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児玉雨子のきょうも何かを刻みたくて|Menu #12

  • 2023.4.5

「生きること」とは「食べること」。うれしいときも、落ち込んだときも、いそがしい日も、なにもない日も、人間、お腹だけは空くのです。そしてあり合わせのものでちゃっちゃと作ったごはんのほうがなぜか心に染みわたる。作詞家であり作家の児玉雨子さんが書く日々のできごととズボラ飯のこと。

水1リットルに対し、昆布と鰹節各5gを水出ししただし汁を使う。卵4つを溶いたボウルに、だし汁大さじ5、醤油小さじ2、みりん大さじ1、塩ひとつまみを混ぜ、卵焼き器で焼く。だしが多すぎると崩れやすいので注意。

料理は化学。失敗と進歩と、ふとした奇跡。

料理の連載をしていながら、実はほとんどだしを引いたことがなかった。両親は共働きでそこまでこだわる余裕がなく、味噌汁の作り方も顆粒だしで教わった。文明の利器には頼れるだけ頼りたいというスタンスは変わらず、うま味調味料は決して悪者じゃないということは強調したい。

さて、ここ数年の血液検査の結果でLDLコレステロール値が平均よりやや高い数値が続いてしまった。気になって両親に数値についてそれぞれ訊いてみたところ親も上がりやすいらしく、ひょっとしたら遺伝的な影響もあるかも、という話に。コレステロール値が高くなりやすい体質で、しょっぱいものを好んで食べていたら、今は問題なくても将来の血管がちょっぴり心配になってきた。

大きく何かを制限するほどではないので、まずは毎日の食事の塩分量を減らすため、だしを見直すことに。顆粒だしは楽な分、ついサラサラと入れすぎてしまう。そこで最寄りの無印良品でピッチャーを買い、だしの水出しを始めることにした。

水を入れたピッチャーに昆布とだしパックに包んだ鰹節(スーパーで安かったものを買ったので、種類は不明)をそっと入れ、蓋をして冷蔵庫で一晩寝かせるだけ。煮出すよりも水出しはあっさりした風味になるそうだ。

翌朝、さぁ今日から減塩健康生活の始まりだ、と意気揚々と味噌汁を作ってみたが、ほとんど味がしない。塩を抜いた海水を飲んでいるような……。焦ってスマホで「だし 味がしない」と検索する。ヒットした知恵袋のレスに「あなたがしょっぱいものに慣れすぎているだけ」と書かれている。うま味調味料アンチが書いたものかもしれないが、確かに濃い味に慣れてしまっているのも否めない。

早いうちから包丁を握っていたと自負していたが、その割にこの歳にもなって味噌汁もまともに作れないのか?こんなので食エッセイなんか書いて、詐欺じゃないのか?と深く落ち込んだが、へこたれず昆布や鰹節の配合を調整したりみりんを混ぜたりして、日々夏休みの自由研究のような気持ちで記録を取っている。とはいっても毎日薄い味噌汁ばかりで飽きてきてしまったので、気分転換にだし巻き玉子を作ってみた。するとあれだけ薄くて困っていただしが、いきなりおいしく香り立った。な、なぜ……?未だに何がどう作用したのかわからないが、それはこれからも水出しだしの研究を重ねて解明してゆくしかない。

児玉雨子 作詞家、作家

アイドルグループやテレビアニメなどに作詞を提供。小説『誰にも奪われたくない/凸撃』発売中。

photo & text : Ameko Kodama edit : Izumi Karashima

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