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ドイツで「不動産」を買いました。すると、たちまち人気物件に!? 実は…【教えて!世界の子育て~ドイツ~】

  • 2023.4.27

海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。各国からリアルな声を伝えてもらいます。

ドイツで子育てする中原さんから、「不動産」を購入したお話が届きました。物件はたちまち人気物件に……!?

住宅物件を購入!?

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ドイツの街並みを美しく彩る木立や茂みなどの緑はほとんどが計画的に保護されていて、人の暮らしと自然との調和が図られています。家々の中庭にも草木の緑が繁り(私有地に生えている木ですら一本ずつ登録され保護対象だったりする)、初夏のバルコニーなどその家主のセンスを競うかのように花が溢れ、道ゆく人々の目と心を潤します。景観の美しさはそこに住む人々の誇りを懸けているかのよう。

このように緑と水のある場所には、当然ながら虫がいます。木が生えていれば木から降ってくる毛虫。葉があればアブラムシ。テラス席でソーセージ食べてると、横から肉を齧(かじ)ってもっていくハチ! 虫が平気な人が多いのか、しっしっと追い払ったりビールで溺れたハチを救い出してお皿の隅で体を乾かせてあげたり、みなさん慣れたもの。いやいやすごいね! 生き物も緑もいっぱい!
……と思っていたら、まるでそれでは足りないとでもいわんばかりに建っている物があります。それはインゼクテンホテル(Insektenhotel)、虫ホテルです。虫が住むための家を、個人の家の敷地内やバルコニーなど人の生活の中に備え付けているのです。これを初めて見た時は、何をトンチキなと思いました。だってわざわざ虫を誘致する意味がわかりません。

多くの日本人にとって、生活環境の周りの虫は少なければ少ないほど良いもの、という感覚がありませんか?
ハエに、蜂に、でかい蜘蛛。なぜか家の中を闊歩(かっぽ)してるカメムシに、G。虫、じゅうぶんにおるやん……。どれも身近にはいてほしくないし滅びろとは思わないまでも出来ることなら家から遠~いところで幸せにしていてほしい。
そんな虫たちをあえて身近に連れてくる文化があるのです。

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春のローテンブルク。柔らかな緑が吹き出します。

ホムセンに売っている 色々な物件

子どもと買い物に行けば、まあなんでも欲しがるもので「これなんだろう、ほしい」「かわいい、ほしい」「買わないよ!」という紋切り型の掛け合いがあります。ある日訪れたいつものホームセンターで「これなんだろう、ほしい!」といつものようにねだられた、子どもの工作のような奇妙なもの。筒形、家形、キャラクターなどいろんな形の枠の中にレンガのかけらや葦の筒、穴の空いた木片、松ぼっくりなどが納まった立体、それは虫が住むための住宅物件でした。子ども達はインゼクテンホテルを虫のために欲しくてねだったのではないのでしょうし、そもそも普段どんなにねだってもお母さんは要らんものは買ってくれないと知っています。
しかし今回はお財布の口が開きました。インゼクテンホテルは虫の家、いわば虫用の不動産。不動産を気軽に買うって響きが良い。そう、私は「不動産を気軽に買う」という、どこにも書いてない、自分の頭の中のキャッチフレースにひかれて虫の棲み処を買ったのです。まったく大人は自分勝手だ。

子どもたちが取り付けに選んだ場所は農機具庫の壁、釘を打って引っ掛けるだけのお手軽なものです。設置したらハエみたいな虫が筒の入り口をトコトコ歩いて確かめて、プンと飛び去っていきました。他の物件と比較中なのでしょうか。誰か住んでくれるといいね。

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設置して1か月。新規入居者はいるかな? とのぞいてみたら、筒がいくつか塞がっています。泥で塞がっているの、これは誰だろうと図鑑を買って、やってくる虫を観察していたらどうやらハチの仲間のよう。「中に花粉とかを詰めて卵をうんで、赤ちゃんが他の虫に食べられないように泥で蓋をするんだって!」と私が読み上げると、わーいわーいハチくんだー♪ と子ども達は嬉しい。

それ以来時々気にして見ていると筒の中に花粉を運んでいるハチ、芋虫を運び込む細長い体のハチ、クモみたいなの、出入りする甲虫などを頻繁に観察することができました。ハチだけでもいろんな種類がいるのが分かります。ふわふわの、細いの、黄色いの、黒いの、ハエみたいなの、いろいろです。気軽に手を出した不動産はすっかり人気物件に。

どれほど人気かと言うと、それらの入居者を食べたい、または狩りたい動物もやってくるほどです。「おかあさん! トカゲがハチくんを見てるよ!」じっと動かずに獲物が射程距離に入るのを待っているトカゲを見つけた娘。固唾を呑んで見守ります。息を殺し、警戒されないぎりぎりの距離で私たちも見守り、飛びかかった瞬間口から飛び出そうになる声を喉の奥に押し込める。「ハ、ハチくんたべられちゃった……」ここはサバンナではないしチーターもガゼルもいないのに、この緊迫感と衝撃。あーすごいもの見てしまった。

これがすぐ間近で見られるようになって、図鑑の収納場所が本棚でなく、すぐ手に届く農機具庫に移動になりました。だってクモやトカゲだけでなく、ハチがハチを襲ったり、ハチの筒を出入りするハエもいるんですよ!
「このハエは花粉泥棒かな?」「卵を盗んでいるのかもしれないよ」生き物の姿は不思議を膨らませてくれます。
それにしても、にこにこ不動産物件を買ったと思ってたら、住人が狩られるサスペンス集合住宅棟だったなんてびっくりだよ!

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インゼクテンホテルは農園の近くにもよく備え付けてあります。そこらへんにある小さいやつじゃなく、もっとでっかい、虫用の団地みたいなやつ。りんごや洋梨、ブルーベリー農園など果樹園なら受粉を手伝いながら蜜を集めてくれるミツバチだけ飼っておけば十分そうなものですが、およそ関係無さそうな生き物も住むインゼクテンホテルと、さらにビオトープも併設するのです。こうすることで、畑で潰れてしまった虫や爬虫両生類、鳥などの生きる環境を補い、めぐりめぐって果樹を守ってくれる生き物を呼びバランスを取るのだそう。果樹の幹を食べてしまう虫をミツバチは獲ってはくれません。

もっと分かりやすい具体例で言うと、ビールの材料に必要なホップの花は受粉は必要としないけれどアブラムシがつきやすい。そこでインゼクテンホテルで冬を越したテントウムシが出動してアブラムシの数を減らし、私のビールを守ってくれる。ビールを守る……? そう考えたらインゼクテンホテルがとても尊いものに思えてきました。

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みてみて、大規模ホテルがあるよ! サスペンス劇場における温泉旅館といえば、必ず事件が起きる、事件を起こすための装置ですが、バルコニーの小さな虫のホテルも同じ役割を果たします。何者かがやってきて、小さな小さな命懸けのドラマを繰り広げているのです。

ドイツの虫は日本の虫よりも全体的に体が小さくて数も少ない。大きい蛾は稀(まれ)だしカブトムシもスズメバチも日本のよりふたまわりほど小さく、生き物の姿にもドイツは北国なのだなぁという実感があります。公園や野原を歩いているだけでは気付けない生き物の生き生きとした様子を目の前に持ってきてくれるのがインゼクテンホテル。自分で発見する喜び、驚きの新鮮さは格別です。

クモがハチに飛び掛かるスピードを、子ども自身の目で見る、そういう原体験をたくさんして欲しいなと思うのです。

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雁の群れがのどかにお食事しているのは街中の路面電車の線路の上。
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今回の海外ママは
中原さん
結婚を機に夫の故郷ドイツに移住。滞在年数10年を超えてもドイツ語に苦しむ。趣味はレストラン巡り、庭いじり、手芸などなど。掃除と片付けも趣味になったらいいのになあ……といつも思っています。2人の娘がいます。#中原ドイツ子育て

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