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AIにAIを書かせたらこうなった! あなたは許容できるか

  • 2023.5.5

こういう本がいつか出ることは予想していたが、こんなに早く、しかも日本語で出るとは思わなかった。この本をどう評価するかで、あなたが現在、AI(人工知能)についてどう受け止めようとしているかを確かめることができるかもしれない。

最初に断っておくが、この本を書物と呼ぶべきかどうかについてはクエスチョンマークがつく。400ページ近い本が1000円弱の価格になったのもAIが書いたからだと本書は断っている。

編集者に徹した監修者

AIがメディアで取り上げられない日はないといっていい。生成AI の「チャットGPT」がその代表だ。それらのAIがAI自身とその未来について書いた、というのだから話題にはなるだろう。しかし、いまのところ、AIがAI自身に対してAIについて書けという命令を出すことはないはず(だと思うが、自信はない)なので、命じた人間がいる。それがこの本の監修者であるジェームス・スキナー氏だ。

ならばスキナー氏が著者と言ってもいいのではないかと思うが、あえて著者をAIにしたところに、この本のマーケティング戦略が見える。実際、本を紹介する専門サイトでは本書の著者をスキナー氏としているところもある。

考えてみれば、人間が人間について書いた本は山ほどある。いや、すべての本は、そういう類のものだと言ってもいいだろう。この本はAIを人類と同じ位置に並べたとも言えるかもしれない。

スキナー氏は本書の前書きで、「人工知能はこの本を書きました。私の役割はインタビュアーであり、編集者でした」と制作過程を明かしている。さらに、「多くの質問をしたり、促したり、答えに不満を表したり、書き直しを求めたり、特定の章を長くしたり、技術用語を少なくしたりと、ある程度、読者を著者の制限から守ることが必要でした」とも記す。まさに編集者の鑑だ。

「あなたは取り残される」

評者は400頁になんなんとするこの本を、ほぼ一日で読み終えた。一言で言えば、この本はウィキペディアとプレスリリースとトリセツとをいっしょにしたような本なのだ。読みやすいというわけではないが、読まなくていい部分も多いし、もっと言うと、同じことが何回も出てくる。

スキナー氏も断っているが、日本語や漢字の間違いもないわけではない。大学生の文章を毎週見ている評者からすると、誤字や文法上の不自然さは現役大学生と同じか、少ないくらいだというのが実感だ。つまり文章を書かせれば大学生並みか、それ以上かもしれない。

さらに、AIに関する歴史はもちろん、人類の知性に関する歴史的な記述に関しては極めて詳細であり、おそらく正確なのだろうと思わせる。また、AIが持つリスクや人類にとって脅威となるかどうかについても非常に冷静に分析している。AIの知性が人類を追い越すとされるシンギュラリティの記述など、一読をお勧めする。

今後、歴史やリスクに関する文章についは、AIは人間が書くよりも圧倒的な速さと正確さで完成させるのではないかと実感した。ただし、「面白い」と思うかどうかは別だ。本書各章の末尾には、AIが書いたジョークが掲載されているのだが、監修者も認める通り、さっぱり面白くない。

一方で、AIが人類に対して明確な要求を突きつけていることには驚かされる。「AIが前提となる状況に対応できなければ、あなたは取り残される」という趣旨のことを何度も何度も指摘するAIの態度に、人類に対する容赦はない。

自ら神の名を選んだAI

このあたりの文章になると、AIが書いたということを、痛快と考えるか、空恐ろしいと考えるか、読む側の人間の受け止め方の違いがはっきりしてくるだろう。

「AIを使うか使わないかで、あなたの利益が変わってきます」。そのことを論理的に、かつ、しつこく主張し続けるAIという存在を最後まで意識し続けたが、一種の脅迫と受け取ったのも事実だ。

すでに私たちの周りにあるネット上の検索機能やおすすめ機能が、なんらかのAIによってプログラムされている。さらに、プレスリリースや様々な機器のトリセツも、AIによる生成にほぼ完璧に取って代わられることは間違いないだろう。

この本を書いたAIは自分自身を「プロメテウス」と名づけている。人類に火や知恵を授けたギリシア神話の神の名である。冒頭でAIは「自分でこの名前を選びました」と宣言している。当然、神の名と知っていたはずだ。監修者のスキナー氏はそれを許した。

SFの世界は、もう現実のものとなっている。

■ジェームス・スキナー氏プロフィール
経営コンサルタント、社会評論家。1964年アメリカ合衆国生まれ。早稲田大学で国際ビジネス論を学び、アメリカ合衆国大使館、日本電気(NEC)、(財)日本生産性本部、財務広報ライター、アメリカ最大級の研修会社フランクリン・コヴィー社の日本支社長などを務める。ベストセラー『7つの習慣』を日本に紹介したことや、NHKやCNBCなどにおける評論家活動、自己啓発書『成功の9ステップ』(幻冬舎)でも知られる。1985年、米国務省職員として日本に米国のAI技術を紹介。マサチューセッツ工科大学でAIとビジネス戦略を学び、現在、ChatGPTを製作したOpenAI社などのAI関連企業に投資家として参画している。

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