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『嫌われる勇気』の著者が教える、あなたの悩みがなくならない理由

  • 2023.5.2

人間関係がうまくいかない、忙しくて心に余裕がない、将来が不安だ......。生きていれば、悩みは尽きない。誰かに相談したり、本を読んだりして一時的に気持ちが軽くなることはあっても、悩みがなくならないのはなぜだろう。どうすれば悩まずに生きられるのか。この本を読めば、その答えが自ずと見えてくる。

現代人のお悩みトップ30

岸見一郎さんの『泣きたい日の人生相談』(講談社)は、2017年から「クーリエ・ジャポン」で連載している「25歳からの哲学入門」から30回分を厳選してまとめたもの。

「厳選して」というだけあって、本書に採用されているのは、現代人のお悩みトップ30とも言うべき「あるある」なものばかり。「毎日やらなければならないことが多すぎてストレス」「人にいい顔ばかりしてしまう自分にうんざり」「歳をとるのが怖い」「上司が嫌い」「恋人とセックスレス」「我が子への接し方がわからない」......など、お悩み自体はほかの人生相談本とさして変わらないのだが、異なるのは、本書の回答が哲学をベースにしている点だ。

著者の岸見さんは、ギリシア哲学とアドラー心理学の研究者であり、哲学者。ベストセラーになった『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)の著者と聞けば、ご存じの方も多いだろう。本書でも、一貫して哲学の観点から悩みの本質を追究し、相談者が「本当はどうしたいのか」を分析したうえで、悩みを解消するには何をすれば(しなければ)よいのかを、淡々と述べている。

30の悩みは、「自分のために生きる心得」「人生の苦悩と向き合う」「人間関係のストレスを乗り越える」「恋愛・結婚の哲学」の4つに分類されているが、その多くに共通しているのは、悩みを抱えている人はそれが何であれ、「悩んでいる」という状況から抜け出すことを自ら拒んでいるということだ。

「自己肯定感が低い」の思い込み

たとえば、「どうしたら自分のことを好きになれますか?」という悩み。自己肯定感が低いのは、「子どもの頃、親や周囲の大人からダメ出しされ続けてきたから」と人は言う。もっともらしい理由だが、岸見さんは、「ネガティブなことを言われて育った人が皆、自分のことが好きでなくなったかといえば、そうではありません」と指摘する。誰にも嫌なことを言われずに育った人などいないからだ。

では、自己肯定感を持てる人とそうでない人との違いはどこにあるのか。岸見さんはそれを「自分を好きになるかならないかを自分で決めているから」だと説明する。

失敗するのが嫌だからやらない、傷つきたくないから人と関わらない。一歩を踏みだす勇気を「持てない」のではなく、「持ちたくない」人は、「自分には価値がないから(やらない)」「自分のことが好きじゃないから(そんな自分を相手が好きになるはずがない)」と自分に言い聞かせる。なぜなら、自分を好きになると決めたら、勇気を持たない理由がなくなってしまうから。自分を好きではないほうが、なにかと都合がいいのだ。

「本当は自分のことを好きにならないために理由は要らないのです。自分を好きにならないでおこうと決心をするために、理由を作り出しているだけだからです。」

岸見さんはこの後、他人の評価ではなく自分自身の「決心」を覆すために何ができるのかを、アドラーの言葉も用いながら、理路整然と説いていく。そして最後には、「どんな自分も好きになれるはずです」と希望の言葉で結んでいる。

同様に、なりたい自分になれない、人間関係が上手くいかないといったことから派生するさまざまな悩みの根本にあるものは、現状にとどまっていたいがために、できない理由をあれこれと探している自分自身なのだと気づかされる。

本書の冒頭で岸見さんは、回答にあたっての基本的な考え方として、「人は変わりうるということ」「これから先に何が起こるかは決まっていないということ」「今ここでしか幸せになれないということ」の3つを挙げている。

寄り添うでも諭すでも、発破をかけるでもない。そういう点では、人生相談本に癒しや共感、励ましを求める人には向かないかもしれない。本書は、本気で悩みを解消したい人に向いている。タイトルに「泣きたい日の」とあるが、読めば涙がひっこむことは確かだ。深く自省を促される、人生相談という名の哲学書である。

<本書のおもな人生相談>
●「新しい自分」になるにはどうしたらいいのでしょうか。
●人にいい顔ばかりしてしまう自分にうんざりします。
●どんな状況も乗り越えられる、強いメンタルが欲しいです。
●人生のすべてが心配です。貯金もなくパートナーもいません。
●老後が気がかりです。何歳まで働かないといけないのでしょう。
●情熱を傾けるものがなく、人生の目標もありません。
●どうしたら嫌いな人とストレスなく付き合えますか。
●やりたくない仕事にどうやって向き合えばいいのでしょうか。
●とにかく月曜日や連休明けが憂鬱で仕方ありません。
●セックスレスで悩んでいます。もう二人は手遅れなのですか。
●誰かを「愛する」というのは、どういうことなのでしょうか。

■岸見一郎さんプロフィール
きしみ・いちろう/1956年生まれ。哲学者、心理学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。奈良女子大学文学部非常勤講師などを務める。専門のギリシア哲学研究と並行してアドラー心理学を研究。ベストセラー『嫌われる勇気』(古賀史健との共著、ダイヤモンド社)のほか、『アドラー 人生を生き抜く心理学』(NHKブックス)、『生きづらさからの脱却 アドラーに学ぶ』(筑摩選書)、『哲学人生問答 17歳の特別教室(講談社)、『人生は苦である、でも死んではいけない』(講談社現代新書)など多数の著書がある。

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