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市川実日子さん、坂口健太郎さんと不思議な心の結びつきを描く 映画「サイド バイ サイド 隣にいる人」

  • 2023.4.13

映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』が、4月14日から全国で公開されます。そこに存在しない“誰かの想い”が見える青年・未山(坂口健太郎さん)の恋人役、シングルマザーで看護師の詩織を演じるのは俳優の市川実日子さん。リアルとファンタジーが混じり合う不思議な味わいの作品において、どこか暖かみのある役どころを演じています。撮影現場での様子や、映画の見どころについて聞きました。

「目に見える・見えない」の境界が曖昧な作品

本作は、目の前に存在しない人の思いを見ることができる、不思議な力を持つ未山をはじめ、リアルとファンタジーが混じり合い、切なくも優しい余韻が残る映画に仕上がっています。美術・装飾スタッフ出身である伊藤ちひろ監督による、映像の美しさも話題です。

――オファーを受けたときは、この作品にどんな印象を持ちましたか?

市川実日子さん(以下、市川): 余白がたくさんある脚本だなと感じました。私がこの作品で惹かれたのは、人の強い想いや、霊と呼ばれるような目に見えないものが、ホラーやコメディとしてではなく、自然に存在していることでした。見える人、見えない人といった境目も強調されることなく、あたりまえのように一緒に過ごしていること。この脚本を書かれた監督はどんな感覚をお持ちの方なのかなと興味を持ちました。

生きていることと、亡くなること。自然の中で暮らすことと、都会で暮らすこと。そんなふうに、普段無意識に線を引いていることがたくさんあるけれど、本当ははっきりと分けられるものではないのかもしれません。普段、「不思議」と表現されることが「普通」になったら、考え方も暮らし方も、変わってきますよね。

朝日新聞telling,(テリング)

坂口さん演じる未山は、かつての恋人・莉子(齋藤飛鳥さん)との再会によって、過去の秘密と向き合っていきます。暗い過去を抱えた莉子と未山のシーンはモノクロで薄暗いのに対して、市川さん演じる詩織が娘と未山と暮らす家は、柔らかい日の光が入り、カラフルな色のカーテンが揺れるなど、暖かみがあって彩りも豊かです。

――ご自身が作品に入り込むうえで工夫した点はどんなことですか?

市川: 撮影中に、映像的な演出があることを、さまざまな場面から感じました。たとえば、脚本からは未山くんと莉子が同級生のようにも受け取れるけれど、明言はしていないんですよね。そして、演じる坂口くんと飛鳥ちゃんは結構年齢差があって。「ふたりは同級生の設定なんですか?」って監督に聞いたんです。そうしたら監督が「はい。莉子は未山と別れてから『時が止まっている人』なんです」と仰って。なるほど、そっか。これは客観的な視点からではなく、登場人物の心情も含まれた映像表現なんだと知りました。

完成した映画を見たら「自然がこんなにきれいに映っていたんだ」と驚きました。あと坂口くんは「実日子さんが(撮影現場に)来てくれて、詩織さんとのシーンになってから、未山という人がカラフルになった」と言っていたのですが、私は室内のシーンが多かったし、未山がカラフルになったのはわからなくて(笑)。それまでは、都内や莉子の過去のシーンの撮影をしていて、重たい気持ちのシーンが続いていたそうです。

朝日新聞telling,(テリング)

言葉を交わす前に、演技も人との関係も始まっている

――詩織が台所仕事で濡れた手を、未山のパーカーで拭くシーンがありますが、二人の近しい関係性がうかがえるようで印象的でした。

市川: 本当ですか。あれは私がリハーサルのときにふと思いついて、坂口くんに伝えたところ「あ、それとてもいいですね」と言ってくれたんです。娘の美々と3人で過ごしているシーンは多くあるのですが、まずは未山くんと詩織が思い合って一緒にいることや、温かな心の交流があることを、観てくださる方にも感じてほしいし、私も感じたいと思った。勘ですが、そういうちょっとしたことの匙(さじ)加減で印象が変わっていく作品になるような気がしていたので、「どう表現するのがいいだろう」といつも考えながら演じていました。

――撮影現場に入って、共演者と実際に過ごしながら感じたことが、実際の演技のアイデアとしてつながっていくのですね。

市川: 実際に相手を前にしたときに感じ取ったことや、相手との相性によって、出てくるものは大きく変わるように思います。俳優の仕事だけではなく、どなたでもきっとそうなんじゃないかなと。こうしたインタビューや、日常の会話でもそう。その人を前にしたとき、すーっと言葉が出てくるときもあれば、なかなか言葉が浮かんでこないときもあります。もしかしたら、「はじめまして」と挨拶を交わす前から、お互いに目には見えない何かを交換し合っているかもしれませんね。

人と人との関係って、出会った瞬間から始まるものだと思うんです。音楽もそうですが、好きなものって理屈じゃないですよね。出会って、生まれる空気や感情は、理屈では動かせない。その場で交わされる空気や感情を無視して、頭で考えたことだけを優先していくと、少しずつ心が離れていってしまう気がする。そこに生まれているもの、感じているものを大切にしながら、人と一緒に作品が作れたら、とてもうれしいですね。(後編に続く)

朝日新聞telling,(テリング)

H&M :Yuko Aika 秋鹿裕子
Sytlist :Aya Tanizaki 谷崎彩

■塚田智恵美のプロフィール
ライター・編集者。1988年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後ベネッセコーポレーションに入社し、編集者として勤務。2016年フリーランスに。雑誌やWEB、書籍で取材・執筆を手がける他に、子ども向けの教育コンテンツ企画・編集も行う。文京区在住。お酒と料理が好き。

■家老芳美のプロフィール
カメラマン。1981年新潟生まれ。大学で社会学を学んだのち、写真の道へ。出版社の写真部勤務を経て2009年からフリーランス活動開始。

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