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写真家・平野太呂。ハウスメーカーとつくる家

  • 2023.4.24
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写真家・平野太呂の自宅 1階リビングと外壁

関わってつくってこそ、自分たちの家になる

まず最初に、誤解を解いておかなければならないのは、たぶん、多くの人が、ハウスメーカーと家をつくる、となると、ほとんど、何も、自分たちの好きなようにはできない、と思っているだろうこと。間取りは自由、床材も建具も選べます、と言ったって、せいぜい選べるのはAかBの2択くらいで、本当に好きなものは使えないし、細かな希望なんて聞いてもらえないんでしょ、と思っていること。

違います。できます。ものすごく、頑張れば。

写真家・平野太呂は、大手ハウスメーカーで、人生2度目の家を建てた。造作家具はすべて、友人であり、信頼する家具メーカー〈MOBLEY WORKS〉の鰤岡力也に依頼、ドアはアメリカの量産品にペンキを塗って現物支給、ドアノブやスイッチパネルなどのパーツは、アメリカのホームセンターで買い集めたものを取り付けてもらったのだとか。部屋の配置に始まり、外壁の左官の塗り具合まで、メーカー任せにすることなく、理想の家を手に入れた。

写真家・平野太呂の自宅 玄関ドア
玄関ドアは木製のボーダー張りにしたくてネットで見つけた秋田のドアメーカーに自ら発注。「前の家では木製ドアを諦めてしまったので、今回は粘りました。もちろん性能も大事。こう見えてバッチリ耐火で鍵も二重です」
写真家・平野太呂の自宅 子供部屋
リビングはブラインドだが、子供部屋や寝室はカーテンにして、カーテンボックスを付けた。「建設中の仮住まいにカーテンボックスが付いていて、思いのほか良かった。寝る部屋はカーテンの方がなんとなく安心する」
写真家・平野太呂の自宅 子供部屋
この家を建てる目的の一つが、2人の子供に、それぞれの個室を持たせること。小ぶりの学習机に合わせた椅子は長大作のデザイン。壁は、どの部屋も塗り壁に近い質感ながら、汚れをさっと落とせるクロスを選んだ。
写真家・平野太呂の自宅 1階書斎
1階の玄関近くにある平野の書斎。棚の面材とデスクトップは、リノリウムで、フィンランドの建築家、アルヴァ・アアルトの自邸で使われているのを見てから、気になっていた素材だという。棚板はガチャ柱で可動式。

そんなにこだわりがあるんだったら、建築家と建てればよかったんじゃないの?

「ハウスメーカーにした一番の理由は、この土地の販売条件として、最初から指定されていたからなんだけど、それでもいい、いや、むしろそれがいい、と思ったのは、そもそも家は、シンプルな箱でいいと思っていたから。妻は、家は使いやすいこと、動線が大事だとずっと言っていて、おしゃれだけど住みにくいのはイヤだというのが共通の思い。例えば、建築家の奇抜なアイデアみたいなものは、まったくいらないと思っていたし、建築家の作品に住みたいと思ったこともなかった」

仕事で家を撮ることも多く、建築家との家づくりに触れることも多いが「よく、すべて建築家にお任せしましたって話を聞くけれど、何も自分たちで決めていないなら、それって、建売を買うのと同じなんじゃないかなぁ。任せた方がいいこともあると思うけど、僕らはしっかりとした箱の中をどう使うか、自分たちで話し合って決める方がよかった」。

自分たちで決める。その言葉は、無限の自由にも似て響きもよいが、家づくりには、気の遠くなるような膨大な決定事項がある。判断するための膨大な勉強量も、現場にコミットするなら、段取り力みたいなものも必要になる。

「そこは、やっぱり、これまで仕事で培った経験が役に立ったかもしれません。訪ねた家の良かったところや具体的な情報が自分の中に溜まっていたから。あと、施主の現物支給はやっぱり、基本、嫌がられるから、この順番で、こうやってやれば、できるはず!っていう裏取りをしてからメーカーに提案するようにしました。

何がしたいのかを、ちゃんと伝えるのはもちろんだけど、相手があんまり驚かないタイミングを計るのも大事かなぁ。大工さんが前向きな人で、“こんなもの付けたことないけど、やってみよう”って言ってくれたのも助かりました。家も、もの作りなんだよなって、関わって思ったし、とことん関わったからこそ、自分たちの家だと感じられているんだと思います」

写真家・平野太呂の自宅 1階リビング
リビングにソファは置かず、ダイニングにベンチソファを造り付けた。妻の妃奈さんが共通の友人の実家にあったベンチソファを思い出し「あれ、良かったよね」と再現。テーブルはゆるやかな楕円。人が集いやすい。
写真家・平野太呂の自宅 キッチンカウンター
キッチンのカウンター収納の面材も書斎同様リノリウム。面に回した木の縁は2mmにこだわった。家全体の色はグレーとブルーが基調だが「全部を合わせようという気はなかった」。ドアも壁も少しずつ色が違うのがいい。
写真家・平野太呂の自宅 1階リビング
ブラインドを通してリビングに差し込む西日が床にきれいなストライプを描く。「ずっと明るい2階リビングより少し暗い1階をリビングにすることでより光を感じるようになった。日の回りで時間を感じるのも心地いい」
写真家・平野太呂の自宅 2階へ上がる階段
階段の手すりはメーカーの標準仕様だと端に折れ曲がった金物が付くが「それはナシで、と頼んだ。切りっ放しですけど!って驚かれたけど、それでいいから小口は油を塗って仕上げて、と。面倒な客だよね(笑)」。

間取りは1階にリビング・ダイニングとキッチン。玄関の土間続きのコーナーにシューズクローゼットを設け、ちょっとした外遊びの道具も置けるようになっている。その玄関の延長に平野の書斎。リビングとは少し距離を置き、独立して仕事ができるようになっている。2階に寝室と子供部屋。バスルームと洗濯室も2階に設けた。

「子供が孤立しないよう、必ずリビングを通ってから個室に行くようにしたかったし、1階を寝床にすると、寒いんだよね。最初の家は2階がリビングで、1階はほとんど使わなかった。家族がいるリビングが暖かいのに、寒い1階に寝に行くのは嫌なものです」

写真家・平野太呂の自宅 玄関
写真家・平野太呂の自宅 玄関
写真家・平野太呂の自宅 内ドア
写真家・平野太呂の自宅 キッチン
写真家・平野太呂の自宅 子供部屋
写真家・平野太呂家の朝食

お風呂と寝室は同じ階がいい、というのも前の家からの学びで、40代になり、多少生活を重ねてきたからこそ、決められることも多かったという。そもそも、敷地選びの基準は、子供たちが学校に通いやすい場所であることだった平野家。子供たちと密に暮らせる、まずはこの先10年、15年くらいを無理なく、思い切り楽しみたいという願いが根本にある。

「同時に、僕はもう少し先、家族みんなが大人になったときのことも考えていて、日当たり良好の2階リビングを良しとしなかったのはそのため。光をきれいに感じる、少し暗い、落ち着いたリビングやダイニングが、僕らのこれからを支えてくれると思うから」

写真家・平野太呂の自宅 1階リビング
1階のリビングの一角。床はチェリーの無垢材。床暖房との併用が選択のポイントで〈MOBLEY WORKS〉に発注した蛇腹のキャビネットも床に合わせてチェリー材に。ドアはアメリカの既製品を水色に塗って現物支給。
写真家・平野太呂の自宅 外壁
家づくりで最も悩んだという外壁。当初メーカーから提案された30年保証の外壁ラインナップには気に入るものがなく、追加料金を払っての左官仕上げを選択。職人の作業に張り付いて、骨材の分量や塗りの具合を見守った。

profile

平野太呂(写真家)

ひらの・たろ/1973年東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業。広告やカルチャー誌などで幅広く活躍。主な作品に、写真集『POOL』、『ボクと先輩』など。今回の自宅と家族の撮影で使ったカメラは《ライカM10-P》。「大人のカメラだと思っていた」ライカを初めて手にした。

HP:https://www.tarohirano.com/

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