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「円安=悪」と言っているのは日本くらい…財務省も日銀もマスコミも絶対に口にしない「隠された事実」

  • 2023.5.5

昨年10月、1ドルが151円台になり32年ぶりの円安水準を更新した。嘉悦大学教授で経済学者の髙橋洋一さんは「マスコミも財務省も『円安は悪い』と言い続けているが、円安(自国通貨安)を悪く言うのは日本くらい。円安になると物価が上昇し、いずれ賃金も上昇する」という――。(第3回/全4回)

※本稿は、髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

右手に円記号、左手にドル記号を持つ手元
※写真はイメージです
円安だからといって憂慮する必要はない

2022年、財務省、金融庁、日銀の幹部が「3者会合」と銘打って度々集まり、「急速な円安の進行を憂慮している」と声明を発表した。

ベースには「円安にしろ円高にしろ、急速に動くのは良くない」という価値観がある。

しかし私から見ると、実際の動向はさほど急速ではなかった。そして、円安だからといって憂慮する必要はまったくない。

結局彼らは「悪い円安」というイメージ作りのキャンペーンをしているに過ぎなかった。

こう断言できるのは、財務省、金融庁、日銀、そしてマスコミが絶対に口にしない「隠された事実」があるからだ。

それは何か?

実は、「円安になるとGDPが上がる」のだ。

「実は」と書いたが、これは世界の常識中の常識だ。日本以外では「実は」でも何でもない。

国にとっても「良い話」のはずなのに

GDPとは「国内総生産」のことだ。

一定期間に国内で生み出されたモノ、またはサービスの付加価値を合計したもので、国の経済状況を表す指標とされている。GDPが前年と比べてどれだけの割合で伸びたかによって、経済成長率が分かる。

要するに、国はGDPを伸ばしたいと思っている……はずなのだ。

そして、円安になるだけでGDPは上がるのだから、どう考えても国にとって悪い話ではない。

ところが、この事実を国はもちろん、マスコミも指摘しないのである。

もちろん、円安によってすべての企業が恩恵にあずかるわけではない。マイナスに作用する企業もある。

特に中小企業は円安を歓迎しないことが多い。

円高がメリットとなる輸入業なら中小企業も参入しやすいが、円安がメリットとなる輸出事業ができるのは世界のエクセレント・カンパニー、いわゆる超優良企業が大半で、中小企業には難しいのが現状である。

ただ、先にもふれたように、円安になるだけでGDPは伸びる。

だいたい10%円安になると、成長率は0.5~1%上がる。

それにより給与も上がる。

1ドル=110円だったドル円レートが130円になれば、2割くらいの円安となるが、このときGDPも2%くらい伸びる。

逆に10%円高になると、0.5~1%、成長率は下がる。

日本は円高が続いたから成長しなかった

マスコミは「32年ぶりの円安だ」と騒いだ。

たしかに、アベノミクスによって最後に少し円安になったが、この30年はおおむね円高だった。だからずっと日本は成長しなかった、それにより給料も伸びなかったのだ。

最近の日本の経済成長率は1.2%(2022年10~12月期(前期比)名目GDP)だが、これはほぼ現状の円安によるというのが、国際機関の予測である。それだけ円安の効果は大きい。

ところが、マスコミも財務省も、「円安は悪い」と言い続けている。正直言って理解不能だ。

円安を悪く言うのは日本だけ

自国通貨安、つまり円安を悪く言うのは、世界広しといえど日本くらいだ。

ほかのどんな国でも、自国通貨安は基本的に受け入れられる。「悪だ」と騒ぐ人はいない。

ただ、自国通貨安は近隣窮乏化につながる――つまり、周りの国のGDPを少し下げてしまうため、結果的に、自国ばかりが良い調子を保つことになり、近隣国から批判を受けることはある。「お前たちだけ得してずるいぞ!」というわけだ。

しかし、国内から、「歓迎すべき円安だ」「金融緩和を継続すべし」という声が上がってくることは、ほぼない。

それどころか、「円安を放置する政府は、けしからん」「金融緩和を続けているのは日本だけだ。早く引き締めを」の大合唱だ。これを売国奴と言わずして、何と呼べばいいのか、私は寡聞にして知らない。

円安になればGDPが増える。景気が良くなれば税収も増える。国にとっても良いことずくめだろう。それなのに、なぜか財務省も、金融庁も、日銀もそこに触れない。どの媒体を見ても、どこにも書かれていない。

彼らはなぜ、頑ななまでに「円安=悪」と言い続けるのだろう?

先ほど「後で説明する」と前振りしたが、ここでお話ししよう。

円が下がって、ドルが上がっていることを示す為替相場
※写真はイメージです
自然増収では手柄にならない財務省

なぜなのか。

それは、彼らが所属しているのが基本的に緊縮政策をとりたい人の集団だからだ。

緊縮政策が良いか悪いかという議論などいちいちせず、「緊縮政策こそ正しい」と何十年も、しかも何世代も前から心から信じている人たちの集団なのだ。緊縮政策以外に取るべき方法はないと刷り込まれているから、他の方法を検討しようとしない。

さらに、もし景気が良くなって自然に税収が増えたとしても、財務官僚にとってはあまり意味がない。自然増収は、まったく自分の手柄にならないからだ。

これがすべての根本である。

大事なことなので、もう一度言おう。

自然増収は手柄にならない。

だから企業収益が上がり法人税が増えても、手柄にはならない(企業収益を上げる意味では、円高よりも円安が望ましいのは前述の通りだ)。だから円安を続ける政策など打たない。

手柄になるのは何か。

税率を上げることだ。

「税率アップによる税収増」になって初めて、手柄と言える。これが彼らの行動原理だ。

「税率アップしか手柄にならないからやらない」

営業マンにとって、売上アップは手柄になる。手柄になることをやるのが営業マンの行動原理だというのと同じと考えてもらうと、分かりやすいかもしれない。

ただし、営業マンが売上を上げるのは正しいが、国益を損ねる政策は許されない。

私はこういう行動原理が隅々まで浸透している組織(財務省)で数十年過ごしてきたからよく分かる。

入省した1980年から40年以上にわたって、今この本に書いているのとそっくり同じことをくり返し主張してきたが、残念ながら何も変わらなかった。

「税率アップしか手柄にならないから、やらない……そんなことでいいのか!」と、天を仰ぐ読者が多いだろう。私も同感だ。だからこそ、さまざまなところで発信を続けている。

皆が本当のことに気づき始めている

まだまだ道半ばだが、希望はある。

2000年代の頭ごろから、徐々にではあるが変化が出てきた。

国会議員の中にも、財務省や日銀の主張に対して疑問を持つ人が、ちらほら出てきたのである。

自民党内に「積極財政の会」が立ち上がったのも、歓迎すべき変化であった。いまだ小規模な変化ではあるが、財務省に騙されない人たちが増えているようだ。

地上波では絶対に流れることがない私の主張も、Youtube「髙橋洋一チャンネル」などの動画配信サイトやTwitterなどによって多くの人に届けられるようになったのも良い傾向だ。だんだん皆が、本当のことに気づき始めている。

「値上げイコール悪」ではない

最近、さまざまな商品やサービスの価格高騰が話題になっている。次々と値上げが実施されて、家計の負担となっているのは確かだ。

ただ、「値上げイコール悪」ではないことは、知っておいた方がいい。

現状、値上げの大きな要因には、ポストコロナで経済活動が活発化したことがある。

コロナ禍で停滞していた物流、人流が少しずつ戻ってきた。需要が増せば物価が上がるのは自然なことだ。

そもそも、物の値段が上がらなければ、日本はずっとデフレのままということになる。物価は安いままだが、給与も上がらない。これは望ましい状態ではない。だからこそ日本は長年、デフレ脱却を目指してきたわけだ。

物価高が給料に反映されるまでにはタイムラグがあるので、しばらくは家計が苦しいかもしれないが、いずれ賃金も上がってくる。

インフレ率が2%になると賃金は3%上昇

基本的に、インフレ率が2%に近くなると、賃金の上昇率は3%に近くなるとされている。物価も賃金も両方上がっていくなら、値上げに動揺することもないだろう。

もし、値上げが進んでいるのに、いつまでたっても賃金が上がらないなら、これはたしかに「おかしいぞ」ということになる。

しかし、物価が上がった時点で「ヤバいぞ!」「金利を上げろ」と騒ぐのはおかしい。特に、滞っていた経済活動が復活の兆しを見せている現状を考えれば、騒ぐようなことではないと分かる。

「円安による物価上昇で、1世帯あたり9万6000円、負担が増える」といった記事がいろいろなところで出ている(2022年12月)。日本全体でおよそ5兆円だ。

一方で、企業の収益は過去最高で28兆円と報じられている。

差し引き23兆のプラスだ。しかし、この点についてマスコミは触れない。

私たちはこういう情報空間で「悪い円安」と刷り込まれているのである。

「負担増が5兆円か。ではプラス面はどのくらいだろう、企業収益は?」という視点を持っていれば、円安を悪と決めつけることがいかに間違っているか、すぐに分かるのだ。

逆にいえば、その視点を持っていないと、マスコミの論調に乗せられることになる。

物価上昇は給与アップにつながっていく

物価の上昇は、一時的には家計を圧迫するだろう。視聴者目線でメディアが騒ぎ立てるのも仕方がない面もある。

髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)
髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)

だが、物価は「上がって終わり」ではない。そこから成長率のアップ、給与のアップへとつながっていくのだ。

しかしマスコミはこの点には触れない。「円安→物価上昇」でストップして「悪い」と騒ぎ立てる。連続ドラマの第1話だけ見て結論づけるのと似ている。皆さんは、こういう報道に踊らされないでほしい。

長い目で見れば、ある程度までの物価上昇は、日本経済が良い方向へと進んでいる証拠だ。先に説明した高圧経済をとるべき状況でなければ、2%程度までなら失業率も上がらないのでGOODなのである。

物の値段が上がらず、経済が停滞したままの方がずっと悪いのである。

髙橋 洋一(たかはし・よういち)
嘉悦大学教授
1955年東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省(現財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員を経て、2006年から、内閣府参事官、内閣参事官等を歴任。小泉内閣・安倍内閣で経済政策の中心を担い、2008年で退官。金融庁顧問、株式会社政策工房代表取締役会長、2010年から嘉悦大学経営経済学部教授。主な著書に、第17回山本七平賞を受賞した『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)などがある。

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