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商品管理から梱包、配送、コンサルまで。EC・物流の代行会社イー・ロジット社長の角井亮一が深堀りして広げた守備範囲

  • 2023.4.18
商品管理から梱包、配送、コンサルまで。EC・物流の代行会社イー・ロジット社長の角井亮一が深堀りして広げた守備範囲

株式会社イー・ロジットは、EC通販事業の物流代行、運営代行業務をワンストップで提供する会社です。と、ひとくちで説明するには、広い守備範囲。受注して発送したら終わりではなく、特殊な梱包資材の発案、支払い方法の拡大などさまざまな革新的アイデアを業界にもたらし、さらにカスタマー業務代行、運営コンサルティングまで手がけています。もはやECと物流でイー・ロジットができないことはないのでは? と思わされる勢い。EC市場黎明期からわずか数年後の2000年に創業されたイー・ロジットが、どんな変遷を経ていまの業態にたどりついたのか。創業者の角井亮一さんにお話を聞きました。

マイコン少年がEC黎明期の起業家へ

──イー・ロジットが創業した2000年当時、EC事業に注目している人は少なかったと思います。なぜECと物流を事業の核にしようと考えたのですか?

角井亮一さん(以下、角井さん):イー・ロジット創業前、大手経営コンサルティング会社に勤務していたんです。1996年に、その会社でインターネット通販事業のセミナー担当になり、EC事業について勉強をしたのがきっかけになりました。

──1996年というと、まだEC黎明期ですよね。

角井さん:そうですね。日本で大手EC事業者は1社しかありませんでしたし、米国アマゾンも本しか扱っていない時代でした。私は中学1年生の時に、父親にパソコンを買ってもらっていたこともあって、同世代の人の中でもECについての感覚はある方だったと思います。いわゆるマイコン少年として育ったわけですが、当時大手EC事業者のサイトを見ても売れている感じがまったくなかった。だから、そこまでECに大きな可能性を感じていたわけでもないんです。

ところがその後、ある東証大証一部上場の和装小物の企業のアパレル部門の物流改革を我々が行ったことが業界紙に取り上げられて、この記事を見た大手企業からいくつかお声がけいただきました。そこでECや物流にビジネス的な勝機を感じ、会社を辞めて2000年にイー・ロジットを立ち上げることにしました。

2000年に設立したイー・ロジットは、「変化を先取りし、人々の感動体験を進化させ続ける」というビジョンを掲げている 

──イー・ロジットのビジネスは、どうやって考えられたのですか?

角井さん:当時ドットコムバブル※だったので、ネットビジネスを学ぶためにアメリカにも行きました。現地では、多くの有名ドットコム企業の取締役クラスの人と会い、いろんな情報交換をして、刺激を受けました。その結果、ネット通販企業への物流サービス提供をしていこうと考えたわけです。

※ITやインターネットにまつわる新興企業をめぐる経済的熱狂のこと。1999~2000年頃にアメリカを中心に起きた

──実際に起業されて、いかがでしたか?

角井さん:創業から5年間は苦労し、コンサル業務で食べていました。軌道に乗ったのは、2005年くらいです。2000年当時は、ECを利用する人はまだまだ少なかった。そういう時代だったんです。

例えば、とあるイベントの通販事業者の倉庫面積はわずか50坪でしたが、当時手掛けた事業の中では一番の売上でした。現在の弊社の物流センター1万坪と比較すると、かなり小さい市場であることがわかりますよね。今はECをやるなら月商1億円ないとっていわれていますが、その頃は月商100万円あれば一人前といわれていたんです。出荷量でいうと1日10〜20件だから、社内でさばけちゃう。そんな状況だったのでEC通販事業の物流や運営の代行を行うイー・ロジットはいらないんですよ(苦笑)。

ですが、2005年になるとブログブームに突入し、アマゾンでもすでに多彩な製品を扱っていました。わずか5年で世界が劇的に変わったんです。

イー・ロジットでは、大型の物流センターを開設している

単純明快・繰り返しで究極のスキルアップ

──ECや物流の代行業からコンサルまでワンストップで行う今の業務形態になったきっかけは何だったのでしょうか?

角井さん:最初はシステムだけ作ってあとは物流会社さんに協力してもらう予定で、自社で物流センターを持つつもりはなかったんです。でも実際にやってみると、トラブルの連続でした。そもそも既存の物流会社さんは企業間のやりとりが多かったので、ケース出荷をメインにしていて商品を一個ずつピッキングして梱包して送る……という流れが確立されていないんです。しかも各企業によってルールが違うので、思わぬトラブルが起きてしまう。イー・ロジットのシステムだけ採用してもらっても、現場のオペレーションが追いつかず、トラブルシューティングに忙殺されるようになって……。それで、自ら責任が取れるよう、ECや物流の代行業から、オペレーションを自社で全部まかなえるように方向転換しました。

物流や運営の代行業務を担い、EC事業者の販売力を高めている

──事業拡大を意気込んで行ったわけではなく、ある種の「つまずき」がきっかけになったわけですね。では現在、御社ではどのような業務を行っているのでしょうか?

角井さん:注文があったらピッキングして梱包して送る、という基本作業のほかに、ECサイトに掲載する商品画像の撮影や、原稿の作成、採寸なども行います。また、返品や問い合わせなどのカスタマー業務にも対応し、EC事業のコンサルティング業務も行っています。

私たちは長年、さまざまな会社さんの通販に間接的な形で関わってきました。「どんな商品がなぜ売れるのか」を的確に分析できるデータを日々積み上げてきているので、何かご相談いただければ、「こういうことをすれば売上が伸びますよ」という提案やコンサルがすぐにできるんです。

──ECや物流の粋を超えて、今では随分と業務内容が広がっているのですね。

角井さん:物流の枠は超えていますが、「EC」という的ははずしていません。何事にも共通していると思うのですが、仕事は「単純明快・繰り返し」が重要だと思うんです。EC事業に特化しているからこそ深堀りができる。ひとつ深堀りすれば、その脇も掘れるようになる。伝統工芸の職人さんと同じで、とにかくひとつのことを繰り返し突き詰めていくことで、そのジャンルを極めることができるんです。

「断らない」が次の大きなステージを招く

──創業から20年以上経ち、今やEC・物流業界のトップクラスとなりましたが、ご自身で思う成功の秘訣は何でしょうか?

角井さん:もちろん成功しているとは思っていませんが、しいて言うなら「仕事はなんでも断らない」というスタンスですかね。企業に勤めているときもそれでチャンスを掴みましたし、今もお客さまの要望に答え続けていたら、いつの間にかECのありとあらゆる業務を取り扱うようになっていました。

「お客さまの要望に対して、“まずやってみる”というマインドを大切にしています」と角井さん

──そもそもなぜ「断らない」ポリシーをお持ちなのでしょうか?

角井さん:依頼って、チャンスじゃないですか。スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授の「計画された偶発性理論」でもいわれていることですが、成功者に聞いてみると、18歳の頃にやりたいと思っていたことを実現した人はほとんどいないそうなんです。でも、来た仕事を全力でこなし、到達点に来たときに振り返ってみると「自分は成功するために今までのことをやってきたんだ」と思える、と。無茶な依頼でも必死にやっていると相手との信頼関係が築け、「この人には頑張ってもらったから、大きな仕事をお願いしてみよう。もし失敗しても俺がフォローしてやろう」とチャンスをもらえるんです。たとえうまくいかなくても経験になるし、必ず次のステージにつながります。

──相手の期待に応え続ける中で、困難な要望に直面することもありそうですね。

角井さん:ええっと……、困難じゃなかったことがないな(笑)。なかでも、ギフトラッピングの導入はとても大変でした。ラッピングの有無で売上が大きく変わるので、正直難易度は非常に高いのですが、商品の付加価値をあげられたのでやっただけの価値はありました。

それと、業界初のチャレンジとなったのは、「後払いサービス」との連携です。今では他社が始めたコンビニ払いが定着していますが、イー・ロジットが連携し始めた当時は、後払いをしているECサイトはありませんでした。当社のお客さまは「後払いサービス」を導入したことで、クレジットカードを持っておらずECでの購入を躊躇する若年層を取り込むことができました。

角井さんは「メンバー全員でやり切ることも大事ですね」と語る

この先の目標は、若い世代に恩返しをすること

──支払いだけではなく、御社には「折り紙梱包」や「白い段ボール箱」など梱包でも革新的なアイデアによって生み出されたものがありますよね。それらもクライアントの要望から生まれたのですか?

角井さん:社内から出たアイデアをクライアントにご提案しました。通常の梱包に比べて手間や材料費がかかる「折り紙梱包」や「白い段ボール箱」を取り入れるのは、商品のご購入者さまが受け取ってパッキングを開くまでが私たちの仕事だからです。ご購入者さまへ安全に「驚き」と「感動」を届けて、ようやく仕事をやりきったことになると思うんです。特に日本では、「きれいな状態で届くこと」は価値となっていますよね。だから私たちは、面倒でも「折り紙梱包」をするし、「白い段ボール箱」でお届けします。

品質を重視するため、あえて汚れが目立つ「白い段ボール箱」で商品を届けている
緩衝材の紙を折ったり、膨らませたりして、商品を保護する梱包サービス「折り紙梱包」

──商品を届けるまでの情熱がすごいですね。そのモチベーションはどこから来るのですか?

角井さん:EC事業で売上アップに繋げるには、リピーターの確保がとても重要なんです。ショップの売上が上がれば、自動的に弊社の売上もあがる。だからEC販売のお手伝いをすることに力を入れるのは当然です。ECを行う企業さんとイー・ロジットは、結果的に同じお客さまに向けて仕事をしているんです。だから、どの工程も手を抜けません。

──EC業界の黎明期から走り続けてきましたが、角井さんは今後どこを目指していくのでしょうか?

角井さん:個人のミッションとしては、物流の魅力を社会に広めて、物流の価値を高めること。それに加えて、若い世代の方々に私たちが積み上げてきた知識を提供していけたら、と。私自身、周囲の人たちや目上の方から教えていただいたり、支援していただいてきました。だから次は、これまでにいただいた恩を次の世代の方々に返していく番だと思っています。ベンチャーやスタートアップの方たちと交流を持つ機会をなるべく作るようにして、「いつでも相談にきてください!」って話しているんです。

──若い世代にECや物流のバトンを繋いでいくのですね。でも、角井さんはとてもお忙しいですよね?

角井さん:時間はどこかで作れますよ。早朝から動けばいいだけですから。時間に追われて知識やアイデアの出し惜しみをするのはもったいないし、意味がない。若い人たちが新しいことに挑む姿勢を尊敬しているので、応援したいんです。どんどん経験して失敗を繰り返して、チャレンジを続けてほしいと思っています。

EC・物流業界の将来を見据え、角井さんは時間と労力を惜しまずに若い世代をサポートしていく
角井亮一(かくい・りょういち)

株式会社イー・ロジット 代表取締役社長CEO。
1968年10月25日大阪生まれ、奈良育ちの実業家、経営コンサルタント。上智大学経済学部経済学科で、ダイレクトマーケティング学会初代会長の田中利見先生のゼミに所属し、3年で単位取得修了し、渡米。 ゴールデンゲート大学からマーケティング専攻でMBA取得。大手経営コンサルティング会社に勤務したのち、2000年に株式会社イー・ロジットを設立。

撮影/武石早代
取材・文/長谷川京子

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