala)/「深緑色の花弁」という意味の名前のごとく、緑の花を咲かせる珍しい種。いくつかの変種もある。数多く見かけたが、開花株に出会うことはできなかった。ほとんどが真下を向いて着生したのも興味深い。テペルメメ・ビージャ・デ・モレロス付近にて。
ティランジア シルシナトイデス
ティランジア シルシナトイデス(Tillandsia circinnatoides)/荒々しいケイバの幹に着生したシルシナトイデス。写真は雨後の濡れた状態なのでわかりづらいが、本来は白いトリコームを纏(まと)う美種。強光下で赤黒く変色した個体も多かった。テオティトラン・デ・フローレス・マゴンにて。
フォークイエリア プルプシー
フォークイエリア プルプシー(Fouquieria purpusii)/メキシコ・オアハカ州とプエブラ州の固有種。極めて乾燥した熱帯砂漠地帯の、石灰岩が露出した丘に生息する。強健で、2mほどの大きな個体でも岩の割れ目などに這うわずかな根系のみで生育できる。サン・アントニオ・ナナウアティパム付近にて。
ペニオケレウス ヴィペリヌス
ペニオケレウス ヴィペリヌス(Peniocereus viperinus)/ブッシュの中に枝を伸ばして生長する、紐状の柱サボテン。見つけづらいが写真中央部がそれ。地中には大きな塊根があり、水を蓄えている。残念ながら開花株には出会えなかったが、美しい真っ赤な花を夜に咲かせる。プエブラ州テワカンにて。
ティランジア テワカーナ
ティランジア テワカーナ(Tillandsia tehuacana)/2007年に記載されたティランジア。薄く白いトリコームがのった葉には筋が入り、強光下では赤く染まる。道中よく見かけたティランジア マコヤナに似るが、葉が革のように柔らかく、花序の形状も異なる。プエブラ州サポティトラン・サリーナスにて。
ヘクティア スファエロブラスタ
ヘクティア スファエロブラスタ(Hechtia sphaeroblasta)/メキシコの固有種でオアハカ州、ゲレロ州、プエブラ州に分布する。細長く尖った葉に、湾曲した大きなトゲをつける。葉は鮮やかに赤く染まり、葉模様は変異が大きく、同じコロニーの中でも様々だった。テペルメメ・ビージャ・デ・モレロスにて。

〈Nimitz il Namiki〉は、ジョセフと調査をともにするチームメイトでもあり、ジェントリーの見つけたアズールの自生地にも案内してもらえた。そこはランチョ・タンボール周辺の車で入れる場所から、さらに片道3時間ほど山道を歩いた場所にあった。

青というより白に近い葉は美しく、鋸歯もヴェルデほどではないが、大きなものがついている。アズールは、ヴェルデとはまた違った、どこかエレガントな魅力を纏う植物だった。

そして、2019年6月、ついにヴェルデは「アガベ オテロイ」として新種記載され、2つのティタノタの物語は幕を閉じた。

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