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牛すじを攻略する。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.59

  • 2023.4.17

ハードルが高そうだと決め込み、敬遠している素材がありませんか。

例えば、牛すじ。居酒屋などで頼む牛すじ煮込み、あのうまさはたまらない。むにむに、くにくに、柔らかいのに一片ずつ異なる豊かな弾力があり、嚙んでいると、味がじわーっと広がる。でも、自分じゃつくれないと諦めていませんか。

それも仕方のないこと。そもそも牛すじは肉屋さんのショーケースに並んでいないし、肉売り場に出ていることもないから、目にすること自体めずらしい。でも、たいてい奥にはあるんです。

肉屋さんの店頭で訊いてみてください。
「牛すじ、ありますか」
「はい、何グラムくらいお入り用ですか?」
奥の冷蔵庫から出してきてくれるはず。私は、いつもそんなふうにして買っている。ときどき、「あ、いま三百グラムくらいしかないけど、いい?昨日まとめて出ちゃって」と言われたりもするけれど。余計な脂や堅いすじを外す包丁作業は肉屋さんの大事な仕事で、すじはその途中で集まっていくもの。だから、すじを分けてもらえるのは、肉屋さんの仕事の恩恵にあずかることでもある。しかも、たいてい百グラム百円〜二百円。おサイフの強い味方です。

ほかの肉の部位と違うのは、下ゆでの準備。〝そんなの面倒〟と思われるかもしれないけれど、大丈夫、あとでちゃんとオマケがついてくる。

【牛すじの下ゆで】
①たっぷりの湯を沸かし、牛すじをゆでこぼす。
②ざるにあけて冷まし、水で洗う。
③キッチンばさみか包丁で長さ5〜6cmに切る。
④牛すじがかぶるくらいの湯を鍋に沸かし、酒を入れて二、三十分煮る。

私の場合、一度に六百グラムほど下ゆでし、それを二つに分け、ひと袋は冷凍するのがいつものやり方です。半分を冷凍しておけば、使いたいときにぱっと取り出すだけ。三百グラム分の「手間いらず」がついてくる合理的なやり方が気に入っている。

最初の三百グラムは、やっぱり煮込みでいきましょう。

つくり方はとても簡単。鍋に牛すじ、醤油・酒各大さじ2、みりん大さじ1、タカノツメ、かぶるくらいの水を足し、ことこと煮る。ちぎりこんにゃくを入れたり、乱切りにしたごぼうを合わせたり、バリエーションはいろいろ。

いいねえ、やっぱり牛すじ煮込みはオツだねえ、なんて思いながらちびちび飲りながら味わうときのうれしさよ。なんといっても、家で楽しめるのがイイ。

残りのお宝の三百グラムも出番を待っている。私はこれをトマト煮込みにしたり、カレーにしたりする。別方向の料理をこなす牛すじ、最高です。

GINZA2023年4月号掲載

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