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「日銀黒田前総裁はもっともっとやれば良かった」経済学者が指摘する日本の賃金が上がらない本当の理由

  • 2023.5.4

なぜ日本人の賃金は上がらないのか。嘉悦大学教授で経済学者の髙橋洋一さんは「世の中に出回るお金の量が増えるほど名目GDPも賃金も上がることがわかっている。日銀前総裁の黒田東彦氏も最初は頑張っていた。強力な金融緩和策を何度も打ち出し、『黒田バズーカ』なる言葉まで生み出したほどだ。だが、それでも足りなかった」という――。(第2回/全4回)

※本稿は、髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

高層ビル群からまかれ、舞い降りてきている大量の一万円札
※写真はイメージです
「インフレはイヤ」「でも給料上げろ」は矛盾

2022年から、たくさんの商品が次々と値上がりしている。一般家庭のお財布事情に打撃を与える事態だったことは間違いない。

もっとも、値上がりそのものは、経済学的に見ればあくまで妥当なものだった。

どういうことかというと、コロナ禍において、経済活動はずっと押さえつけられてきた。人々は長い期間、家にこもって過ごしたため、バスの便数が減らされた。旅行にも行けず、航空会社は便を減らさざるを得なかった。

しかし、ワクチン接種の広まりもあって、行動規制も次第に緩和されていった。ポストコロナで経済はじわじわと戻っていったのである。

コロナ前ほどではないにしろ、出かけたり、会食したり、打合せや会議を対面でもできるようになった。

人が動けばエネルギーの消費が増えるから、ガソリンが値上がりした。

商品がたくさん売れるようになり、価格も上がった。

停滞していた経済活動が活発化していく中で、物の値段が上がっていくのは普通のことだ。

しかし、一連の流れについての説明はされず、ただ「物の値段が上がった」ことだけがフォーカスされていった。ほんの一部だけを切り取って、全体を見ている気になっている人が多すぎた。

2022年はロシアのウクライナ侵攻によって、燃料や資源、食料品(小麦製品)など、種類によっては入手が難しくなるものもあった。これが原因でさらに値上がりする例もあり、より厳しい状況になったという側面もあっただろう。

ただ、それまでは「デフレは問題だ」と言っていたのに、ちょっとでも何かが値上がりすると「庶民に大打撃」と大騒ぎしてみせるマスコミにはうんざりしたものだ。

インフレにならないと給料は上がらない

そもそも、物の値段が上がらないことには、給料も上がらないことをご存知だろうか。

物価上昇が賃上げに反映されるまでに多少時間はかかるが、物価の上昇と給料の上昇は、基本的にパラレルなのだ。

だから、2つに関する情報は関連づけて報道しなければ、正しいことは伝わらないのである。

「物価上昇は、けしからん」と怒りながら、「日本だけ給料が上がっていないではないか」では、筋が通らないのだ。「朝から晩まで好き放題に食べまくりながらやせたい」と言っているのと同じだ。

インフレ率と賃金の上昇率は並行して上がる

インフレなくして、給料は上がらない。

総理が企業に賃上げを要請するに及び、私は天を仰いだ。

財政政策によりインフレの状況を作れば、給料は上げられるのだ。

利上げや増税という正反対の政策を、財務官僚に言われるがままに始めておいて「賃上げを」など矛盾もいいところ、笑止千万である。

インフレ率が2%に近づいていくと、賃金の上昇率は3%に近づいていく。過去の例を見ると、少し時期がずれることはあるが、基本的には2つが並行して上がっていく。

そして、インフレ率より、賃金の上昇率の方が少し高い。これは普通のことだ。

ところが、両者をリンクさせて考えない人があまりに多い。

さらにおかしなことに、「インフレ率2%を達成していないじゃないか!」と怒っていたマスコミが、「物価が上がりすぎている!」と、やっぱり怒るのである。

一体どうしたいのだろう? あまりにちぐはぐなのだが、その滑稽さに自分ではまったく気づいていない。

こういう情報が、「権威ある経済紙」に堂々と載っている。テレビでも流れてくる。それを見ているだけでは、「経済なんて分からない」と思うのは当然だろう。正しい情報に触れた人だけが、状況をしっかり見極められるのだ。

なぜ日本だけ賃金が上がらないのか

日本はここ20年近く、賃金が上がっていない。

逆に世界の国々では、だいたい10年くらいで賃金は2倍近くに上がっている。

他国は上がっているのに、日本だけ上がらない(図表1)。

一体なぜなのだろうか?

【図表】OECD加盟国の平均賃金の推移
髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)より

この点について正確に理解するには、やはりGDPについて正しく押さえておく必要がある。

ご存知のように、GDPとは国内で生産されたモノやサービスの付加価値を表す国内総生産のことだ。

「名目GDP」は、その生産数量に市場価格をかけて生産されたものの価値を算出し、すべて合計することで求める。

一方、ここから物価の変動による影響を取り除いたものを「実質GDP」という。

日本だけ名目GDPが横ばいであるワケ

名目GDPは、世界196カ国のうち、日本だけがこの20~30年、ほぼ横ばいになっている(図表2)。

【図表】名目GDPの推移
髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)より

なぜ日本だけ横ばいなのか。

逆に言えば、日本以外の国の名目GDPが上がっているのは、どのような要因によるものなのか。

もし関連する要因があるのなら、その要因を横軸に、名目GDPを縦軸にとって20~30年分のデータを基にグラフを描けば、おおよそ右肩上がりの線を描くはずである。

そこで、考えられるさまざまな要因の一つひとつについて、これを横軸に、縦軸に名目GDPをとり、20~30年にわたる推移をすべて検証したところ、1つだけきれいな線を描く要因を見つけた。

それは、「お金」の伸び率である。

名目GDPが低いのも給料が上がらないのも日銀のせい

つまり、世の中に出回るお金の量が増えるほど、名目GDPの数値も伸びることが分かったのだ。世界196カ国すべての30年分のデータを調べたところ、この2つの関係性は明白であった。

名目GDPの伸び率は、お金の伸び率で決まる。

では、お金の伸び率を左右しているのは誰なのか?

日銀である。

つまり、日本の名目GDPが低いのも、給料が上がらないのも、ぜんぶ日銀が原因なのだ。

ちなみに、お金の伸び率についても各国がデータを出しているが、これらを比較して順番を並べると、日本は世界でほぼビリだ。

お金の伸び率でビリ。

だから、名目GDPの伸び率でビリ。

その結果、賃金の伸び率もビリ。

これが日本という国なのである。

そして、お金をどれだけ刷るか刷らないかは日銀の管轄なのだから、全部、日銀に原因があるのだ。

日本銀行
※写真はイメージです
「ハイパーインフレになる!」と騒ぎ立てたマスコミの罪

原因が分かったのだから、解決策は単純明快である。

給料を上げるためには、日銀にたくさんお金を刷ってもらえばいい。

実際、日銀総裁の黒田東彦氏も最初は頑張っていた。強力な金融緩和策を何度も打ち出し、「黒田バズーカ」なる言葉まで生み出したほどだ。

だが、それでも足りなかった。

そもそも20年以上、日本のお金の伸び率は悲惨な状況だったのだ。

20年サボり続けたものが、数年で挽回できるはずがない。もっともっとやれば良かったのだが、黒田総裁の勢いも尻すぼみになってしまった。

さらに邪魔をしたのがマスコミである。

日銀が金融緩和策としてお金を刷るたびに、「このままではハイパーインフレになる!」と、散々に騒ぎ立てた。

髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)
髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)

結果を見てみればいい。この30年、日本がハイパーインフレになったことなど一度もない。お金を刷れば条件反射のように「ハイパーインフレ」を連呼し始める「ハイパー野郎」たちは、全員間違え続けているのだ。

そもそも日本は、長年デフレ下にあったのである。デフレを脱却しようとしている最中に、ハイパーインフレの心配をすることのちぐはぐさが分からない人間が多すぎる。

しかも、論理的に破綻していることを著名ジャーナリストが、さも正しそうに知識人ぶってテレビで言うから困ったものだ。

結果的に、日本の賃金は長い間上がらず、日本は貧しくなっていった。

ウソをばらまいたマスコミ、そして間違った見解を垂れ流した「ハイパー野郎たち」の罪は重い。

髙橋 洋一(たかはし・よういち)
嘉悦大学教授
1955年東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省(現財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員を経て、2006年から、内閣府参事官、内閣参事官等を歴任。小泉内閣・安倍内閣で経済政策の中心を担い、2008年で退官。金融庁顧問、株式会社政策工房代表取締役会長、2010年から嘉悦大学経営経済学部教授。主な著書に、第17回山本七平賞を受賞した『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)などがある。

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