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難しい文章を読む、理解するのが苦手な人に勧めたい一冊。

  • 2023.5.3

「東大・MBA・コンサルで通用する思考技術は、小学校の国語で学んだ」という本の帯にひかれて手にしたのが、本書『思考の質を高める 構造を読み解く力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)である。複雑な文章や物事を理解するのに時間がかかる、と悩んでいる人に勧めたい内容だ。

著者の河村有希絵さんは、東京大学法学部卒業後、ボストンコンサルティンググループに入社。アメリカの大学でMBA取得。その後、コギト・エデュケーション・アンド・マネジメントを創業し、「構造学習」をベースにした言語教育を研究・展開している。

コンサルティング会社で河村さんが評価されたのは、構造的なインプット・アウトプットを意識せずに行っていたからだという。そして、それは小学校の国語の読解の授業で身に付けたことに気が付いた。

自分をこんなにも助けてくれている、あの授業はなんだったのか? 恩師を訪ね、それが「構造学習」というものであったことを知った。

本書は構造学習の解説に始まり、具体的な文章に即して、「論理を読み解く」「人物の心情を読み解く」「思考を組み立てる」という構成になっている。

構造学習は戦後、当時の文部省調査官だった沖山光が提唱した学習理論だ。一時は公立小学校を中心に全国で広く行われていたという。以下のような流れで授業は進む。

「段落に番号を振り、内容にまとまりのある段落をまとめて全体の文章をいくつかに分け、文章のテーマは何なのかを大きくつかむ(第一構造)、そのテーマに向かって、段落のまとまりごとの要点を整理し、段落間の関係性を中心に図示するなど、文章の構造を考える(第二構造)、結果として、その文章がどのような文脈でそのテーマに対して答え、結論を出しているのかをつかむ(第三構造)」

構造学習を研究するため、河村さんは、2021年4月、東京大学教育学部に学士入学した。そして、基本的に初等学習の教育理論であり、現在は限られた小学校でしか実践されていないことを知った。「それではもったいない」と、大人の仕事や生活にも有効であることを示そうと書いたのが、本書である。

読解力の訓練のため、「大人の教材」として勧めているのが、新聞の社説だ。アメリカで開かれたテクノロジー見本市を取り上げた、日本経済新聞の社説を題材に、キーセンテンスを探り、図式化している。

ビジネス雑誌の記事などは、「読みながら、その先を類推すること、主旨をつかむことを、意識的に行えばよい」と書いている。その際、「これは例示だな、このことを言うための例だな」など、今読んでいることが文章全体の中で果たす役割まで意識できれば十分だという。

物語文を読むことは「人を読む力」になる

本書で興味深いと思ったのは、物語文を読み解く効用にふれていることである。小説への入り口であることもさることながら、物語文を読むことで、「人物像を読み取ること。場面、場面における登場人物たちの心情を読み取ること。その場の空気を読み取ること」ができるというのだ。それは、実生活に生きる力になるとも。

『ごんぎつね』を素材に、読解に正解、不正解はなく、いろいろなものの考え方や感じ方があることを知り、それが大人の場合、会議や交渉で「人を読む力」になり、役立つという。

善悪は関係として相対的であり、利害はなかなか一致せず、人にはそれぞれの事情があり心情があるのだ。

この「人読み力」を鍛えるには、気に入った小説の主人公や、気になる脇役の心情を、ある一文におけるシーンについて口語で書いてみることだという。書かなくても、心の中でつぶやくだけでもいいそうだ。

演劇が好きな人は、戯曲もお勧めだ。セリフとは異なる心情が潜んでいることもある。映画「ドライブ・マイ・カー」の劇中劇に登場したチェーホフの戯曲は、脇役の心情を推し量るのに適しているそうだ。

最終章は「思考を組み立てる」。思考するということのかなりの部分は「構造化」にある、と指摘している。推薦状を書くことを例に、文章構造を組み立てる例を挙げている。

問題は、「読み手が何を求めていて、そこに当てはまることをどうわかりやすい構造で伝えるか」だ。

実務での実践と訓練として、議事録とレポートの作成を紹介している。「なるほど」と思ったのは、「議事録メモは、必ずしも時系列に書かない」ということだ。

会議の場合、議題やアジェンダがいくつか決まっていて、その順に進行することが多いので、その順に書くのがわかりやすいが、その時もアジェンダごとに決定事項など、重要な要素を抽出して、根拠となる話し合いの経緯を提示することが、思考訓練になるという。

議事録を書くのを苦痛と思わず、素晴らしい訓練の機会だと思い、引き受けようと勧めている。

さらに、プレゼンは絶好の訓練の場となる。仕事も思考の訓練ととらえる、著者のポジティブな生き方に大いに刺激を受けた。論説的な書籍の書評を書くことも読解力の向上になるという。評者も大いに勇気づけられた。

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