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予約分は既に満席。『エルメスのpetit h―プティ アッシュ』展の魅力に迫る。

  • 2023.5.2

ものづくり、素材の再利用、サステナビリティをテーマに、エルメスの創造の世界を広げるプティ アッシュ。ほかの部門で使われなくなった素材をクリエイションの源に、職人やアーティスト、デザイナーたちの自由な対話から生まれる多彩なオブジェの数々が今、大阪中之島美術館に上陸中! 開催にあたってのカギを握る人物、クリエイティブ・ディレクターのゴドフロワ・ドゥ・ヴィリユーとセノグラフィーを手掛けた河原シンスケに見どころ、そして想いを聞いた。

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1Fの展示会場にてアーティストの河原シンスケとクリエイティブ・ディレクターのゴドフロワ・ドゥ・ヴィリユー。河原の後ろは、河原が手がけたプレシャススキンを使ったオブジェ。photo ⒸHiroaki Kishima

レザー、シルク、クリスタル、陶器、金属パーツ……。最上の品質を追求するエルメスだからこそ、ほんの少しの傷や欠陥などで棚に眠ることになってしまった多種多様な素材。プティ アッシュのアトリエは、それらを組み合わせ、独創的で遊び心あふれるオブジェを生み出す発想の実験室だ。2010年にエルメス家の6代目であるパスカル・ミュサールが設立して以来、さまざまなアーティストとコラボレーションをしながら旅するように各国を巡ってきたこの展示。2011年の銀座、2015年の京都に続いて、日本では3回目となる展示会が現在、期間限定で大阪中之島美術館で開催されている。

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プティ アッシュの森に飾られた、自由な発想から生み出されたユニークなオブジェたち。photo ©Nacása & Partners Inc.
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自然光が差し込む2階には大きな鯉のぼりが登場。中はプティ アッシュのアトリエを再現した造りで、実際にシルクやレザー、金属パーツなどを触ることができる。photo ⒸHiroaki Kishima

ものづくりや今回の展示会について語ってくれたのは、2018年よりクリエイティブ・ディレクターを務めるゴドフロワ・ドゥ・ヴィリユー。初期段階からアーティストとして参画し、ユニークなオブジェを作り出してきたキーパーソンだ。

「設立者のパスカルの夢は、さまざまな部門で使われなくなった素材を前にアーティストやデザイナー、職人が集まって意見交換をし、職人技を結集して新しいものを創造することでした。いまでこそサステイナブルな取り組みは一般的になっていますが、メゾンのベースは最上の素材であり、そこから作り出すオブジェは長く使い続けられ、修理可能なもの。プティ アッシュについても同じ考えで、修理しながら長く使えるオブジェを作っています。日常生活の中で生かされ、楽しんで使ってもらえるようなもの、オブジェと使う人との関係性が築けるようなものです」

チームは職人10人を含む30人で構成されるが、新たなエネルギーや発想のヒントを与えてくれるアーティストとの出会いも大切にしているという。その時に重要視するのが “人間関係”だとゴドフロワは語る。

「チームが小さいからこそ、みんなで話し合いながら一緒になってものづくりしています。一緒にやる方々とも、きちんとコミュニケーションが取れて、アトリエの取り組みを理解してもらい、職人ともうまく仕事ができれば、よりいい仕事ができると思っています。たとえば、10年近く一緒にやっている日本人アーティストの河原シンスケがアトリエに来たら、みんな喜びます。一緒に仕事をする人たちとこういう関係性を持てることはとてもよいこと。仕事と言いながらすごく楽しんでやっているし、楽しむことによっていい仕事がいっぱいできるからです」

ユーモアや楽しさ、驚きに満ちたプティ アッシュのコレクションを見ていると、まさにアトリエの和気あいあいとした雰囲気が伝わってくるよう。

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左:レザーパーツで革張りをした犬のサイドテーブル。天板は取り外せる。右:大阪・新世界にあったふぐ店からインスピレーションを得たバランスボール。青い部分は日本の藍染。photo ©Nacása & Partners Inc.

本展の会場は2022年にオープンしたばかりの大阪中之島美術館。美術館での展示はプティ アッシュにとって今回が初めてのこと。展示は2層に分かれ、2階ではパンタンにあるアトリエを模した空間と、ものづくりのプロセスがわかるような展示、1階はプティ アッシュの最新コレクションが並ぶ予約制の展示販売フロアとなっている。サル、ウサギ、カエルが飛び回り、メゾンを象徴する馬が闊歩するようなファンタジックなセノグラフィーを手がけたのは、くだんの河原シンスケだ。

「初めての日本の漫画である12世紀の鳥獣戯画をモチーフにしました。日本ではポピュラーだけど、フランスやヨーロッパにはいないサルを日本の象徴として、ウサギとカエル、そしてエルメスを象徴する馬がフランスからプティ アッシュという夢のような世界を運んでくるのをサルが迎えるというストーリーです。美術館のモダンでクリーンな空間に、人間的でハッピーでユーモアがあるプティ アッシュの世界観をどのように作るかが課題でした。そこで、舞台美術のような書割で、角をなくしたり、アシンメトリーにして、プティ アッシュの森のような空間を作りました」と河原。

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サルや馬の巨大な張り子はねぶた祭りから着想。画面上にはシルクの鯉のぼりがたなびく。photo ©Nacása & Partners Inc.

会場で存在感を放つそれぞれの動物の大きな張り子は、ねぶた祭りからインスピレーションを得たもので、河原が客員教授を務める京都芸術大学の学生らが手掛けたものだそう。

来場者は森の中の散策を楽しむかのように、ひとつひとつのオブジェを見て回ることができる。小さいものから巨大なものまで多彩に揃うコレクションの中には、阪神タイガースのトラモチーフのチャーム、新世界のふぐ専門店「づぼらや」のフグをモチーフにしたバランスボールなど大阪へのオマージュを表現したものや、エビや大根のレザーチャームがついた弁当箱、シルクの鯉のぼり、古布の藍染をパッチワークしたオータクロアなど日本ならではのものも。これらは前年にコドフロワが来日した時にインスピレーションを受けて誕生したという。

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上段のレザーの花を飾った花器は河原の作品。下段の茶筒とうつわは京都の開化堂とのコラボレーションで生まれた、アフタヌーンティのセット。photo ©Nacása & Partners Inc.

「すべて自慢のコレクションですが、今回、初の試みとして、京都の伝統工芸の老舗である開化堂とコラボレーションして作ったアフタヌーンティーのうつわがあります。アトリエがローカルな職人技とつながることができたのは初めてのことで、本当に素晴らしい出会いでした。海外の職人技とのセッションは、これからもどんどんチャレンジしていきたいです」

会期中、会場の一角では子ども向けのワークショップ(予約制)も。プティ アッシュのアトリエからお裾分けしてもらったシルクやレザーなどを使って、オリジナルのノートブックを作るというものだ。素材に触れ、発想を膨らませる。アトリエのクリエイティビティの一端に触れられるような内容になっているのが心にくい。プティ アッシュの世界観を存分に楽しみながら、素材の価値や発想の転換に思いを巡らせるような本展。ぜひ大阪まで足をのばして、実際に体験してほしい。

会期:〜 5月18日(木)(定休日:5月8日(月)、5月15日(月))会場:大阪中之島美術館(住所:大阪府大阪市北区中之島4-3-1)営:10:00〜18:00観覧料:無料www.hermes.com/jp/ja/story/192546-petit-h-event/

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