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ゴールデンウィークもまだ間に合う。「KYOTOGRAPHIE 2023」の見どころをレポート!

  • 2023.4.29
KYOTOGRAPHIE展示風景

今年も京都を舞台に開催される国際的な写真の祭典「KYOTOGRAPHIE」が始まった。11回目を迎えた今回は「BORDER(ボーダー)=境界線」というテーマのもと、ユニークな展示が開催されている。

展示される写真はもちろんであるが、古都ならではのロケーションを活かした展示にもこの写真祭の魅力があるように思う。今回も多様な「写真表現」と接することを楽しみながら、京都の町を巡ってみた。

高木由利子

二条城・二の丸御殿で開催されているのが高木由利子の「PARALLEL WORLD」。1980年代からファッション・フォトグラファーとして活躍してきた彼女は、衣服と人体の関係に着目し、かねてより撮り続けてきた民族衣装を纏った人々と、最新の〈ディオール〉のオートクチュールの撮り下ろしを含むファッション・フォトグラフィーのアーカイヴが空間をまたがるようにしてパラレルに展示されている。天井高のある空間を活かして展示された特大サイズのデジタルプリントから、障子紙や、自ら塗った漆喰へのプリントまで、田根剛による空間設計とともに、その展示のスケールに圧倒される。

高木由利子「PARALLEL WORLD」
高木由利子「PARALLEL WORLD」会場:二条城・二の丸御殿
高木由利子
写真家の高木由利子。二条城での展示のスケール感に圧倒される。

ココ・カピタン

ロンドンとマヨルカ島をベースに活動するココ・カピタン。ラグジュアリー・ブランドとのコラボレーションをはじめ自らファッション・アイコンとしても知られる彼女は、今回展示される作品制作のために昨年の秋から2カ月間、京都に滞在し、この町の若者のリアルを写したという。「Ookini」と題された一連のシリーズでは、京都ならではの伝統的職業を継ぐ若者や、吹奏楽部の面々、スケートボードを楽しむチームなどを様々なフォーマットで撮影している。ココ特有のぬめっとした厚塗りのカラー表現で生々しく写し撮られる青春。中でも大西清右衞門美術館でアネックス展示されている釜師を継ぐ大西少年と仕事道具にフォーカスした展示にはその濃厚な世界観をにじませている。

ココ・カピタン「Okini」
ココ・カピタン「Ookini」会場:ASPHODEL、大西清右衛門美術館
ココ・カピタン「Okini」
大西清右衛門の17代目にあたる清太郎のポートレートを撮影した、ココ・カピタン。

ジョアナ・シュマリ

今回、アーティスト・イン・レジデンスとして京都に滞在して作品を作ったもう一人のフォトグラファー、アーティストがコートジボワールからのゲスト、ジョアナ・シュマリ。平面的な写真にカラフルな刺繍を施したり、何枚もの薄い布をレイヤードしていくというような奇抜な発想と手法で、写真表現の次元をあげようとする試みがなんとも斬新に映る。建仁寺の両足院では、毎朝夜明けの町を歩き、観察し、キャプチャーした写真に加工を加え、ファンタジックな絵画のようなムードの作品が並んでいる。また、彼女が滞在していた出町柳商店街のアーケードとKYOTOGRAPHIEのギャラリースペース「DELTA」には、故郷コートジボワールと滞在した商店街の遥かな時空を超えた繋がりを感じさせる作品群がアーケードのバナーとして彩りを加えていた。

ジョアナ・シュマリ「Alba’hian」「Kyoto-Abidjan」
ジョアナ・シュマリ「Alba’hian」「Kyoto-Abidjan」会場:両足院、出町枡形商店街(バナー)
ジョアナ・シュマリ「Alba’hian」「Kyoto-Abidjan」
両足院の見るものを引きずり込む繊細な展示。

デニス・モリス

ボブ・マーリーやセックス・ピストルズなどを撮影し、レジェンダリーな存在のデニス・モリスは彼が育った60~70年代のイギリスの黒人コミュニティの様子をリアルに捉えた写真、そして被写体のエネルギーを写し込んだポートレートの数々まで、その代表作が贅沢に並んだ展示となっている。今回プレスツアーで巡った際に、会場にご本人がいらして、自らの言葉で作品を解説し案内してくれた。まさか来日されているとは知らなかったので、嬉しいサプライズとなった。会場の一角には白いシーツを垂らし、一灯だけの照明を立てたかつてのホームスタジオを再現するなどの趣向もある。アニエス・ベーのサポートで実現したというキッチュな展示で、カフェも併設した「世界倉庫」にはくつろいだムードが漂っていた。

デニス・モリス「Colored Black」
デニス・モリス「Colored Black」会場:世界倉庫
デニス・モリス「Colored Black」
展示会場には実際にサウンドシステムなども展示されている。

石内都、頭山ゆう紀

石内都が2人展のパートナーとして指名したのは頭山ゆう紀。石内が母の遺品を写した「Mother’s」の写真と空間を交錯するように、頭山の湿度の高いプリントが並ぶ。祖母が亡くなるまでの介護の日々に撮られた写真だという。祖母の死後、母とも死別することになったという頭山。奇しくもこの展示会場に並ぶ写真の向こうには「消失した3人の女性」がいると石内は話した。はかなくも生の記憶を留めるような装置としての写真は、ずっしりとした厚みを帯びている。

石内都・頭山ゆう紀 「透視する窓辺」
石内都・頭山ゆう紀「透視する窓辺」会場:誉田屋源兵衛 竹院の間
石内都・頭山ゆう紀 「透視する窓辺」
石内都の写真が飾られた壁には、頭山の撮影した庭の景色が。

松村和彦

昨年の「KG+SELECT」でグランプリを取った京都新聞の記者、松村和彦の「心の糸」。京都の有形文化財の町屋建築をふんだんに使ったこの展示には、認知症という現代の大きなイシューを写真を通じて可視化する試みがある。写真記者であった松村の「写真の果たす役割」を問いかける真摯な姿勢がうかがえる。

松村和彦「心の糸」
松村和彦「心の糸」会場:八竹庵(旧川崎家住宅)
松村和彦「心の糸」
社会の抱える問題に深く寄り添うキュレーション。写真家の松村和彦は、京都新聞のジャーナリストでもある。

セザール・デズフリ

同じく「写真の役割」を考えさせたのはスペイン出身のジャーナリスト、ドキュメント・フォトグラファーのセザール・デズフリが長年追ってきた「越境者」という展示。文字通り命をかけて地中海、国境を超えて祖国からボートで逃げ出す難民の現実。ニュース映像や新聞記事だけでは伝わりきらないその背景と事実を、写真のリアリティとともに伝える活動を続けているセザール。彼の真摯な眼差しが切り取る越境者75名のポートレートから、私たちが読み取らなければいけないことは何だろう。

セザール・デスフリ「越境者」
セザール・デスフリ「越境者」会場:Sfera
セザール・デスフリ「越境者」
約7年の歳月をかけて、越境の様子や、越境者のその後を撮り下ろした壮大なプロジェクト。

インマ・バレッロ

異色だったのはニューヨーク在住のスペイン人アーティスト、インマ・バレッロ。2019年に京都で金継ぎを学んだ彼女は、新町通にぽっかり空いた町屋跡地を京都市内で集めた陶磁器で埋め尽くした。割れた陶磁器を重ねて壁を作り、その奥からはいかにもフラジャイルな音を響かせる映像作品が延々と流れている。このインスタレーションの壁を伝って鑑賞者が歩く折には、足下の陶磁器もまた無惨な音とともにより小さな破片へと姿を変えていく。町屋なき古都の空虚な空間に響く音からアーティストの問いかけを読みほどいてほしい。

インマ・バレッロ「Breaking Walls」
インマ・バレッロ「Breaking Walls」会場:伊藤佑 町屋跡地
インマ・バレッロ「Breaking Walls」
来場者はふみ割りながら展示を見る。奥の壁に映像作品が。

時にはアートであり、ファッションであり、歴史の一層であり、時には個人的な記憶や記録として、そして真実を伝える武器として、KYOTOGRAPHIEを巡りながら、写真というメディアの自由さを感じさせられるのは毎年のこと。そんな感動、学び、あるいは問いかけられた命題が並行して得られる写真巡りの体験こそがこのフェスティバルの醍醐味かもしれない。

さらに今年からは姉妹イベントとしての音楽祭、KYOTOPHONIEも始まり、京の町の賑わいに拍車をかけている。KYOTOGRAPHIEのディレクターのルシール・レイボーズは音楽の仕事をしていた経歴もあり、この期間の京都で生の音が感じられる機会を切望していたのだという。満を持してのスタートとなった第1回のゲストとして迎えたのはワールド・ミュージックの先駆者として知られるサリフ・ケイタ。かつて彼のオフィシャル・カメラとして京都に帯同したこともあるルシールにとっての長年の約束が果たせたのだとか。枯山水の庭にサリフのアフロ・ビートが響くとはあまりに強烈な体験だ。ラインナップをながめてみても、いかにボーダーを越えた音楽祭になるかは想像に難くない。

あらゆる場面で多様性が叫ばれる今だからこそ意識される「BORDER」。そしてコロナ禍も落ち着きをみせ、物理的に、技術的に、そして心理的にも境を越えた新しい世界に突入した今、「BORDER」の意味を頭の片隅において歩いていると、この京都の賑わいに新しい意味を見出せるかもしれない。ボーダーなき混沌に迷い込んでほしい。

KYOTOGRAPHIE展示風景

Information

KYOTOGRAPHIE

京都を舞台に開催される国際的な写真祭。
2023年第11回のテーマは「BORDER」。
5月14日まで、京都市内の10会場で開催中。
https://www.kyotographie.jp/

Information

KYOTOPHONIE

KYOTOGRAPHIEの精神に基づいた音楽フェスティバル。
ワールドミュージック、ジャズ、文楽など、京都市内7カ所のユニークな会場で、5月14日まで、14公演を開催。
https://kyotophonie.jp/

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