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実績を残せず数カ月でフェードアウト…「"年収アップ"と"お試し転職"でバラ色」とはいかない副業の落とし穴

  • 2023.4.20

転職を考えている人にとって、副業にはどんなメリットがあるのだろうか。転職エージェントの森本千賀子さんによると「最近、『業務委託や副業でもOK』とする求人案件が増えている。うまくすれば年収アップになり、転職前の『お試し』にもなるメリットのある働き方だが、切り替えがうまくいかずオーバーワークになったりする人も多く、活用にはコツが要る」という――。

オフィスで困り果ててこめかみを押さえている女性
※写真はイメージです
「業務委託OK」「副業OK」の求人案件が増えている

これまでは正社員・契約社員で採用されていた職種やポジションにおいて、「業務委託OK」「副業・兼業OK」とする求人案件が増えてきています。例えば、企業側に次のような事情があるケースです。

●フルコミットしてもらうほどの業務ボリュームではない

必要な業務ではあるけれど、ボリュームとしては正社員としてフルタイム勤務してもらうほどではない。しかし、専門性が必要なので派遣やアルバイトではなかなか務まらない、というケースです。

●正社員として採用したいが、そこまでの報酬を支払えない

「本当は正社員として採用したいが、求める人材レベルでは報酬が高すぎて支払えない」という事情がある場合、業務委託ならば、必要最低限の業務を支払い可能な報酬レンジ内で依頼することができます。「優秀な人材は複数社でシェアリングする」という概念が広がっており、そうしたマッチングサービスも生まれています。

こうした形態での人材活用は、「資金が潤沢ではない」かつ「雇用体系の自由度が高い」という点で、スタートアップやベンチャー企業で多く見られます。

とはいえ大手企業でも、ぜひ採用したいと考えた人材が他社を選んで入社してしまった場合など、「副業でも構わないので当社の事業にも携わってほしい」とオファーするケースもあります。

こうした副業はリモートワークが中心であることから、より手軽にできるようになっています。

地方企業の「ふるさと副業」も増加

地方の中小企業では、上記2つの問題に加えて、「そもそも地元では求めるスキルを持つ人材が見つからない」という悩みを抱えています。

例えば、「オンラインで商品を売りたい」「WebやSNSでPRしたい」といったニーズが高まっていますが、デジタルマーケティング人材の採用は地元では難しい。このような場合、大都市圏に住む人と業務委託契約を結び、「副業」として関わってもらうケースがあります。

このような形態は「ふるさと副業」と呼ばれています。コロナ禍でリモートワーク環境が整ったことから増加しており、今後も広がっていきそうです。

業務の一部を切り出しやすい職種に多い

「業務委託・副業でOK」となりやすい職種は、業務の一部を切り出しやすく、業務内容を明確に定義にできるものです。代表的なのが、コーポレート部門系の職種。「人事」「総務」「経理」「財務」「法務」「広報」などです。

また、「セールス」「カスタマーサクセス」などでも業務委託の求人案件があります。育児中で就労時間に制限がある女性などの場合、自分の都合のいい時間・ペースで働くことができます。「成果報酬」のスタイルもあります。

このほか、「新規事業開発」などのポジションでも、業務委託で携わっている人がいます。

「スキルを生かす」「未経験の仕事に挑戦」のどちらも可能

「業務委託」「副業」が適しているのは、どんな人なのでしょうか。うまく活用している方々のパターンを挙げてみましょう。

●経験・スキルを生かして収入を上げたい

すでに持っている経験・スキルを生かすことで、副収入を得ることが可能です。経験・スキルがある業務であれば、所要時間も予測しやすく、勤務時間をコントロールして無理なくこなしやすいといえるでしょう。

●未経験の仕事に挑戦したい

「興味があるけれど経験がない仕事にチャレンジしてみたい」と転職を図る場合、未経験では前職より給与ダウンとなるケースがほとんど。収入が減ると困る場合、経験を生かしてできる副業で補塡ほてんすることで、やりたいことへのチャレンジをあきらめなくてすみます。

●ちょっと背伸びした仕事をやってみたい

自分に務まるかどうか不安がある仕事には、いきなり正社員で転職するには抵抗感を抱くもの。しかし「まずは業務委託でお試し」であれば、ハードルが下がります。

例えば、販売や接客サービスなどとして働いてきた方が、「営業」「インサイドセールス」「カスタマーサクセス」などにチャレンジする場合、業務委託からスタートしているケースが見られます。

●働ける時間・場所に制約がある

育児中などで勤務時間・勤務地などに制限がかかる女性の場合、業務委託であれば自身の都合に合わせて働くことができます。副業や業務委託案件はリモートでの対応も多く、在宅勤務も可能です。

本業と副業のメリットとデメリット
※写真はイメージです
マッチングサービス、SNS、エージェントを活用する

自分にマッチした「業務委託」「副業」を探すためには、次のような手段があります。

●副業マッチングサービス

最近は、さまざまな副業マッチングサービスが提供されています。まずは「フリーランス・副業人材サービスカオスマップ」で検索してみてください。これは副業マッチングサービスが職種別・ジャンル別に整理されたもので、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が公開しています。このマップを参考に、自身のスキルやニーズに合うサービスを探してみてはいかがでしょうか。

●SNS/友人・知人

SNSの投稿から副業につなげている方もいらっしゃいます。スタートアップやベンチャー企業が「こんなビジネスを立ち上げる」「こんなスキルを持つ人、ちょっと手伝ってほしい」などと投稿した際、自ら手を挙げて仕事を引き受けるのです。また逆に、「こんな経験・スキルを生かして副業がしたい」と発信しておくと、声がかかるかもしれません。

同様に、友人・知人に声をかけておき、情報を得てもいいでしょう。

●転職エージェント

転職エージェントは通常、正社員・契約社員の求人案件を手がけますが、実は「業務委託でもOK」の案件を持っていることもあります。

「基本は正社員募集だけど、場合によっては業務委託でもかまわない」という、企業が大っぴらには言えない情報をつかんでいるのです。

なお、どんなルートで業務委託・副業案件を探すにしても、「自身の経験・スキルのうちどれを切り出して生かせばよいか」「どんな案件を選べばいいか」がわからないこともあるでしょう。

人材マーケットのニーズを知り、自身のどのスキルに市場価値があるのか=効率よく稼げるのかを知るためにも、一度転職エージェントに相談してみるのも有効です。

「タイムマネジメント」や「期待値のギャップ」で失敗することも

業務委託や副業は誰にでも合う働き方というわけではありません。「性格的に向いていない」「取り組み方を間違える」などの理由で失敗に終わるケースがあります。失敗してしまったお2人の事例をご紹介しましょう。

●実績を出せないままフェードアウト

Aさんは、報酬ではなく「やりがい」「キャリアアップ」を目的に副業を始めました。成功報酬の営業職です。しかし、なかなか副業に従事する時間を確保できず、当然ながら成果も挙げられず……モチベーションが下がり、数カ月後にやめてしまいました。

Aさんにとっては新たなキャリアにつなげるためのチャレンジ。つまり、最初は商品やマーケットについて学んだり、進め方を試行錯誤したりするなどの努力が必要です。そうした負荷がかかることを覚悟したうえで、初期の一定期間は時間を確保するべきだったといえるでしょう。

●双方がモヤモヤを抱えて終了

Bさんは人事のスペシャリスト。実績があるだけに、副業を始める際には高額な報酬を希望されました。企業もその希望を受け入れました。

しかし業務を進めていくなかで、Bさん側は「ここまでしかできない」、企業側は「これだけの報酬を支払うならここまでやってほしい」と、ギャップが生じるようになったのです。結局、企業側は契約更新を打ち切り、双方にモヤモヤ感を残す結果となりました。

副業を始める際には、「期待値」をすり合わせておくことが大切です。なお、あまり高額な報酬で設定すると、それだけ企業側の期待値が高まり、自身が負荷を感じてしまうことにもなりがち。身の丈に合った金額で始めることをお勧めします。

本業と副業の両立で失敗

「業務委託」「副業」がうまくいかない人は、どこでつまずいているのでしょうか。よく見られるケースは、「切り替えがうまくできずオーバーワークになる」です。

本業と副業を両立させる、あるいは副業を掛け持ちする際、うまくバランスをとれない人が見受けられます。結果、「つい働き過ぎてしまう」→「疲弊する」→「本業も副業もパフォーマンスが落ちる」という悪循環にはまってしまうわけです。特にクリエーティブ系のお仕事では、クオリティーを追求するうちにオーバーワークになることが多いようです。

また、「友人・知人のお手伝い」からスタートした副業では、業務範囲・役割範囲があいまいになるケースがよく見られます。役割をしっかりと線引きし、目指すゴールを明確にすることが大切。でなければ、どんどん振り回され、自分の時間を失っていくことになります。

こうしたポイントにも注意し、業務委託・副業を効果的に活用してください。

構成=青木典子

森本 千賀子(もりもと・ちかこ)
morich 代表取締役 兼 オールラウンダーエージェント
1970年生まれ。93年リクルート人材センター(現リクルート)入社。2017年morich設立、CxOレイヤーの採用支援を中心に、企業の課題解決に向けたソリューションを幅広く提案。NPO理事や社外取締役・顧問等も務め、パラレルキャリアを体現した多様な働き方を実践。NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」出演。日経オンライン等のWeb連載のほか『本気の転職』等著書多数。2022年2月、日経新聞夕刊「人間発見」の連載にも取り上げられる。二男の母。

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