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英語版の声優に日本のキャストが起用された理由とは?新作ゲーム『WILD HEARTS』が追及した多様性の描き方をミラクル・ベル・マジックが語る【インタビュー】

  • 2023.4.12

人種などのレプリゼンテーションを適切に反映しようという動きがゲーム業界にも広がっている。日本を舞台にしたゲーム『WILD HEARTS』の英語版の声優陣に集結したのは、日本にゆかりのあるキャストたち。メインキャラクターの1人である、なつめ役に抜擢されたアーティストのミラクル・ベル・マジックに、声優として初の演技に参加した経緯をインタビューし、あえて日本語っぽいアクセントで収録するなど、言語の面でもレプリゼンテーションが反映された同作のレコーディングについて話を訊いた。(フロントロウ編集部)

ミラクル・ベル・マジックが英語版『WILD HEARTS』なつめ役に抜擢

人種やジェンダー、セクシャリティなど世の中の多様性を、ドラマや映画、広告などで適切に描くことを意味するレプリゼンテーション(表象)。近年、映像業界などで耳にすることが増えた言葉で、海外では映像作品のキャスティングやその舞台裏を支える製作スタッフに適切なレプリゼンテーションを反映させる動きが高まっているが、その動きはゲーム業界にも広がり始めている。

画像: ミラクル・ベル・マジックが英語版『WILD HEARTS』なつめ役に抜擢

その旗手とも言えるのが、2023年に発売された『WILD HEARTS』。中世の日本を舞台に、古の技術「からくり」を駆使して自然の力を手に入れた巨大な獣を相手に戦うというハンティング・ゲームなのだが、画期的なのは、登場人物たちに声をあてる声優陣の顔触れ。日本を舞台にした作品ということで、英語版の声優陣にも、きちんと日本にちなんだキャストが起用され、役によっては日本語のアクセントで英語を話している。

自らも浪人である大堂寺氏繁役で出演する俳優の松崎悠希がディレクターを務め、鍛冶師のなつめ役にアーティスト/動画クリエイターのミラクル・ベル・マジック、学者の鈴蘭役にシンガーのクリスタル ケイ、さらには俳優のケイン・コスギなど、声優陣は日本にゆかりのあるキャストで固められている。そしてこちらもユニークなのが、登場人物の話す英語。役によっては、あえて日本語っぽいアクセントを残した英語を話すというものになっていて、英語の発音という部分にまで、リアルなレプリゼンテーションが反映されている。

フロントロウ編集部では、本作が声優デビューとなった、なつめ役のベルことミラクル・ベル・マジックにインタビューを実施。独学で英語を学んできたベルは、ゲーム内でプレイヤーに武器を提供する鍛治師という重要な役どころに抜擢されたことは、キャリアにおける「ビッグステップ」になったと振り返る。

画像1: Photo:Takuo Arai Costume:Tamatebako

今までだったらそういうキャラクターがいても、チャンスすら回ってこなかったのではないかな?と思う」と語るように、レプリゼンテーションを反映しようとする動きが高まっている今だからこそ得られたチャンスだったと考えているという彼女に、自身の英語観やキャリアの展望にまで影響を与えることになったという、『WILD HEARTS』のレコーディングについて話を訊いた。

日本を描いたゲームだからこそ“英語”にもレプリゼンテーションが反映

今回のゲームの舞台は、中世の日本に基づいた「あづまの国」となっています。日本を舞台にしているということで、英語版の声優陣にも日本にちなんだキャストが起用するという、レプリゼンテーションが反映されています。こうした点については、ベルさんのなかでどのように捉えていますか?

日本人の1人の表現者としてシンプルに嬉しいです。今までだったらそういうキャラクターがいても、チャンスすら回ってこなかったのではないかな?と思うのですが、自分に似た顔のキャラクター、国籍のキャラクターを自分が演じられるチャンスが回ってきたというのが、すごく嬉しかったです。このゲームは映像でも日本の美しさがたっぷり詰め込まれているんですが、言葉の面もそうで、英語版でも、日本語の言葉がいっぱい入っているんですね。それから、春夏秋冬の四季にちなんだ名前がつけられた場所もあって。日本の美しさが詰まっているから、それをちゃんと日本で生まれ育ったこの魂を通して伝えられるっていうのが、やっぱりすごく嬉しいなって思いましたね。

画像: なつめについて、「すごく私に似ているなって思う部分が多くて、本当はワーッて子どもっぽくなっちゃったりとか、『これ大好き!』とか『何それ! 私に見せて!』みたいな、そういうなんかワチャワチャしたりする子なんだけど、でも鍛冶師として『私はハンターたちを支えないといけないから』っていうので、大人っぽいのを装っているっていう感じの女の子です」とベル。
なつめについて、「すごく私に似ているなって思う部分が多くて、本当はワーッて子どもっぽくなっちゃったりとか、『これ大好き!』とか『何それ! 私に見せて!』みたいな、そういうなんかワチャワチャしたりする子なんだけど、でも鍛冶師として『私はハンターたちを支えないといけないから』っていうので、大人っぽいのを装っているっていう感じの女の子です」とベル。

日本語の言葉が登場するということですが、その日本語をセリフとして話すときは、ネイティブの日本語話者としての日本語になっているのですか? それとも、ネイティブの英語話者の方が話すような日本語になっているのでしょうか?

そこも面白くて、完全に日本人が話す日本語なんです! ゲームには「獣」とか「刀」、「和傘」、「ありがとう」とか、いろんな日本語が出てくるんですけど、その直前までは英語を喋っていても、「ありがとう」は日本語発音に切り替えるんです。そこも大変だった部分で、最初は切り替えるのがすごく大変でした。どうしても、「kemono」みたいに、英語発音になってしまうんですよ。氏繁さんというキャラクターを呼ぶときも、「Ujishige-San」じゃなくて、「氏繁さん」っていう日本語の発音にする必要があって、例えば、「Please save, 氏繁さん」みたいな。その部分だけ、グッと日本語に切り替えるんです。そういう部分への制作陣のこだわりが強くて、日本語の言葉はしっかり日本語として言ってほしいっていう。そこは楽しかった部分でもありますね。

画像1: 日本を描いたゲームだからこそ“英語”にもレプリゼンテーションが反映

ネイティブの英語話者の方が聞いて、ネイティブの日本語話者の「日本語」だとハッキリ分かるような発音ということですよね。例えば日本で聞く英語で言ったら、カタカナっぽい「サンキュー」ではなく、「Thank you」みたいな。

そうです! ハリウッド映画で言うと、過去の作品には日本人役が出てきても、日本語発音っぽくない日本語を喋っているみたいなことがあったと思うんです。これはディレクターもおっしゃっていたことなんですけど、日本の言葉はそのまま美しく日本語として伝えたいっていう。そこもすごくこだわっていたポイントです。

画像2: 日本を描いたゲームだからこそ“英語”にもレプリゼンテーションが反映

それから、とにかく日本の世界観が本当に美しく反映されていて。春霞の古道という場所があって、そこに綺麗な桜の木があるんです。その桜の木というのは、なつめにとってお父さんとの思い出が詰まった木で、「一緒に素材の採集に行ったあとに立ち寄って、一緒に眺めていた木だから、私の思い出が詰まっている木なの」みたいなことを言うシーンがあって。桜が咲くのは日本では卒業や入学のシーズンということもあって、日本の人って誰しもが桜に思い入れがあると思うんです。もちろん、私にとっても桜にはいろんな思い出があって。そういう思いを持ちながら、「桜」っていう言葉を喋るからこそ、なつめのそういう思いが伝わるんじゃないかなって思います。なのでそういう意味でも、そういう日本らしいものに対して自分も思い入れを持って喋ることができるので、今回のようなキャスティングにしてもらえて良かったなと思いますね。

ベルが声を担当している、ゲーム内でのなつめの映像。

英語版でプレーしている海外のプレーヤーからの、セリフに対するリアクションというのは、ベルさんのところにも届いていますか?

最近もいろんなメッセージが届くのですが、「なつめの『ありがとう』が可愛い」っていうことを伝えてくれますね。「『ありがとう』が本当にキュートだね」みたいな。“ありがとう”は普段からとても大切にしている言葉ですし、自分の日本人らしさが武器になった瞬間のような感じがして、すごく嬉しかったです。

画像3: 日本を描いたゲームだからこそ“英語”にもレプリゼンテーションが反映

日本語っぽいアクセントを残したことが英語観にも影響を与えた

ところで、なつめ役はベルさんにとって声優への初挑戦となりました。役に決まったときの心境について教えていただけますか?

最初はびっくりしかなかったです。私は声優の経験もありませんでしたし、お芝居に関しても、自分の動画や自分の舞台では、自己流で自分が作ったキャラクターを演じていたけど、プロの現場で、プロの方々に混ざって参加するっていうのは経験がなかったので。それから、自分の声のパフォーマンスもちょっと不安だった時期だったので、最初は喜びよりもちょっと不安が大きかったかもしれないですね。だから収録までの間は、1人でホテルに泊まりに行って、そこで台本と見つめ合って夜通し読み続けるなどしました。もうこの世界にいるようでいないような、バトルフィールドフィールドに出て、戦に向けて準備しているみたいな気分でしたね。心境としては、「戦に出るぞ!」って感じでした。

画像: 収録は日本のスタジオで実施。世界的な作品らしく、収録中はZoomで世界各国の制作スタッフが同席した上で行なわれたという。
収録は日本のスタジオで実施。世界的な作品らしく、収録中はZoomで世界各国の制作スタッフが同席した上で行なわれたという。

ベルさんもおっしゃったように、今回は声優こそ初挑戦でしたが、“演技”というのは活動を通じてずっと中心にあったことだと思います。それこそ、独学での英語学習方法もある意味では演技と関連した部分があったと思いますが、これまでどのようにして英語を学ばれてきたか、改めて教えていただけますか。

自分の“好き”という気持ちを追求した学び方という感じでしょうか。自分の好きなものって、無限に追いかけられますよね。それに触れている時間って、ただただ幸せでしかない時間だと思います。私はすごく英語が大好きで、本当にその熱がものすごかったので、勉強したっていうよりは、その“好き”をただ追い続けてきたっていう感じです。映画とかドラマが大好きなので、高校生の頃から海外ドラマとかをずっと観ていました。日本にいても海外にいるんじゃないっていうぐらいのレベルで英語をインプットしまくるっていう、耳で聴き続けるっていう方法が1つですね。

画像1: 日本語っぽいアクセントを残したことが英語観にも影響を与えた

あとは、私、妄想がすごく好きで。今でもそうなんですけど、1日の中で現実世界に自分の脳がいる時間よりも、多分妄想の中で過ごしている時間のほうが長いんですよね。その妄想の中で、英会話をするんです。妄想の中に、相手の人物を登場させて、1人で英語を話すんです。相手があんなこと言いました、だから私は実際に口に出して返事をして、そしたら相手からはこう返ってきました、みたいな。今でもそうやって取り組んでいるんですけど、すごく良い練習法だなと思っています。頭の中だけで完結するのではなくて、ちゃんと英語を口に出すという方法です。妄想の中なんだけど、独り言として話すっていう。私が出した『英語が話せる人はやっている 魔法のイングリッシュルーティン』っていう本でも、“独り言”っていうのがキーワードになっています。独り言で、とにかく喋りまくる。でも、ただただ喋るのは楽しくないから、そうやって妄想の世界とか、自分が楽しい気分に慣れることと必ず何かリンクさせて、自然に練習するっていう感じで英語学習をやってきました。

独り言での学習のなかでも、海外ドラマなどでの英語を通じての学習だと特にそうだと思うのですが、発音する際は無意識にでも、ネイティブな英語の発音を心がけるものだと思います。今回、『WILD HEARTS』の収録を通じて、あえて“ジャパニーズ・イングリッシュ”で臨まれたことで、ご自身の英語観というものに変化はありましたか?

とても変わったと思います。最初にディレクターから言われたのが、「アクセントは個性だよ」ということでした。私はどうしても自分の感覚として、“完璧=アメリカン・アクセント”っていうふうに思っていたところがありました。自分が喋っているのを聴き返したときとかに、少しでも日本人っぽい感じの発音が入っていたりすると、「うーん」みたいな感じで思っていたし、英語を話す上で、いかに日本人らしさをなくせるかを、すごく考えながらやってきたところがあって。今回も、そういうふうに言われたところで、やっぱり最初は、「そうは言っても、それを聞いた人から“ベルの英語はヘタ”って思われたくないな」みたいに、ちょっと思っちゃったんですよね。

画像2: 日本語っぽいアクセントを残したことが英語観にも影響を与えた

でも、ディレクターさんがおっしゃっていたのが、「逆に僕たち役者からの英語からジャパニーズ・アクセント取ったとして、そしたらもう僕たちじゃなくて良くなってしまう」ということで。「このアクセントがあって、このルーツがあるからこそ、キャラクターがユニークになる、つまり自分たちの英語がユニークになる。だから、それは消そうと思うものじゃなくて、誇りを持っていいもの」っていうふうに言ってくださって。

そこから収録を進めていくにつれて、本当にそうだなっていうふうに思うようになっていきました。以前までは、発音に日本人っぽさがあったら恥ずかしいとか思っていたところが、今では逆に、「これも自分の個性で、強みなんだから、もしいずれ私がハリウッド映画に出たとして、どこかの英語でのインタビューに呼ばれたら、堂々とジャパニーズアクセントで喋ろう」っていうふうに思うようになったんです。「だって、そういうのが可愛いんじゃん!」って。ユニークになるし、自分だけの英語になるし。なので、英語観というのはすごく変わりましたね。

画像3: 日本語っぽいアクセントを残したことが英語観にも影響を与えた

それから、この話と関連して個人的にすごく好きだったのが、英語で言う「Oh」とか、「Ah」みたいな感嘆詞が、今回は日本語なんです! 例えば、「あ!」みたいな。「あ! You’re here!」みたいな、台本からそういうセリフになっていて。それがすごく可愛いというか、良いなと思って! 私は普段から「あ!」も言うし、「へえ〜」とか、「ん〜」とか「あ〜」とか、よく使うんですけど、英語を喋っているときに「へえ〜」とか出てくるのは変だと思っていたから、“じゃあ、これをどうやって英語に変換したらいいんだろう?”って考えていたんです。でも、今回は台本がそういう感嘆詞になっていたことで、「これで良いんじゃない?」って思えてきて。今では、英語で喋るときにも日本語の感嘆詞を混ぜて話しています。そういうところの考え方も変わりました。すごく(英語に対する考え方が)自由になったし、今までは、捨てなくても良い部分を捨てていたなって思います。日本語のアクセントとか、日本語の感嘆詞も素敵だよねっていう風に世界に思ってもらえたらいいなって思うし、『WILD HEARTS』がそういうことを担ってくれているような感じがしますね。

レプリゼンテーションはハリウッドへの進出を助けてくれるもの

ベルさんの活動というところについてもお訊きしたいのですが、独学でずっと勉強されてきた英語がついに今回のなつめ役のキャスティングにまで繋がったというのは、これまで色々なことにチャレンジされてきたベルさんにとっても、キャリアにおける1つのマイルストーンになったのではと思います。ベルさんがこれまで目指していた到達点があるとして、今回のお仕事は目標地点までの道のりの、何%くらいの地点にあるものなのでしょう?

今は30〜40%くらいかなと思います。私は映画を観るのも好きだけど、やっぱりその中に入りたいという気持ちがすごく強くて。これは、今回『WILD HEARTS』を経験してから強くなった思いでもあるんですけど、ハリウッドの映画に出たい、今までは妄想の中で過ごしていたその世界に足を踏み入れたいっていう気持ちがすごく強くなりました。今回がその第一歩になったのかなって思っています。それまでは20%だったのが、40%くらいまでビッグステップで進めたかなっていう感じはしつつも、まだまだやりたいことはたくさんあります。

そのように現在進行形でハリウッドへの進出を目指されているなかで、ベルさんの肌感覚として、『WILD HEARTS』のキャスティングに見られるようなレプリゼンテーションの高まりというのは、世の中を適切に反映するだけでなく、ご自身のチャンスを広げてくれるもののように感じていますか?

私自身は、その世界にいたわけじゃないし、俳優としてやってきたわけではないので、以前とは違うっていうことを言えるわけではないのですが、でも周りの話を聞いたりとか、自分が“さあ目指そう”って思ったりしたときに、可能性がハッキリと見えるようになったんじゃないかなっていうのは思います。以前までの世界は、自分を目標に合わせて変えるっていうことが必要な世界だった気がするんです。日本人でハリウッド女優になりたいのなら、ハリウッドが求めてきた日本人女優っぽくならないといけないみたいな。でも、今の世界って、そのままでもゴールまで到達できるかもしれない可能性が広がっている世界になったなって思うんです。

画像2: Photo:Takuo Arai Costume:Tamatebako

今回のジャパニーズ・アクセントもそうですし、今はもう、生まれ持ったその感性をそのまま出してくれって言ってくれる世界になりつつある。それって表現者としても嬉しいことだなって思うし、『WILD HEARTS』に限らず、今ではいろんなところのキャスティングで、そうなってきていますよね。「そのままでいいよ」って、「そのままのあなたを見せてよ! それがユニークなんだから」っていう。そして、そのまま主役にもなれちゃうわけです! すごく嬉しいですし、素晴らしいことだなって思います。

『WILD HEARTS』
プレイ可能機種:PlayStation5、Xbox Series X|S、Origin、Steam、Epic Games Store
発売中

画像: レプリゼンテーションはハリウッドへの進出を助けてくれるもの

(フロントロウ編集部)

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